苦役甦す莇
Re:Episode8 Dark knight birthday
レイは騎士団本部に対する不信感から、騎士団本部にではなく、『ログ』の根幹とも呼べる『評議会』に向かった。
『評議会』は『ログ』における基本的な取り決め等を、複数人の賢人達が集まり、各々意見を交わして対話する機関の事である。
レイは評議会メンバーの中でも、特に発言力のあるシュバルという人物の下を訪れた。
「失礼致します。シュバル様、先刻のモリオー地区大震災の事についてお伺いしたい事が......」
「先刻の大震災の件については、今評議会の中でも対応を検討中です。その事に関することなら......」
「いえ、今後の対応に関する事ではなく、我々騎士団に下された撤退命令についてお伺いしたいのです。」
「撤退命令......あぁ、あの未曾有の破壊現象に関する撤退命令ですね。
あの命令の判断基準は、騎士団の聖騎士が破壊現象に巻き込まれた場合の、二次被害等の恐れと言う事ですが、私はその判断に少々疑問を持っていましてね。」
「どういう事です?」
「評議会は決して一枚岩では無いことはご存知ですね? 関係各所あらゆる場所から賢人が集まっています。
これは飽くまで私の推測ですが、モリオー地区周辺に、騎士団本部や一般民衆にバレてはいけないような何かが隠されているような気がするのです。
震災前はその『何か』は隠されていたが、震災が起きて、様々なものが破壊された今、騎士団メンバーや一般民衆の目に触れる可能性が高まった。
なので、その『何か』を目撃してしまった一般民衆の口を塞ぐ為、更には騎士団メンバーにその『何か』を目撃されない為に、『騎士団メンバーへ撤退命令』という形にしたのかも知れません。」
「それは本当ですか?」
「飽くまで推測......と言いましたが、一応それなりの状況証拠と、怪しいと思われる人物を何名か知っています。」
レイはますますの不信感を募らせ、原因究明の為、シュバルと共にモリオー地区に向かった。
原因究明を始めて数時間後、ついにレイは評議会が隠そうとした『何か』を発見する。
「シュバル様......これは?」
「これは......文献で見た事があります......『リニィジス』という兵器です。
まさか......平和と対話の象徴である『ログ』の中にこんなものが持ち込まれてるとは......」
「どういう兵器なんですか?」
「端的に言えば、『人を殺める』と言うより、『化学兵器や魔術兵装を無力化する』為の兵器です。
500年程昔に初期作が造られたと言われ、その時代にしてはオーパーツであったとも言われてます。」
「聞いただけでは平和そうに聞こえますけど、どこが危険なんですか?」
「これ自体ではあまり危険ではありません。しかし、この兵器を使う事によって『ログに張られている結界すら無力化出来る』事こそ危険なのです。
この兵器の原理は科学兵器や魔術兵装に使われている『構造そのもの』を『書き換える』ことによって無力化します。
これを応用すると、ログに張られている結界すら無力化することが出来てしまう。
そうなれば武装した過激派『アックス』の攻撃に晒される事になりますよね。」
「そうですね......武装を持たない『ログ』は無防備と言わざるを得ない。守ってくれる『結界』が無ければ、『アックス』からの総攻撃を受けたらひとたまりもない。」
「これは由々しき問題ですね......おや? あそこに倒れているのは生存者でしょうか?」
レイとシュバルは急いで生存者の元に駆け寄った。そして生存者の様子を伺った。
「大丈夫ですか? 大丈夫ですかぁ!?
