苦役甦す莇
Re:Episode15 Eat into one's savings
同時刻、『ログ』の議場では既に現議長の不信任が可決され、臨時議長としてシュバルが就任していた。
控え室に戻ってきたシュバルは、子飼いのアズを呼びつけた。
「何か用ですか〜?」
「タイミングが来た。今現在、どの控え室も警備が薄くなっている。それで貴女にこれを渡す。」
シュバルはアズに、携帯端末を1つ貸し与えた。携帯端末の画面には、数名の議員達が表示されていた。もちろん前議長もリストに入っていた。
「あ! このクノリってやつ! レイと同じ名前じゃん! めっちゃウケる〜!」
アズは渡されたリストを見て、小学生並みの感想を述べた。
「九法 令......そいつがリニィジスの一件の首謀者と思われる奴だ。議長も関与していたという所を鑑みると、相当丸め込む力があると見て良いだろう。
そいつに関しては徹底的に調べ上げてるから、家族構成、住所、生年月日、身辺の情報はほぼ全て揃っている。」
「ふ〜ん......妻の九法 環菜、娘の九法 律と九法 案......意外と妻子持ちなんだ。
家族も抹殺対象に入ってるの?」
「いや家族は別に殺さなくていい。ただし、もしバレてしまったり何か情報を掴まれたら、口封じの為に必ず始末しておけ。」
「リョーカイです。じゃ早速、このリストの何人か始末して来ま〜す。」
同時刻、『クロコダイル』へ向かう途中の道で、自身の過去の絶望と対面しているアオイ。
アオイの周りには、いるはずのない人間の幻影が沢山現れ、アオイのことを罵り始めた。
「......あの子......普通の人間じゃないらしいわよ......」
「あの子は『鬼の子』か『忌み子』か......兎に角、関わってたら命がねぇぜ......」
「良い? あの子とは遊んじゃダメよ?」
「やめて......私は異常なんかじゃない......やめて......私を避けないで......」
アオイは必死に避けていく人達に手を伸ばした。しかし、アオイの手は......願いは決して届かなかった。
アオイの目の前に、白衣を着た人間の幻影が現れた。そしてアオイに非情な言葉を投げかける。
「君は不老不死で、自分の力を制御出来ていない。だから暴走してなんでも壊してしまうし、みんな殺してしまう。
みんな困っているんだ。死ぬ事が出来ないなら、せめて僕らに近づかないでくれ。」
人々はアオイが孤独になる事なんて、自分達の生命の危機に比べれば、どうでも良いことなのであった。
「......君は『力』を持つ者だから......力を持たない僕達からしてみれば、『脅威』以外の何物でも無い。だから、近づかないでくれ。」
アオイは、過去に味わった絶望を『もう一度』体験していた。そして、溢れ出した彼女の悲しみは『不可逆の力』となって、具現化し始める。
同時刻、欠片達の保護所にて。創は自身と同じ境遇にあった者達と会話していた。
中でも、莇という少女が気になった。アザミは同じ境遇の欠片達の1人なのに、何故か誰とも話そうとせず、1人で部屋の端っこに座っていたのだった。
「こんにちは。」
「......」
アザミは、創の挨拶に対して返事すらしなかった。更には、話したくも無いという意志を見せつけるかのように、創から体の中心線をズラした。
「俺の名前は吉瀬 創。サクリさんにここまで連れて来てもらったんだ。」
「......」
「アザミさんは......」
「その名で私を呼ぶな!」
いきなり、アザミはソウの言葉を遮り、ものすごい形相でソウを睨みつけた。
「す......すみません......」
「ここに居る奴らは、皆『不可逆の力』という棘を持っている。と言うか、持つ事を生まれながらにして決められたんだ。
私は自分が嫌いだ! そして、サクリさんから話を聞いた時、自分の事を酷く呪った。
結局私たちは、たかだか『アザムキ ソウセキ』の欠片に過ぎないのに、何故自我が芽生えた? 何故人の形を持った? ただの欠片だったら幾分幸せだったか!
