苦役甦す莇
Another:Episode14 Eggs'n Things
ティフォルの過去を覗いたニャルマは、彼の罪が冤罪であったことの確証を得た。
「なるほど......でも、彼はこっちの世界の人間なんだよね? 彼がこっちの世界の言葉を理解出来ず、そして話せないのはナゼ?」
「本来なら、彼はこちらの世界の言葉を理解し、話せるはずなんだ。だけど、転移の衝撃で脳の言語野辺りに負荷がかかったのだろう。そこでこちらの世界の言葉を失い、その失った部分を君が向こうの世界の言葉で埋めてしまった。だから彼は、こちらの世界の人間にも関わらず、こちらの世界の言語を話せない。
昔こんな話を聞いたことがある。A国とB国で戦争をしていた。その戦争はA国の勝利に終わったが、A国からは複数名の捕虜が出ていた。
B国軍に捕らえられたA国の捕虜達は、その後暫くB国で暮らすこととなった。これはA国が捕虜返還を要求しにいくことは、B国に弱みを見せるだけだと思ったからだ。
そしてB国で暮らすこととなった少数のA国民は、言語Aを使う機会は無くなり、言語Bに囲まれた生活をしていくうちに、やがて言語Aを忘れ、言語Bしか話せなくなった。
つまり、この話における少数のA国民はティフォルで、言語Bに囲まれた生活に順応していくように仕向けたのは何を隠そう君、ニャルマなんだよ。」
「そんな......」
「何も悲観することは無い。寧ろ君は素晴らしい事を成し遂げたと称されるべきだ。君は話せなくなった彼を、普通に話せるレベルにまで戻したのだから。」
「......でも彼は......何も悪いことをしていないのに......どうして死ななくちゃ......」
「彼が友人を死なせてしまったと思い込んでいるからだ。だから彼は自分を許せない。だから彼は死を甘んじて受け入れようとしている。」
「だって......本物のレーアは私達が今追っているゴクと融合した男なんでしょう? 彼と会ってしまったら......彼はどうなってしまうの?」
「さぁな......だが少なくとも、私は強制的にでも彼に殺させるつもりだがね......」
「どういうこと?」
「彼に埋め込んだパラサイトシード......あれは私の体の一部の細胞を持っていて、私はあれを脳波コントロール出来る。つまり、ティフォルはあの選択をした時点で、既に私の操り人形になったってことさ......」
「ミカ......貴女......」
「はっはっはっ......万が一パラサイトシードが不完全で、脳波コントロールが利かなかったとしても、あの首輪を爆破すれば簡単に処理できる。ニャルマ......バカとハサミは使いようだよ?」
「なんてこと......なんてことを!」
ニャルマはミカのあまりにも非道な行いに対して怒りを覚え、感情のまま彼女の襟首を鷲掴みにし、部屋の壁に背中をドンと押し付けた。
「おいおい......よしてくれよ......服にシワがついちゃうじゃないか......」
「貴女! 自分が何をしたか分かってるの!? 貴女は今! 命を弄んでるのよ!? どうしてそんなことが出来るの!」
「はっ! 何を言うかと思えばニャルマ、そんなしみったれた説教をそのお口から吐き出すとは......些か幼稚なんじゃないか?」
「なんですって!?」
「よく思い出したまえよ。あの選択をしたのはティフォル自身だぜ?」
「その選択の原因となった痛みを与えたのは、元を辿れば力を解放した貴女でしょ!」
「あれは彼が言ったように、彼が弱いのが悪かったんだ。それほどまでに病院の男は強かった。手段を選んでいる暇が無かったんだよ......私達にはね。
それに、あの場で私が力を解放していなければ、彼の墓標はあの病院の庭になっただろうさ。私は彼を延命してあげただけさ。それがどうして責められなくちゃいけないんだ?」
「ああ言えばこう言う! そんなの貴女が直接助けてあげれば良かっただけの話じゃない! どうして貴女は彼の戦いを見ているだけで、懐手をしてのんびりしているの?」
「はっはっはっ......それは私が選ばれた人間だからという、絶対的かつ究極的な回答を与えようじゃないか。アーハッハッハッハッハッハハハハハハハハ!」
「何が面白いの!」
堪忍袋の緒が切れたニャルマは、とうとうミカに平手打ちを食らわせた。その瞬間、パチンと甲高い乾いた音が部屋に鳴り響き、そしてミカの笑い声は止まった。
「ニャルマ......君は私の事を理解してくれていると思っていた。私は君の培養槽作成を初めとする様々な研究に理解を示し、君は私の魔具錬成を初めとする様々な魔法に理解を示してくれた。
だが、違ったようだな。君もまた『つまらない道徳』とやらに縛られた、飛べない鳥らしい。残念だよ。」