......意識ありません。呼吸は......微かですがあります。シュバル様、どうしましょう? この辺の医療施設は半壊若しくは全壊ですし、少し離れたところに行ったとしても、もう既に定員数は埋まってるでしょう。」
「見た感じ......小学生くらいの女児......ですね。私は私用の車を呼び出すので、何かこの子の身元が分かるような物を探しておいて下さい。」
「分かりました。」
レイは女の子の服のポケットをまさぐってみた。すると中からハンカチが出てきて、そのハンカチには『イロハ カエデ』と刺繍が施されていた。
「身元が分かりそうなのはこれくらいか......流石に小学生くらいの女の子が学生証なんて持ってるわけ無いもんな。」
数時間前......8年前の地震発生前及び地震発生時のカエデ視点。
「あれ? お母さんどこに行っちゃったの?」
当時9歳であったカエデ。その日は丁度、母親とモリオー地区に旅行に来ていたのであった。しかし、地震発生直前にカエデは迷子になってしまった。
「お母さぁん! どこぉ!?」
見慣れぬ土地にて独りぼっち。いくら9歳と言えど、流石にこの状況は平生の落ち着きを保っていられるようなものでは無かった。
9歳のカエデはワンショルダーのバックの紐をぎっちり握り、見知らぬ人々が行き交う道を、1人歩いていた。
そんなカエデに追い討ちをかけるように『地震』が襲いかかって来た。
表現するならば、直立させた棒の上に板を乗せ、その上に人が乗っていて、下の棒を巨人が掴んで揺らしているような感じである。
既に母親を見失って心細い思いをしていたカエデ。そんな状況にやって来た大震災。周りの人々は地震に驚き、逃げ惑い始める。
カエデは阿鼻叫喚を極め、そして倒壊して来た建物のガレキの下敷きとなったのであった。
不幸中の幸いと言うべきか、カエデは前世から受け継ぐ『防衛能力』が備わっていた。カエデは無意識下でそれを発動させていた。
だからガレキの下敷きになっても死ぬ事は無かったし、不可逆の破壊現象に巻き込まれても死に向かう事はなかった。ただ、カエデも人の子なので空腹等による衰弱はする。レイの救出までの数時間、カエデは母親のことを思いながら衰弱して行った。
レイはカエデ救出後、評議会メンバーの一部が『リニィジス』という兵器を隠し持っていた事実を伝える為に、防衛騎士団の所へ向かった。
レイが廊下を走り、いざメンバーのいる会議室の扉を開けようとした瞬間、中からメンバー達の話し声が聞こえてきた。
レイは扉を開けるのを一旦止め、何を話しているのか耳を澄まして聞いてみた。
「レイの奴もバカだよなぁ…...俺らは評議会の方々からの信頼があって活動できてるってぇのに、その評議会からの命令に反するようなマネしてさぁ。」
「まぁ若気の至りってやつだろう。俺が思うに、奴は『上からは嫌われるが民からは好かれる』タイプの人間だな。
上からの命令に納得せず、最後まで人民の事を思ってる。その人民からも評議会からも、ましてこのメンバーからも裏切られてるとも知らずにな。」
「どういう事ですか?」
「実はあのモリオー地区にはある兵器が隠されてるんだ。それを持ち込んだのは評議会のある方々で、撤退命令のホントの理由もその兵器の隠蔽の為だ。
だが、兵器がバレてホントに困るのは、実はモリオー地区の人間なんだよ。だから、モリオー地区の人間からしてみれば、自分たちの救助を中断させられても兵器がバレなければ、その方が幸せなんだよ。
なのにアイツは救助を続行しようとしたりして......まぁアイツは馬鹿だから使いようによっては使えるからこの事は伏せてあるんだがな。」
「うっわ団長残酷〜www」
「騙される方が馬鹿なんだよ。兵器の存在がバレたら糾弾されるのは現地民と言うのが分からない......アイツは想像力が足りなさ過ぎる。
『ログ』は対話の象徴......それなのに兵器を持っていたと知られたら、世界中の全員から非難されるのは間違いない。
まぁ、評議会メンバーなのに『アックス』と繋がってる悪徳官僚が混ざってること自体問題なんだがな。」
「その事は糾弾されないんですか?」
「されないだろうさ。特定だって難しいし、そもそも『ログ』内で評議会に楯突くバカは居ないよ。
それにそいつが『アックス』と繋がってるなら、そちら側からのお咎めも無いだろう。
だから結局困るのは現地の人間だけ。俺らが被害を被ることは無いから、俺らは粛々と上からの命令に従ってりゃ良いのさ。」
レイは扉を開ける気力を失っていた。そして愕然とその場に崩れ落ちた。
そして数分してレイは立ち上がり、その場を後にした。レイは二度と『聖騎士』と名乗らないと誓った。