下手に自我を持ったから! 無自覚に他の存在を傷つけた時、どうしようもなく居た堪れなくなるし! 私は! 私という『自我』が嫌いだ!」
アザミは物凄い勢いでソウをまくしたてた。そしてソウはアザミの勢いに圧倒され、その場に尻もちをついたまま動けなくなっていた。
「......8年前のあの時だってそうだ。博物館に居た私の所にサクリさんが来た。
私はサクリさんの誘いを......好意を素直に受け入れられなかった。だから一度拒んだ。でも、結局その拒んだ事によって8年前の地震が発生した。
力が抑えられなくて、どうしようも無くて、それでもサクリさんは私にこの居場所をくれた。
でも私は未だに怖がっている。そう......怖いんだよ......いくらこの場所が欠片を保護する為に造られた安全な場所とは言え、何かの弾みでこの居場所も壊してしまうかもしれない。
だから、だから......私は......他人を遠ざける不器用な生き方しか出来ないんだ......」
アザミの目には涙が浮かんでいた。その様子を見て、ソウは何も言えなくなっていた。
「......欠片を感じる? これは......モリオー地区の方向......?」
その時、サクリは欠片の存在を探知し始めていた。
同時刻、『クロコダイル』の楓と奏。ゆったりとしたピアノの演奏を聞いた後、カエデはバーテンダーにある質問を投げかけた。
「ここって、二度と来れないお店っていう話を聞いたんですけど、本当ですか?」
「あぁ。本当だよ。
ここに一度立ち入った人間には自動的に『マーキング』みたいな物がつくんだ。で、この場所は『マーキングした人のみに働く人払いのルーン』が彫ってある。
だから『一度目はここに来れる』けど『二度目は来れない』という状況が生まれるのさ。」
「どうしてそんな物が?」
「この特殊な場所を造ったのは、実はヒタニさんでね。『俺がもし死んでも、俺の全てを遺して置けるように。』って言って、全ての情報を隠す為の建物として造った。その後表向きとしてBARを経営し、ルーンと自動マーキングの装置をつけた。
『二度目以降は来れない』という事は、悪意ある者がこの場所に立ち入っても、一度追い返してしまえば、もうここには足を踏み入れられない。
更に、外に出てるヒタニさんが、『コイツは危ない』と思った人間にマーキングを施せば、この場所には立ち入れない。
こうしてヒタニさんは、大切な情報を守り抜いてきたんだ。そして今日、君がその情報を取りに来た。......やっとこの店を閉じることが出来る。
これまで8年間、とても長いようで短かった......まぁ、時間もお金も食いつぶしてしまったんですけど......それだけの価値はありました。」
バーテンダーは、カエデが飲み干したグラスを、感慨深そうに拭いていた。
「......このグラスを置けば、この特殊な空間は普通の空間に戻る。そうしたら建物も一緒に消え失せる。僕達2人はこの建物と運命を共にするから、君たち2人はもう出なさい。」
「......わかりました。色々とお話、ありがとうございました。行こう奏。」
「うん。ありがとうございました。」
楓と奏は店の扉をゆっくり開き、外に出た。後ろを向くと、BAR『クロコダイル』という建物は完全に消え去っていた。
「じゃ、行こうか。」
「うん。アオイさんと合流しよう。」
2人が来た道を戻ろうとした瞬間、道の脇の茂みから、いきなり人影が飛び出してきた。
「......見つけたのか......外部情報調査官の隠し情報......大人しくそれを渡せ......」
先程とは様子が異なるが、2人の前に立ちはだかったのは、間違いなくあのウツノミヤ レイである。
「嫌だね。ジョウジさんの弟だか何だか知らないけど、これは貴方に渡せるような物じゃない。」
「......なら、実力を行使するまで。」
一瞬、楓と奏の目の前が真っ暗になり、明るさが元に戻ると、レイは先程の場所から消え失せていた。
「え?」
「カエデ! 後ろ!」
後ろを振り向いた瞬間、カエデの目と鼻の先には、殺意の剣先が自分の胸を目がけて一直線で近づいてきていた。
「あ......」
カエデはその瞬間、数秒未来に確実に訪れるであろう『痛み』を予見し、最早避ける事すら諦めてしまった。
しかし、その未来は変わることとなる。いきなりカエデの視界は横に流れ、誰かに身体を突き飛ばされ、殺意の剣先は自分から外れた。
横に流れた視界の先に、自分を突き飛ばしたのが誰か分かった。奏であった。そして、自分を突き飛ばした奏は、自分を貫くハズだった凶刃の前に立った。