「......『つまらない道徳』ですって......? 良い科学者こそ、貴女が言うその『つまらない道徳』が必要なんだ!」
「そうかいそうかい。ならやはり、魔法と科学は相反するな。何故なら良い魔法使いほど『つまらない道徳』を捨て去っているのだから。」
ミカは平手打ちされた際に床に落としたカタログを拾い上げ、先程まで見ていたページをもう一度眺めた。
「だからこそ......欲しくなるっ!」
その小さなミカの呟きは、ニャルマの耳に入る事は無かった。
俺は取り敢えず、卵を村から離れている場所にまで移動させる為、ゴクから『シルクキャッチャー』という道具を借りて、卵を傷つけることなく、村の外れにある草原まで移動させた。
「取り敢えずこんなもんか......って、ん?」
「どうしたサイ?」
「敵意磁針が振れてる......今俺に敵意を向けてるもの......20......いや、もうちょい多い。」
「なるほど......この卵を狙ってきた野生動物か......しかもかなり獰猛で群れで来ているときたもんだ......どうする?」
「卵を守らないといけない義理は無いと言えば無いが、ここでこの卵を見捨てちまうって事も出来ねぇ。」
「なるほど。じゃあ道具は貸すぜ。」
ゴクは俺にいつものように道具を渡してきた。その道具は今までの道具とは違い、見ただけで触っただけで攻撃を目的としたものと分かった。
「ゴク......こりゃなんだ?」
「これは『不知火』っていう一振りの剣だ。しゃーねぇから、今回だけレベル3を貸してやる。」
「レベル3......? 街一つ消し飛ばせるレベルじゃねぇか!」
「よく聞け。この『不知火』はレベル3の力を秘めているが、それは『使うべき者』が使った場合、レベル3の力に達する、若しくはそれ以上にまで発展するという意味で、お前が『使うべき者』では無かったなら、この『不知火』は『ただの斬れ味の良い剣』でしかない。
つまりこの剣は握る者によってはレベル2よりちょっと下くらいまで落ちるんだ。俺は今から、お前を試してみようと思う。お前は『不知火』を『使うべき者』なのかどうかを。」
「なるほどね......よォくわかった。」
俺は不知火を握り、大きな卵によじ登り、その卵の上に立った。すると、叢からワラワラと何匹かの狗のような生き物が姿を現した。
「にぃしぃろくはちじゅう......敵意磁針が示したとおり大体20匹ってとこだな。」
俺は剣を両手で握り、ふぅ......と一つ深呼吸してみた。すると頭の芯が程よく冷えて、何やらシンと心が冴えたような気がした。
「はぁ!」
と、気合いを込めて狗達がいる方に向けて一閃。すると剣から炎が放たれ、狗達を叢ごと焼き尽くした。
「おぉ......お前は『使うべき者』だったか。素晴らしい......これからは、お前に見合った道具の数も増えるってわけだな。」
「ありがとよ......ん?」
ゴクからの賞賛を受け、俺は素直に感謝の言葉を述べたが、直後、焼き払った叢に何やら異変が起きてるような気がした。
「なんだ......?」
俺は気になり、卵から飛び降りて、近づいて様子を伺ってみた。炎は空気中の酸素を使って轟々と燃え上がり、その中には狗達の死骸の影が見えた。
炎の中には違和感は無い。しかし、違和感は炎の外にあった。本来ならもっと燃え広がってもいいハズの炎は、一切燃え広がらず、今燃えてる炎の周り数センチだけ綺麗に草が無くなっているのであった。
「なんだこれ......? おかしくねぇか? こんな綺麗にサークル状に草が無くなってるなんて......どういうことだ?」
俺はその謎の溝を辿って行ってみた。すると、その溝はただの円状についているのではなく、上空から見た時、円の中に更に模様が入っている感じで、溝が炎の中にまで伸びていた。
「なんだこりゃ......? 魔法陣?」
俺がその答えにたどり着いた瞬間、今まで燃えがっていた炎は、いきなり球状となって宙に浮かび、その炎の中には沢山の狗の死骸が巻き込まれていた。
「おっと......こりゃお前が『使うべき者』だったが故の『嬉しくない誤算』って奴かもしれないな......」
「ゴクどういうことだ?」
「実は『不知火』は生命を司る剣で、その司る力には『生命力を与える』という側面が備わっている。それは『聖なる炎』と『蘇生の魔法陣』によって行われんだが、これはその状況に酷似してる......つまり、今お前が薙ぎ払った狗のような生き物が、今一つに......!」
ゴクの言ってる事は当たっていた。轟々と燃え盛る火球の中で、灰燼と化した狗の死骸は一つの大きな狼の影を形作った。
そして、その火球が眩い閃光と物凄い熱風を撒き散らして霧散した後、その『俺が生み出してしまった化け物』は姿を現した。
