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苦役甦す莇

マウスウォッシュ

Re:Episode19 Never give up

 その日、その瞬間、世界中の科学兵器及び魔術兵装は、全て沈黙し、ただの鉄くずへと姿を変えた。

 『アックス』に蔓延る『他人を殺す為の武器』は、ナイフなどのごく原初的な武器を除いて、ほぼ全て用を成さなくなってしまった。








 正午、アックスの人間が混乱に陥る中、シュバルは計画をラストステージに移行させようとしていた。


「それでは......『結界』を解く。」

 シュバルは、結界を無効化させるプログラムを実行し、自身に一元化された『結界の魔力源』を書き換えた。


 『ログ』を護っていた大きな結界は大きく歪み、やがて形を保てなくなり、その場から消え失せてしまった。


「......私の理想の完成だ......あとはフラン様の魂を『虚無の辺獄』から救いあげるだけ......」

 シュバルはガードロボットにリニィジスを持たせ、グレイブヤードを後にした。








 同時刻、外に出ていたカエデとソウは、空から結界が消えたのを視認した。


「......ホントにやっちゃったな......」

「うん......結界消えたね......」


 外を仰ぐ2人の所に、サクリがひょっこりやって来た。そして何か言いたそうな目で2人のことを見てきた。


「あれ? サクリさん、どうしたんですか?」


「貴方達が連れて来てくれた『ソウくん』と『アオイちゃん』なんだけど、あの二人が加わった事で、アザムキさんの欠片がほぼ全て集まったと言えるわ。」


「てことは?」


「アザムキさんの復活は近い。そして、恐らく『最後の欠片』と思われる存在の居場所も特定した。」


「それはどこですか?」


「......『キーオート地区』にある『ログ』の議事堂。」


「......それって、多分シュバルとかいう人いますよね? あとジョウジさんの弟も。」


「あぁ......最悪の事態だよ。最後の欠片が、まさか今最も危険なホットスポットにあるとは......」


「大丈夫です。ボクとカエデなら、なんだって出来ます。だって神様の鎧の生まれ変わりと、神様の子供の生まれ変わりなんですから。」


「心配して下さってありがとうございます。でも私とソウは諦めが悪いんです。昔からね。」


「カエデちゃん......ソウちゃん......」


「それじゃ......行ってきます。『転移・キーオート地区 議事堂』!」








 結界が消えた『ログ』。無防備になった非武装地帯を物にしようと、野を超え山を越え海を越え、欲深い『アックス』の国々の連中が我先にと押し寄せてきた。


 そして皆決まって、片手に『ナイフ』を握っていた。化学兵器と魔術兵装を全て無効化された今、唯一使える殺傷能力のあるものだからだ。


 港町の人間や、少し前まで結界があった場所のすぐ近くに住んでいる人間は、『アックス』の国々の強襲に怯えていた。しかし、シュバルはただ1人、その様子をモニターで確認しながらほくそ笑んでいた。


「そうそう......『結界』が消えれば『争いを止められない阿呆』共は自然と寄ってくる......まるでサマキ糖に集る蟻のように......

配置していた全ガードロボット起動......『アックス』の連中を迎え撃て。」


 シュバルが指示を出すと、港町や結界のあった周辺の町に、シュバルが以前から隠しておいたガードロボットが起動。

 起動した直後、近づいてくるアックスの人間及び獣人を認識し、そこに向かって飛翔した。

 アックスの者の前に着地すると、ガードロボットは一瞬にして形状を変え、人型のスーツのような形になり、そのままアックスの連中を丸ごと飲み込んだ。その後元の形状に戻り、アックスの連中を生きたままガードロボットの中に封じ込めることに成功した。


「ククク......争いを止められない阿呆は、私の傀儡として働けばいい......尽きることの無いその闘争本能が、ガードロボットの糧となる......貴様らはガードロボットの電池で充分なのだよ......」


 シュバルの掲げる『真の平和』......それは争いを止められない『アックス』の連中を傀儡として利用し、自身に危害を及ぼす存在を殺すことなく排除。その後にフランを復活させ、自身の理想を完遂させるというものであった。