「楓は......ボクが護る!」
奏の姿は学生服姿から、最初の試練の時の巫女服姿に変わっていた。そして、その手には刀が握られていた。
奏はその刀で、レイの凶刃を受け止め、いなして流してみせた。
「楓に害をなす者は、如何なる者であっても許さない! 鬱宮 黎! 貴様は超えてはならない一線を超えた!」
「ふん! 俺を殺すことが出来たら、その情報はくれてやる。殺すことが出来たら......な。」
目にも止まらぬ速さで2人は斬り合った。須臾と表現しても差し支えないほどの刹那、お互いの刃はお互いの刃を食い合うように、がっちりとせめぎ合った。
「カエデ! 今のうちに逃げて!」
「......分かった!」
控え室に戻ってきたシュバルは、子飼いのアズを呼びつけた。
「何か用ですか〜?」
「タイミングが来た。今現在、どの控え室も警備が薄くなっている。それで貴女にこれを渡す。」
シュバルはアズに、携帯端末を1つ貸し与えた。携帯端末の画面には、数名の議員達が表示されていた。もちろん前議長もリストに入っていた。
「あ! このクノリってやつ! レイと同じ名前じゃん! めっちゃウケる〜!」
アズは渡されたリストを見て、小学生並みの感想を述べた。
「九法 令......そいつがリニィジスの一件の首謀者と思われる奴だ。議長も関与していたという所を鑑みると、相当丸め込む力があると見て良いだろう。
そいつに関しては徹底的に調べ上げてるから、家族構成、住所、生年月日、身辺の情報はほぼ全て揃っている。」
「ふ〜ん......妻の九法 環菜、娘の九法 律と九法 案......意外と妻子持ちなんだ。
家族も抹殺対象に入ってるの?」
「いや家族は別に殺さなくていい。ただし、もしバレてしまったり何か情報を掴まれたら、口封じの為に必ず始末しておけ。」
「リョーカイです。じゃ早速、このリストの何人か始末して来ま〜す。」
同時刻、『クロコダイル』へ向かう途中の道で、自身の過去の絶望と対面しているアオイ。
アオイの周りには、いるはずのない人間の幻影が沢山現れ、アオイのことを罵り始めた。
「......あの子......普通の人間じゃないらしいわよ......」
「あの子は『鬼の子』か『忌み子』か......兎に角、関わってたら命がねぇぜ......」
「良い? あの子とは遊んじゃダメよ?」
「やめて......私は異常なんかじゃない......やめて......私を避けないで......」
アオイは必死に避けていく人達に手を伸ばした。しかし、アオイの手は......願いは決して届かなかった。
アオイの目の前に、白衣を着た人間の幻影が現れた。そしてアオイに非情な言葉を投げかける。
「君は不老不死で、自分の力を制御出来ていない。だから暴走してなんでも壊してしまうし、みんな殺してしまう。
みんな困っているんだ。死ぬ事が出来ないなら、せめて僕らに近づかないでくれ。」
人々はアオイが孤独になる事なんて、自分達の生命の危機に比べれば、どうでも良いことなのであった。
「......君は『力』を持つ者だから......力を持たない僕達からしてみれば、『脅威』以外の何物でも無い。だから、近づかないでくれ。」
アオイは、過去に味わった絶望を『もう一度』体験していた。そして、溢れ出した彼女の悲しみは『不可逆の力』となって、具現化し始める。
同時刻、欠片達の保護所にて。創は自身と同じ境遇にあった者達と会話していた。
中でも、莇という少女が気になった。アザミは同じ境遇の欠片達の1人なのに、何故か誰とも話そうとせず、1人で部屋の端っこに座っていたのだった。
「こんにちは。」
「......」
アザミは、創の挨拶に対して返事すらしなかった。更には、話したくも無いという意志を見せつけるかのように、創から体の中心線をズラした。
「俺の名前は吉瀬 創。サクリさんにここまで連れて来てもらったんだ。」
「......」
「アザミさんは......」
「その名で私を呼ぶな!」
いきなり、アザミはソウの言葉を遮り、ものすごい形相でソウを睨みつけた。
「す......すみません......」
「ここに居る奴らは、皆『不可逆の力』という棘を持っている。と言うか、持つ事を生まれながらにして決められたんだ。
私は自分が嫌いだ! そして、サクリさんから話を聞いた時、自分の事を酷く呪った。
結局私たちは、たかだか『アザムキ ソウセキ』の欠片に過ぎないのに、何故自我が芽生えた? 何故人の形を持った? ただの欠片だったら幾分幸せだったか!