レイが立ち去った後も、会議室での会話は続いていた。
「まぁ悲しい偶然かよく分からないが、そのアックスと繋がってる評議会メンバーと言うのが、アイツと同じ名前を持つ『レイ』という方なんだ。クノリ レイ様。名前くらいは聞いたことがあるだろ?」
「ありますあります。」
「更にもっと悲しい偶然があってだな、アイツの兄ジョウジは、そのクノリ様の付き人をしているんだ。まぁ、その内アイツも知ることになるだろうけどな。」
「うっわ〜......ストレスでアイツ騎士団抜けちゃうんじゃないですかね?」
「別に構わないだろう。アイツが騎士団を抜けるのはアイツの自由だ。」
信じていた物を失ったレイは、先ずシュバルの所へ向かった。そして聞いた話を洗いざらい話した。
「真にこの世界の事を思う気持ちがあるのなら、汚い事に手を染める覚悟が必要だ。君にそれが出来るか?」
「......やります......」
「良いだろう。これから長い年月をかけて君を育て上げる。綺麗事なぞ欠片も無い。それでもいいか?」
「......やってみせます......たとえ茨の道だろうと......目標が遥か彼方だろうと......あの救った少女の未来の為にも......俺は......喜んで自ら闇に堕ちます......」
『評議会』は『ログ』における基本的な取り決め等を、複数人の賢人達が集まり、各々意見を交わして対話する機関の事である。
レイは評議会メンバーの中でも、特に発言力のあるシュバルという人物の下を訪れた。
「失礼致します。シュバル様、先刻のモリオー地区大震災の事についてお伺いしたい事が......」
「先刻の大震災の件については、今評議会の中でも対応を検討中です。その事に関することなら......」
「いえ、今後の対応に関する事ではなく、我々騎士団に下された撤退命令についてお伺いしたいのです。」
「撤退命令......あぁ、あの未曾有の破壊現象に関する撤退命令ですね。
あの命令の判断基準は、騎士団の聖騎士が破壊現象に巻き込まれた場合の、二次被害等の恐れと言う事ですが、私はその判断に少々疑問を持っていましてね。」
「どういう事です?」
「評議会は決して一枚岩では無いことはご存知ですね? 関係各所あらゆる場所から賢人が集まっています。
これは飽くまで私の推測ですが、モリオー地区周辺に、騎士団本部や一般民衆にバレてはいけないような何かが隠されているような気がするのです。
震災前はその『何か』は隠されていたが、震災が起きて、様々なものが破壊された今、騎士団メンバーや一般民衆の目に触れる可能性が高まった。
なので、その『何か』を目撃してしまった一般民衆の口を塞ぐ為、更には騎士団メンバーにその『何か』を目撃されない為に、『騎士団メンバーへ撤退命令』という形にしたのかも知れません。」
「それは本当ですか?」
「飽くまで推測......と言いましたが、一応それなりの状況証拠と、怪しいと思われる人物を何名か知っています。」
レイはますますの不信感を募らせ、原因究明の為、シュバルと共にモリオー地区に向かった。
原因究明を始めて数時間後、ついにレイは評議会が隠そうとした『何か』を発見する。
「シュバル様......これは?」
「これは......文献で見た事があります......『リニィジス』という兵器です。
まさか......平和と対話の象徴である『ログ』の中にこんなものが持ち込まれてるとは......」
「どういう兵器なんですか?」
「端的に言えば、『人を殺める』と言うより、『化学兵器や魔術兵装を無力化する』為の兵器です。
500年程昔に初期作が造られたと言われ、その時代にしてはオーパーツであったとも言われてます。」
「聞いただけでは平和そうに聞こえますけど、どこが危険なんですか?」
「これ自体ではあまり危険ではありません。しかし、この兵器を使う事によって『ログに張られている結界すら無力化出来る』事こそ危険なのです。
この兵器の原理は科学兵器や魔術兵装に使われている『構造そのもの』を『書き換える』ことによって無力化します。
これを応用すると、ログに張られている結界すら無力化することが出来てしまう。
そうなれば武装した過激派『アックス』の攻撃に晒される事になりますよね。」
「そうですね......武装を持たない『ログ』は無防備と言わざるを得ない。守ってくれる『結界』が無ければ、『アックス』からの総攻撃を受けたらひとたまりもない。」
「これは由々しき問題ですね......おや? あそこに倒れているのは生存者でしょうか?」
レイとシュバルは急いで生存者の元に駆け寄った。そして生存者の様子を伺った。
「大丈夫ですか? 大丈夫ですかぁ!?
