苦役甦す莇
Re:Episode7 Not a few knights have chosen early retirement
楓、奏、創の3人は、その日の夕方に隣の地区である『キサラギ地区』に向かった。
そして携帯端末のマップ表示機能を用いて、何度か道を間違えながらも目的の『ミズアメ・リサーチ』に到着した。
キサラギ地区の街中にあるビルの1つ、『ネフィビル』という所の4階にあった。
ビルの中はまだ夕方だと言うのに、夜中かと疑うほど暗く、そして建物の構造上の問題故か、湿気が高く妙に空気がジメジメしていた。
3人は口を揃えて「何か陰気臭い感じ」という印象を抱いた。
3人はカビとホコリで汚れた階段を上がっていき、4階の薄暗い廊下の奥から僅かに差す光を頼りに、4階の廊下を進んで行った。
廊下の奥から差していた光の正体は、『ミズアメ・リサーチ』の事務所から出ていた光で、3人が『ミズアメ・リサーチ』と書かれた看板を見た時、少し安堵の気持ちが出てきた。
楓を先頭にして、3人は『ミズアメ・リサーチ』の扉を開いた。
「こんにちは〜......どなたかいらっしゃいますか〜?」
楓が恐る恐る事務所の中に向かって声をかけると、事務所の奥の方からひょこひょこと人が出てきた。
「あれ? 学生さん? まぁいいや、取り敢えずこちらにどうぞ。」
見た感じトラオと同年代くらいの青年が出てきて、3人を奥の部屋に案内した。
「いやぁ学生さんのお客さんなんて初めてだなぁ。取り敢えず自己紹介からさせていただきます。私はこのミズアメ・リサーチの調査官兼事務官をしている鬱宮 浄慈です。ご要件はなんでしょうか?」
「あ、足利 百さんと椎名 虎雄さんの紹介できました。
ウツノミヤさんを介して『ハイス サクリさん』に会ってこいって。」
「あぁ〜。君たちがあの3人組か。あ、いや既にモモさんから連絡は貰ってるんだ。
でも丁度タイミングが悪くて、今ここにサクリさんは居ないんだ。」
「そうなんですか。いつ頃会えますか?」
「それが分からないんだ。サクリさんって基本的にこの事務所に居るんだけど、極稀に外出する時があって、そういう時は決まって帰ってくる時間は不定なんだ。
さっきタイミングが悪いって言ったのは、この事で、今まさにこの『極稀にする帰ってくるタイミングが不明な外出』中なんだ。
だからどの時間に戻ってくるかなんて一概に言えないと言うのが答えなんだ。すまないね。」
3人は顔を見合わせた。そして困った表情をしきりに見せ合ったあと、もう一度ジョウジの事を見た。
「ん〜......そう困った顔をされてもなぁ......取り敢えず僕的に心当たりのある場所をメモに書き出すから、それを頼りに探して来てくれ。
僕も僕なりに仕事の合間にサクリさんの事を探すから。」
ジョウジはメモ紙に3箇所程度場所を書き記した。ジョウジが書き出した場所は『有馬ファーム』という牧場、『鹿仙堂』という博物館、そして『メガロワールド』というゲームセンターだ。
「これらは過去にサクリさんが行ったことのある外出先だ。これ以上の心当たりは無いから、取り敢えずこれが今現在の僕が出せる最大限の情報だ。」
「分かりました。3箇所なら丁度3人で手分けして向かえます。ありがとうございます。」
3人はそれぞれ場所を振り分け、それぞれの場所に向かった。『有馬ファーム』には創、『鹿仙堂』には楓、『メガロワールド』には奏が向かった。
有馬ファームに向かった創の場合
創はミズアメの事務所からタクシーに乗り、車に揺られること数十分。有馬ファームに到着。
そして直ぐに牧場主の人がいる場所まで行き、聞き込みを始めた。
「すみません。僕、ミヨシヤマ学園の生徒なのですけど、『ハイス サクリ』さんという方を探してまして、以前ここにサクリさんが訪れた事があると伺ったのですが。」
「ん? ハイスさん? あぁ〜覚えてるよ。ハイスさんの何が聞きたいんだい?」
「ここに来た時の様子について伺いたいです。」
「ここに来た時の様子......確か、いきなり『備蓄庫に人がいるから開けてもらって良いですか?』なんて言ってきて、おかしな事言うもんだと思って備蓄庫開けたら、そこに人が居たんだよ。
あまりにも突拍子も無かったというか、飛び抜けてヘンチクリンな出来事だったから凄く覚えてるよ。
いつから備蓄庫に人が居たのかとか、なんで備蓄庫に人がいる事が分かったのかとか、色々と聞きたかったんだけど、ハイスさん名乗るだけ名乗って、その後備蓄庫の中にいたひと連れてったっきりここに来なくなったからさ。結局何が何だか分からずじまい。」
「備蓄庫に人が居た?」