下手に自我を持ったから! 無自覚に他の存在を傷つけた時、どうしようもなく居た堪れなくなるし! 私は! 私という『自我』が嫌いだ!」
アザミは物凄い勢いでソウをまくしたてた。そしてソウはアザミの勢いに圧倒され、その場に尻もちをついたまま動けなくなっていた。
「......8年前のあの時だってそうだ。博物館に居た私の所にサクリさんが来た。
私はサクリさんの誘いを......好意を素直に受け入れられなかった。だから一度拒んだ。でも、結局その拒んだ事によって8年前の地震が発生した。
力が抑えられなくて、どうしようも無くて、それでもサクリさんは私にこの居場所をくれた。
でも私は未だに怖がっている。そう......怖いんだよ......いくらこの場所が欠片を保護する為に造られた安全な場所とは言え、何かの弾みでこの居場所も壊してしまうかもしれない。
だから、だから......私は......他人を遠ざける不器用な生き方しか出来ないんだ......」
アザミの目には涙が浮かんでいた。その様子を見て、ソウは何も言えなくなっていた。
「......欠片を感じる? これは......モリオー地区の方向......?」
その時、サクリは欠片の存在を探知し始めていた。
同時刻、『クロコダイル』の楓と奏。ゆったりとしたピアノの演奏を聞いた後、カエデはバーテンダーにある質問を投げかけた。
「ここって、二度と来れないお店っていう話を聞いたんですけど、本当ですか?」
「あぁ。本当だよ。
ここに一度立ち入った人間には自動的に『マーキング』みたいな物がつくんだ。で、この場所は『マーキングした人のみに働く人払いのルーン』が彫ってある。
だから『一度目はここに来れる』けど『二度目は来れない』という状況が生まれるのさ。」
「どうしてそんな物が?」
「この特殊な場所を造ったのは、実はヒタニさんでね。『俺がもし死んでも、俺の全てを遺して置けるように。』って言って、全ての情報を隠す為の建物として造った。その後表向きとしてBARを経営し、ルーンと自動マーキングの装置をつけた。
『二度目以降は来れない』という事は、悪意ある者がこの場所に立ち入っても、一度追い返してしまえば、もうここには足を踏み入れられない。
更に、外に出てるヒタニさんが、『コイツは危ない』と思った人間にマーキングを施せば、この場所には立ち入れない。
こうしてヒタニさんは、大切な情報を守り抜いてきたんだ。そして今日、君がその情報を取りに来た。......やっとこの店を閉じることが出来る。
これまで8年間、とても長いようで短かった......まぁ、時間もお金も食いつぶしてしまったんですけど......それだけの価値はありました。」
バーテンダーは、カエデが飲み干したグラスを、感慨深そうに拭いていた。
「......このグラスを置けば、この特殊な空間は普通の空間に戻る。そうしたら建物も一緒に消え失せる。僕達2人はこの建物と運命を共にするから、君たち2人はもう出なさい。」
「......わかりました。色々とお話、ありがとうございました。行こう奏。」
「うん。ありがとうございました。」
楓と奏は店の扉をゆっくり開き、外に出た。後ろを向くと、BAR『クロコダイル』という建物は完全に消え去っていた。
「じゃ、行こうか。」
「うん。アオイさんと合流しよう。」
2人が来た道を戻ろうとした瞬間、道の脇の茂みから、いきなり人影が飛び出してきた。
「......見つけたのか......外部情報調査官の隠し情報......大人しくそれを渡せ......」
先程とは様子が異なるが、2人の前に立ちはだかったのは、間違いなくあのウツノミヤ レイである。
「嫌だね。ジョウジさんの弟だか何だか知らないけど、これは貴方に渡せるような物じゃない。」
「......なら、実力を行使するまで。」
一瞬、楓と奏の目の前が真っ暗になり、明るさが元に戻ると、レイは先程の場所から消え失せていた。
「え?」
「カエデ! 後ろ!」
後ろを振り向いた瞬間、カエデの目と鼻の先には、殺意の剣先が自分の胸を目がけて一直線で近づいてきていた。
「あ......」
カエデはその瞬間、数秒未来に確実に訪れるであろう『痛み』を予見し、最早避ける事すら諦めてしまった。
しかし、その未来は変わることとなる。いきなりカエデの視界は横に流れ、誰かに身体を突き飛ばされ、殺意の剣先は自分から外れた。
横に流れた視界の先に、自分を突き飛ばしたのが誰か分かった。奏であった。そして、自分を突き飛ばした奏は、自分を貫くハズだった凶刃の前に立った。
「楓は......ボクが護る!」
奏の姿は学生服姿から、最初の試練の時の巫女服姿に変わっていた。そして、その手には刀が握られていた。
奏はその刀で、レイの凶刃を受け止め、いなして流してみせた。
「楓に害をなす者は、如何なる者であっても許さない! 鬱宮 黎! 貴様は超えてはならない一線を超えた!」
「ふん! 俺を殺すことが出来たら、その情報はくれてやる。殺すことが出来たら......な。」
目にも止まらぬ速さで2人は斬り合った。須臾と表現しても差し支えないほどの刹那、お互いの刃はお互いの刃を食い合うように、がっちりとせめぎ合った。
「カエデ! 今のうちに逃げて!」
「......分かった!」
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