......意識ありません。呼吸は......微かですがあります。シュバル様、どうしましょう? この辺の医療施設は半壊若しくは全壊ですし、少し離れたところに行ったとしても、もう既に定員数は埋まってるでしょう。」
「見た感じ......小学生くらいの女児......ですね。私は私用の車を呼び出すので、何かこの子の身元が分かるような物を探しておいて下さい。」
「分かりました。」
レイは女の子の服のポケットをまさぐってみた。すると中からハンカチが出てきて、そのハンカチには『イロハ カエデ』と刺繍が施されていた。
「身元が分かりそうなのはこれくらいか......流石に小学生くらいの女の子が学生証なんて持ってるわけ無いもんな。」
数時間前......8年前の地震発生前及び地震発生時のカエデ視点。
「あれ? お母さんどこに行っちゃったの?」
当時9歳であったカエデ。その日は丁度、母親とモリオー地区に旅行に来ていたのであった。しかし、地震発生直前にカエデは迷子になってしまった。
「お母さぁん! どこぉ!?」
見慣れぬ土地にて独りぼっち。いくら9歳と言えど、流石にこの状況は平生の落ち着きを保っていられるようなものでは無かった。
9歳のカエデはワンショルダーのバックの紐をぎっちり握り、見知らぬ人々が行き交う道を、1人歩いていた。
そんなカエデに追い討ちをかけるように『地震』が襲いかかって来た。
表現するならば、直立させた棒の上に板を乗せ、その上に人が乗っていて、下の棒を巨人が掴んで揺らしているような感じである。
既に母親を見失って心細い思いをしていたカエデ。そんな状況にやって来た大震災。周りの人々は地震に驚き、逃げ惑い始める。
カエデは阿鼻叫喚を極め、そして倒壊して来た建物のガレキの下敷きとなったのであった。
不幸中の幸いと言うべきか、カエデは前世から受け継ぐ『防衛能力』が備わっていた。カエデは無意識下でそれを発動させていた。
だからガレキの下敷きになっても死ぬ事は無かったし、不可逆の破壊現象に巻き込まれても死に向かう事はなかった。ただ、カエデも人の子なので空腹等による衰弱はする。レイの救出までの数時間、カエデは母親のことを思いながら衰弱して行った。
レイはカエデ救出後、評議会メンバーの一部が『リニィジス』という兵器を隠し持っていた事実を伝える為に、防衛騎士団の所へ向かった。
レイが廊下を走り、いざメンバーのいる会議室の扉を開けようとした瞬間、中からメンバー達の話し声が聞こえてきた。
レイは扉を開けるのを一旦止め、何を話しているのか耳を澄まして聞いてみた。
「レイの奴もバカだよなぁ…...俺らは評議会の方々からの信頼があって活動できてるってぇのに、その評議会からの命令に反するようなマネしてさぁ。」
「まぁ若気の至りってやつだろう。俺が思うに、奴は『上からは嫌われるが民からは好かれる』タイプの人間だな。
上からの命令に納得せず、最後まで人民の事を思ってる。その人民からも評議会からも、ましてこのメンバーからも裏切られてるとも知らずにな。」
「どういう事ですか?」
「実はあのモリオー地区にはある兵器が隠されてるんだ。それを持ち込んだのは評議会のある方々で、撤退命令のホントの理由もその兵器の隠蔽の為だ。
だが、兵器がバレてホントに困るのは、実はモリオー地区の人間なんだよ。だから、モリオー地区の人間からしてみれば、自分たちの救助を中断させられても兵器がバレなければ、その方が幸せなんだよ。
なのにアイツは救助を続行しようとしたりして......まぁアイツは馬鹿だから使いようによっては使えるからこの事は伏せてあるんだがな。」
「うっわ団長残酷〜www」
「騙される方が馬鹿なんだよ。兵器の存在がバレたら糾弾されるのは現地民と言うのが分からない......アイツは想像力が足りなさ過ぎる。
『ログ』は対話の象徴......それなのに兵器を持っていたと知られたら、世界中の全員から非難されるのは間違いない。
まぁ、評議会メンバーなのに『アックス』と繋がってる悪徳官僚が混ざってること自体問題なんだがな。」
「その事は糾弾されないんですか?」
「されないだろうさ。特定だって難しいし、そもそも『ログ』内で評議会に楯突くバカは居ないよ。
それにそいつが『アックス』と繋がってるなら、そちら側からのお咎めも無いだろう。
だから結局困るのは現地の人間だけ。俺らが被害を被ることは無いから、俺らは粛々と上からの命令に従ってりゃ良いのさ。」
レイは扉を開ける気力を失っていた。そして愕然とその場に崩れ落ちた。
そして数分してレイは立ち上がり、その場を後にした。レイは二度と『聖騎士』と名乗らないと誓った。
レイが立ち去った後も、会議室での会話は続いていた。
「まぁ悲しい偶然かよく分からないが、そのアックスと繋がってる評議会メンバーと言うのが、アイツと同じ名前を持つ『レイ』という方なんだ。クノリ レイ様。名前くらいは聞いたことがあるだろ?」
「ありますあります。」
「更にもっと悲しい偶然があってだな、アイツの兄ジョウジは、そのクノリ様の付き人をしているんだ。まぁ、その内アイツも知ることになるだろうけどな。」
「うっわ〜......ストレスでアイツ騎士団抜けちゃうんじゃないですかね?」
「別に構わないだろう。アイツが騎士団を抜けるのはアイツの自由だ。」
信じていた物を失ったレイは、先ずシュバルの所へ向かった。そして聞いた話を洗いざらい話した。
「真にこの世界の事を思う気持ちがあるのなら、汚い事に手を染める覚悟が必要だ。君にそれが出来るか?」
「......やります......」
「良いだろう。これから長い年月をかけて君を育て上げる。綺麗事なぞ欠片も無い。それでもいいか?」
「......やってみせます......たとえ茨の道だろうと......目標が遥か彼方だろうと......あの救った少女の未来の為にも......俺は......喜んで自ら闇に堕ちます......」
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