苦役甦す莇

マウスウォッシュ

Re:Episode17 Develop appearances

 カエデ達はミズアメリサーチに到着し、今後の動向についての話し合いを始めた。

「......俺自身、サクリさんを探す為に出かけたのが事の始まりで、色々と巻き込まれてしまったみたいだったな......カエデさん、ソウさんにソウくん、本当にすまない事をした。」


「私達......ジョウジさんの弟に会いました。あの人は一体何者なんですか?」


「......順を追って説明しよう。俺の弟、ウツノミヤ レイは、元々聖騎士であった。だけど、『8年前の震災』の時に、信じていたものに裏切られたとか言って、聖騎士を辞める事にした。

そして『兄貴も裏切り者だからな』と一方的に言われた。後で分かった事なんだが、俺が当時付き人をさせてもらっていた『クノリ レイ』という男が問題だったらしい。

今となっては議員の付き人を辞めて、『弟を探す為』という本音で造った興信所を営む毎日だ。政治関連の最近の動向は、一般市民が得てる情報と同程度さ。

そして今日、君たちは遭遇した......変わり果てた弟に......本当にすまない......」


「......私が震災中に知り合ったヒタニさんという方はご存知ですか?」


「知っている......と言うか、クノリ氏の付き人をしていた頃からの長い付き合いだ。ヒタニは生前よく『俺にもし何か不味いことが起きたら、その時はお前を頼る事になるかも知れない。』と言ってたな......
恐らく、君たちが回収し損ねた『データ』の事だとは思うが......」


「......そして、アオイちゃんは『アザムキ ソウセキ』の欠片だった......今は『保護所』とかって所にいるんですよね?」


「あぁ。さっきサクリさんが連れて行った......君たちは本当によく頑張ってくれた......アオイさんを無事ここに連れて来てくれただけで御の字だよ。」


「......弟さんは何故、ヒタニさんのデータを盗んで行ったんでしょう? ヒタニさんは、何故あのデータを死守したかったんでしょうか? たかだか『ログ』の外にある『アックス』の国々の情報ですよね?
一体なんの役に立つと言うのです?」


「......これは俺の推測だが、恐らく奴が目的としているのは、『アックス』の支配、及び『禁断の兵器』の使用方法だろう。」


「禁断の兵器?」


「『リニィジス』と呼ばれる『科学や魔法を書き換え、兵器を無効化する兵器』という物だ。
それは普通に使えば『アックス』の所持する兵器を無効化し、応用すれば『ログ』の結界を無効化する事が理論上可能とされている。」


「理論上可能?」


「普通なら『ログの結界』は、『聖騎士たちの魔力』によって成り立っている。だから、リニィジスでいくら書き換えた所で、『聖騎士』が生き続けている以上結界は維持し続ける。

しかし、関係各所に問い合わせた所、今現在ほとんどの『聖騎士』は死亡している。

にも関わらず、結界は未だ維持され続けている......という事は、何者かが結界の魔力源を『聖騎士』では無い何かに移行したと考えられる。」


「なるほど。つまり、結界の魔力源が変えられた今なら、リニィジスによって結界を無くす事も可能だと。」


「ここからは完全に俺の推測に基づく『仮説』になるが、恐らく弟には協力者若しくは指導者が居る。その協力者はそれなりの立ち位置の人間で、弟と共に何かしようとしている。
恐らく......『リニィジス』を使って、過激派『アックス』を無力化し、手中に収めた後、『結界』を取っ払うつもりだろう。
そして恐らく、『世界を完全に一つ』にでもするつもりなんだろう。」


「それって......止めなくても良いのでは?」


「いや......もしこの仮説が正しい場合、ある問題が起こる。それは『アックス』の人間は『ログ』の人間と、完全に根底から価値観が異なるという事だ。
『ログ』の人間は、異なる存在を『対話』によって受け入れてきた。しかし、『アックス』の人間は、異なる存在を『武力』によって制圧してきた。

恐らく結界を無くした途端、『アックス』の連中は『如何にしてログの人間と仲良くなるか』では無く『如何にしてリニィジスの所有権を奪い取り、支配権を獲得するか』という思考にしか陥らない。
結果的に闘争が始まり、ログの民は一方的に食い潰されていく事になる。

更に最大の問題点は、『ログ』がリニィジスという『兵器』を使い、『アックス』を『制圧』している点だ。
これは『ログ』が今まで禁じてきた『アックス』のやり方そのものだ。あまりに一方的で、勝手すぎる。」


「......世界をひとつにする......思想自体は素晴らしいのでしょうけど、やり方がきっと間違ってる......」


「『ログ』の民は『アックス』の人間を、『未だに闘争を辞められない阿呆』としか見てないだろう。
それがきっと『アックス』の人間にとっては『気に食わない』ことだと思う。
だから、結界はまだ必要なんだ......人間はまだ愚かだから......」