「マジかよ......」
「なるほど......でも、彼はこっちの世界の人間なんだよね? 彼がこっちの世界の言葉を理解出来ず、そして話せないのはナゼ?」
「本来なら、彼はこちらの世界の言葉を理解し、話せるはずなんだ。だけど、転移の衝撃で脳の言語野辺りに負荷がかかったのだろう。そこでこちらの世界の言葉を失い、その失った部分を君が向こうの世界の言葉で埋めてしまった。だから彼は、こちらの世界の人間にも関わらず、こちらの世界の言語を話せない。
昔こんな話を聞いたことがある。A国とB国で戦争をしていた。その戦争はA国の勝利に終わったが、A国からは複数名の捕虜が出ていた。
B国軍に捕らえられたA国の捕虜達は、その後暫くB国で暮らすこととなった。これはA国が捕虜返還を要求しにいくことは、B国に弱みを見せるだけだと思ったからだ。
そしてB国で暮らすこととなった少数のA国民は、言語Aを使う機会は無くなり、言語Bに囲まれた生活をしていくうちに、やがて言語Aを忘れ、言語Bしか話せなくなった。
つまり、この話における少数のA国民はティフォルで、言語Bに囲まれた生活に順応していくように仕向けたのは何を隠そう君、ニャルマなんだよ。」
「そんな......」
「何も悲観することは無い。寧ろ君は素晴らしい事を成し遂げたと称されるべきだ。君は話せなくなった彼を、普通に話せるレベルにまで戻したのだから。」
「......でも彼は......何も悪いことをしていないのに......どうして死ななくちゃ......」
「彼が友人を死なせてしまったと思い込んでいるからだ。だから彼は自分を許せない。だから彼は死を甘んじて受け入れようとしている。」
「だって......本物のレーアは私達が今追っているゴクと融合した男なんでしょう? 彼と会ってしまったら......彼はどうなってしまうの?」
「さぁな......だが少なくとも、私は強制的にでも彼に殺させるつもりだがね......」
「どういうこと?」
「彼に埋め込んだパラサイトシード......あれは私の体の一部の細胞を持っていて、私はあれを脳波コントロール出来る。つまり、ティフォルはあの選択をした時点で、既に私の操り人形になったってことさ......」
「ミカ......貴女......」
「はっはっはっ......万が一パラサイトシードが不完全で、脳波コントロールが利かなかったとしても、あの首輪を爆破すれば簡単に処理できる。ニャルマ......バカとハサミは使いようだよ?」
「なんてこと......なんてことを!」
ニャルマはミカのあまりにも非道な行いに対して怒りを覚え、感情のまま彼女の襟首を鷲掴みにし、部屋の壁に背中をドンと押し付けた。
「おいおい......よしてくれよ......服にシワがついちゃうじゃないか......」
「貴女! 自分が何をしたか分かってるの!? 貴女は今! 命を弄んでるのよ!? どうしてそんなことが出来るの!」
「はっ! 何を言うかと思えばニャルマ、そんなしみったれた説教をそのお口から吐き出すとは......些か幼稚なんじゃないか?」
「なんですって!?」
「よく思い出したまえよ。あの選択をしたのはティフォル自身だぜ?」
「その選択の原因となった痛みを与えたのは、元を辿れば力を解放した貴女でしょ!」
「あれは彼が言ったように、彼が弱いのが悪かったんだ。それほどまでに病院の男は強かった。手段を選んでいる暇が無かったんだよ......私達にはね。
それに、あの場で私が力を解放していなければ、彼の墓標はあの病院の庭になっただろうさ。私は彼を延命してあげただけさ。それがどうして責められなくちゃいけないんだ?」
「ああ言えばこう言う! そんなの貴女が直接助けてあげれば良かっただけの話じゃない! どうして貴女は彼の戦いを見ているだけで、懐手をしてのんびりしているの?」
「はっはっはっ......それは私が選ばれた人間だからという、絶対的かつ究極的な回答を与えようじゃないか。アーハッハッハッハッハッハハハハハハハハ!」
「何が面白いの!」
堪忍袋の緒が切れたニャルマは、とうとうミカに平手打ちを食らわせた。その瞬間、パチンと甲高い乾いた音が部屋に鳴り響き、そしてミカの笑い声は止まった。
「ニャルマ......君は私の事を理解してくれていると思っていた。私は君の培養槽作成を初めとする様々な研究に理解を示し、君は私の魔具錬成を初めとする様々な魔法に理解を示してくれた。
だが、違ったようだな。君もまた『つまらない道徳』とやらに縛られた、飛べない鳥らしい。残念だよ。」
「......『つまらない道徳』ですって......? 良い科学者こそ、貴女が言うその『つまらない道徳』が必要なんだ!」