 そこに、2人の闖入者が現れる。1人は神の鎧。そしてもう1人は神の子である。


「......ルーカ=殊春シュバル・トルシェ!」


「随分と......気安く他人の名を呼んでくれるじゃないか? 色葉 楓イロハ カエデ!」


「な......何故私の名前を......?」


「知ってるさ。8年前のあの日から君の事は密かに観察させてもらってたからな。そして隣にいるのは......桜木 奏サクラギ ソウだろ? 知ってるんだよ何もかも。」


「ボクの名前まで......」


桜木 奏サクラギ ソウ......君は極めて特殊な存在だよ......この世界においてただ1人の神子みこであり、同時に事実上私の孫にあたるのだからね。」


「は......? 何言ってんの......?」


「ホントの事さ。君の旧世界での父親はアザムキ ソウセキ。母親は『サギ』......つまり私の娘だ。」


「え......? 私の......おばあちゃん?」


「君はごくごく特殊な産まれ方をした。前の世界ではまだ産まれておらず、胎児の存在であった。そして母親である『サギ』は君をお腹に宿したまま、新世界のための人柱になった。
君はその曖昧な存在のまま、新世界に突入する事になった。旧世界で産まれることの無かった君の魂は、『ワイズマン』の手によって『桜木 瑠璃』の胎児に宿る事になる。
だから君の魂の元を辿れば、祖母は私なのだよ。新世界では子供を産んでない私が、孫をもつというのは実に奇妙な話だけどね。」


「貴女が......事実上の祖母?」


「転移魔法が得意なのは母親譲りだな。剣を握って戦うのは父親譲りだな。
君は両親の特徴をよく受け継いでいる。」


「ソウ......大丈夫?」

 衝撃を受けて面食らったソウが、少し具合が悪そうな顔をしていたので、カエデは心配しソウの肩を支えた。


「グレイブヤードにてこの情報を知り得た時は、私だって驚いたよ。まさか私に孫が居るなんてな。」


「ありがとうカエデ......ボクは大丈夫。カエデは『最後の欠片』を探しに行って。ボクはコイツと......ケリをつけなきゃいけない気がする。」


「分かった。先に行ってるね。」

 カエデはその場を後にした。そしてソウは自身の運命に決着をつける覚悟を決めた。


「貴女が今してることは『アザムキソウセキ』が望んだ事じゃないハズ。そしてそれは貴女も理解しているハズ。何故このような事をするの?」


「彼が約束を果たせなかったからだよ。だから私が足りない分を補う。そうする事で私の望んだ世界がやって来る。」


「大量の犠牲を出しても? 大人数の自由を犠牲にしても? それほどまでに貴女の望む世界は正しいの?」


「あぁ......正しいよ。レイ! 私の孫の相手をしなさい。私の計画の途上に立ちはだかるのなら、例え孫だろうと関係ないわ。」

 シュバルがレイを呼ぶと、どこからともなくレイが現れ、携えた剣を手に握っていた。


「はいマスター。仰せのままに。」








 一方、最後の欠片を探すカエデ。その探している相手は、意外にも向こうからやって来る事になる。


「こ〜んにちは。神の鎧カエデさん。貴女が探しているのは、多分私の事かな?」


「貴女が......『最後の欠片』......」


「やっぱり......ま、私が最後になった理由はちゃんとあるんだけどね......」


「それは何?」


「宇宙全体に散らばった欠片を、私が全てこの『地球』に集めたの。
疑問に思ったことは無かった? 『なんで宇宙全体に散らばったハズの欠片達が、こんな辺鄙な惑星くんだりに集まったのか』って。」


「そう言われれば......」


「私が最初にこの星に降り立った。そして時間をかけてこの星に集めた。何億年もかかった。それが漸く集まった。」


「何が目的?」


「カンタンだよ。私が『次の神』になる為に、邪魔な他の欠片の人格を、まるっと纏めて全て殺すため。
欠片なら他の欠片を殺せる。だから私が殺してあげる。『一人で生きてきて辛い』とか抜かす弱っちいヤツらばっか。だから私が次の神になるの。」


「他の欠片を殺す......?」


「そうだよ。シュバルの所にいた理由も、その為。サクリ側にいたら、私全員集まるまでガマン出来なくなって途中から殺し始めちゃうから。
あと、アンタとソウが邪魔。アンタとソウだけは私みたいな欠片は殺すことが出来ない。しかもアンタは戦闘衝動を抑える力まで持ってる。
非常に厄介なんだよ......その力!」

 アズは一気にカエデとの距離を詰め、カエデの足元の床を踏み砕いた。

「うわっ!」

 驚いたカエデは咄嗟に腕を伸ばし、落ちてしまわないようにした。何とか残っている床にしがみついたものの、足場が何も無くプランと浮いてる状態になってしまった。


「直接じゃダメージは通らず......恐らく落下でも死なないだろう......そんな私が貴女に対して唯一やれること......それは『世界に穴を開けて貴女を異世界に飛ばす』って事だけ。」

 アズは何とかしがみついてるカエデの腕に、足をグリグリと擦りつけ、踏み砕いた床に発生した『世界の穴』に突き落とそうとした。


「ぐっ......諦めるか......!」

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