「世界を......ひとつに......」








 同時刻、シュバルの控え室。そこにはレイの帰還を待つシュバルと、抹殺を終えたアズがのんびりとお茶を飲んでいた。

 部屋の中の乾いた空気に、コンコンコンとノックが鳴り響いた。


「どうぞ。お入りなさい。」


「失礼します......マスター、無事データの回収完了致しました。こちらが『外部情報調査官のデータ』になります。」


「ありがとう。これで漸く計画の大詰めに入る事が出来るわね......」

 シュバルは携帯端末にデータチップを挿し込み、中に入ってあるデータを吸い出した。

「あった......『リニィジス』の運用方法......やっぱり。『リニィジス』は『サーザルトル』で極秘に製造された......その事は上には報告出来ないとまで書いてある......やはりこれは『禁断の兵器』ね。」

 シュバルは満面の笑みを浮かべた。その視線の先にはリニィジスの『第3の運用方法』が書かれていた。


「私が本当に知りたかったのは、これよこれ......これで......フラン様を『虚無の辺獄』から救いあげる事が出来る......」







『リニィジス』第3の運用方法。

死んでいるわけでもなく、かと言って生きているわけでもない『脳死状態』あるいは『植物状態』と呼ばれる状態がある。
この時、その人間の魂は『虚無の辺獄』と呼ばれる『この世』と『あの世』の狭間にある歪んだ空間に存在する事が判明。

『脳死状態』あるいは『植物状態』の者に対して、『時戻し』を使用しても肉体的年齢が戻るだけで、魂までは戻ってこない事が判明している。

その際『リニィジス』によって『魂の情報』を書き換える事により、『虚無の辺獄』から救いあげる事が可能であると判明。(参考文献......シラークフネの奇跡:フューデン アトック著)


ヒタニの一言コメント......本来ならば、この第3の運用方法こそ、この兵器のあるべき使い道なのかも知れない。








 数時間後、カエデは一度自宅に帰宅した。家は無事であったが、電気等が復活していない為、家の中はまぁまぁ暗かった。

「ただいま......」

「おかえりなさい。随分と遅い帰りだったわね。お腹空いた?」

「ううん......お腹空いてない。」

「そ......それにしても復旧遅いわね......聖騎士の人達何やってるのかしら?」

 カエデは母親に真実は告げないでおくべきだと思い、口をギュッと噤んだ。


「......お母さんはさ、私の事心配じゃなかったの? 一切連絡寄越さなかったみたいだし。」

「何言ってるの。心配に決まってるじゃない。でも貴女の事だから生きてるだろうって......なんて言うのかしら、女の勘ってやつ? まぁ兎に角、謎の信頼と言うべきものがどこかから湧いて出てきてさ。」


 カエデは何も伝えようとは思わなかった。父の死の真相や、自分の前世、旧世界の事や、禁断の兵器の話......何を言っても信じてもらえないだろうと分かっていた。あまりにも突飛で、あまりにも非現実的、なのにあまりに身近で、あまりにも自分に関わり過ぎた事であった。

「お母さんはさ、前世とか信じる?」

「う〜ん......結構信じてるタイプかなぁ......ゲンジさん......あ、貴女のお父さんと逢った時辺りから、そういうの意識し始めたかな。
この人とは前世でも一緒だったのかな〜とか、来世も一緒になりたいな〜とかね。」

「そう......」

「カエデは信じてるの? 自分が神様の鎧だったって。」

「え......なんでその事......」


「実は今まで黙ってたんだけど、貴女がまだお腹の中に居る時に『ワイズマン』って人が毎晩枕元に現れて、『これから産まれてくる子供は神の鎧の生まれ変わりだ』って。

今までずっと夢だと思ってたんだけど、貴女の張り詰めた表情見てたらもしかしてって思ってね。」


「お母さんは、私の事が怖くないの?」


「なんで怖がる必要があるのさ。貴女は私の大切な一人娘。
ま、そりゃ怖いくらいに元気に育ってくれたって感じだけど、貴女の事で怖いことなんて1つもないよ。」


「......どうして?」


「どうして? どうしてって言われてもなぁ......母娘おやこだから......かな?
小さい頃から貴女は、私にも似てたしお父さんにも似てた。好奇心旺盛で面倒みが良くて、やんちゃなくらい明るくて。
でも貴女の周りにはいつだって人が集まってた。貴女が独りぼっちで居るところを一回も見た事が無いくらいにね。」


「人を......集める......」


「貴女にはそういう才能があるのかもね。貴女と一緒に居ると落ち着くと言うか、あんなにやんちゃだった奏ちゃんですら、貴女の前では、明らかに良い子だったしね。
きっと貴女は、人を落ち着かせる、穏やかな心で居させる力があるんでしょうね。」


「穏やかな......心......」

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