「そうかいそうかい。ならやはり、魔法と科学は相反するな。何故なら良い魔法使いほど『つまらない道徳』を捨て去っているのだから。」
ミカは平手打ちされた際に床に落としたカタログを拾い上げ、先程まで見ていたページをもう一度眺めた。
「だからこそ......欲しくなるっ!」
その小さなミカの呟きは、ニャルマの耳に入る事は無かった。
俺は取り敢えず、卵を村から離れている場所にまで移動させる為、ゴクから『シルクキャッチャー』という道具を借りて、卵を傷つけることなく、村の外れにある草原まで移動させた。
「取り敢えずこんなもんか......って、ん?」
「どうしたサイ?」
「敵意磁針が振れてる......今俺に敵意を向けてるもの......20......いや、もうちょい多い。」
「なるほど......この卵を狙ってきた野生動物か......しかもかなり獰猛で群れで来ているときたもんだ......どうする?」
「卵を守らないといけない義理は無いと言えば無いが、ここでこの卵を見捨てちまうって事も出来ねぇ。」
「なるほど。じゃあ道具は貸すぜ。」
ゴクは俺にいつものように道具を渡してきた。その道具は今までの道具とは違い、見ただけで触っただけで攻撃を目的としたものと分かった。
「ゴク......こりゃなんだ?」
「これは『不知火』っていう一振りの剣だ。しゃーねぇから、今回だけレベル3を貸してやる。」
「レベル3......? 街一つ消し飛ばせるレベルじゃねぇか!」
「よく聞け。この『不知火』はレベル3の力を秘めているが、それは『使うべき者』が使った場合、レベル3の力に達する、若しくはそれ以上にまで発展するという意味で、お前が『使うべき者』では無かったなら、この『不知火』は『ただの斬れ味の良い剣』でしかない。
つまりこの剣は握る者によってはレベル2よりちょっと下くらいまで落ちるんだ。俺は今から、お前を試してみようと思う。お前は『不知火』を『使うべき者』なのかどうかを。」
「なるほどね......よォくわかった。」
俺は不知火を握り、大きな卵によじ登り、その卵の上に立った。すると、叢からワラワラと何匹かの狗のような生き物が姿を現した。
「にぃしぃろくはちじゅう......敵意磁針が示したとおり大体20匹ってとこだな。」
俺は剣を両手で握り、ふぅ......と一つ深呼吸してみた。すると頭の芯が程よく冷えて、何やらシンと心が冴えたような気がした。
「はぁ!」
と、気合いを込めて狗達がいる方に向けて一閃。すると剣から炎が放たれ、狗達を叢ごと焼き尽くした。
「おぉ......お前は『使うべき者』だったか。素晴らしい......これからは、お前に見合った道具の数も増えるってわけだな。」
「ありがとよ......ん?」
ゴクからの賞賛を受け、俺は素直に感謝の言葉を述べたが、直後、焼き払った叢に何やら異変が起きてるような気がした。
「なんだ......?」
俺は気になり、卵から飛び降りて、近づいて様子を伺ってみた。炎は空気中の酸素を使って轟々と燃え上がり、その中には狗達の死骸の影が見えた。
炎の中には違和感は無い。しかし、違和感は炎の外にあった。本来ならもっと燃え広がってもいいハズの炎は、一切燃え広がらず、今燃えてる炎の周り数センチだけ綺麗に草が無くなっているのであった。
「なんだこれ......? おかしくねぇか? こんな綺麗にサークル状に草が無くなってるなんて......どういうことだ?」
俺はその謎の溝を辿って行ってみた。すると、その溝はただの円状についているのではなく、上空から見た時、円の中に更に模様が入っている感じで、溝が炎の中にまで伸びていた。
「なんだこりゃ......? 魔法陣?」
俺がその答えにたどり着いた瞬間、今まで燃えがっていた炎は、いきなり球状となって宙に浮かび、その炎の中には沢山の狗の死骸が巻き込まれていた。
「おっと......こりゃお前が『使うべき者』だったが故の『嬉しくない誤算』って奴かもしれないな......」
「ゴクどういうことだ?」
「実は『不知火』は生命を司る剣で、その司る力には『生命力を与える』という側面が備わっている。それは『聖なる炎』と『蘇生の魔法陣』によって行われんだが、これはその状況に酷似してる......つまり、今お前が薙ぎ払った狗のような生き物が、今一つに......!」
ゴクの言ってる事は当たっていた。轟々と燃え盛る火球の中で、灰燼と化した狗の死骸は一つの大きな狼の影を形作った。
そして、その火球が眩い閃光と物凄い熱風を撒き散らして霧散した後、その『俺が生み出してしまった化け物』は姿を現した。
「マジかよ......」
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