「そうなんだよ。女の子が居たんだよ。あ、ちょうど君くらいの年齢の子さ。ハイスさんがあっという間に連れてったから、名前は知らないけど。
でも、何処と無く君と似ていたような気がするな。」
「俺と......似ていた?」
鹿仙堂に向かった楓の場合
楓は、ミズアメの事務所を出た後、徒歩で向かい、歩いてる途中で携帯端末を用いて、事前に鹿仙堂にアポを取った。
そして到着するやいなや、鹿仙堂の館長と会い、展示ブースの奥にある応接室に通された。
「お時間さいていただき、ありがとうございます。今日は『ハイス サクリ』さんのことについて伺いたいのですが。」
「あぁハイスさんの事についてね。ハイハイ。ご説明致しますよ。ささ、まずはそちらに腰をかけて、お茶でも飲みながらゆっくり説明をお聞きください。」
カエデは促されるままに椅子に座り、出されたお茶にゆっくりと口をつけた。
この辺の地域では滅多に無い博物館。その応接室というものだから、部屋はとても立派な物ばかりで飾られていた。
椅子ひとつですら素晴らしい彫刻作品のようである。綺麗に彫り込まれた肘掛けが両端にくっついていて、美しいカエデのレリーフが背もたれに埋め込まれていた。
「ハイスさんという方がこちらにいらしたのは『8年前』の事になりますね。」
「8年前?」
「まぁ、なんで8年も前に来た方をこんなにもハッキリと覚えているかというのは理由がありましてね。
カエデさん、8年前と言えば何が起きたか覚えてますか?」
「8年前......8年前の大きな出来事と言えば、モリオー地区周辺で起きた大地震ですかね?」
「そうだね。8年前の大震災。その時、彼女......ハイスさんが来ていたんだ。
厳密に言えば、その時と言うより、地震が起きる少し前にやって来たんだ。
まぁその当時の話が複雑怪奇で、長くなってしまうから、まずは結論から言わせてもらうよ。8年前の地震の原因は『ここ』にあるんだ。」
「どういう事です?」
「私自身、当時ハイスさんから説明されたんだが、あまりよく理解出来なくてね。なんでも、1回壊れたら、もう2度と元には戻せなくなる『不可逆の力』なるものが、この世界に存在しているらしい。
当然それらは非常に危険、かつ不安定な存在だから、ハイスさんはその『不可逆の力』を秘めた少年少女を探して保護していたらしい。
よく分からないけど、ハイスさんはそれらの『不可逆の力』という物を制御する方法を知っていて、野放しになっている危険な存在を集めて、制御する活動をしているというワケらしい。
そして『8年前』の当時、その『不可逆の力』を有する危険な存在が、『ここ』に居ることをハイスさんは突き止めた。ハイスさんはここにやって来て、その『不可逆の力』を有する子を説得して連れていこうとしたが、説得に失敗。そしてその子は力を暴走させて、8年前の大震災を引き起こしたというワケ。
私も今君に説明していて、自分でも何を言っているのかよく分からないけど、兎に角そういう事らしい。
震災によって多くの人が亡くなった。その原因をこの目で見てしまったし、あまりにも突拍子も無い出来事が起こったものだから、私はこうして覚えているんだよ。」
「なるほど......8年前そんな事が......」
「8年前と言えば君は小学生くらいかな? 少女であった君にとっては、あの大震災はさも怖かっただろう?」
「そうですね......あの地震の時、丁度震源地近くにいましたから......」
「あの震災の数日後の報道は今になっても忘れられないよ。
防衛騎士団の聖騎士の方達が現場に向かって、もう亡くなられた方の遺体を瓦礫の山から拾いだしたり、もう救う事の出来ないぐらいの重症を負った方に対して、目の前の救う事の出来ない命を看取ったり......私があの立場であったら絶望していただろう......なんて思ったりして。
実際、あの震災を境に騎士団から抜けていった聖騎士の方達がいるという噂も聞いた事がある。まぁ、普通の感覚を持った人間なら続ける事なんて出来ないだろうね。」
ふと、カエデはあの日......8年前の震災の日のことを思い出していた。
カエデが存在する世界は、大きく2つの勢力に大別する事が出来る。
1つはカエデが住んでいる穏健派の『ログ』という勢力。『ログ』は対話を主な解決手段として用い、非武装や平和を体現した勢力である。
もう1つは『アックス』と呼ばれる過激派勢力。こちらは先程の『ログ』とは正反対で、武装し、圧倒的な兵力等で他を制圧する事を解決手段として用いる。
『ログ』では国家などは存在しなく、ただ便宜上地区ごとに名称を与えられているだけであり、『ログ』全体が1つの大きな国として見ることが出来る。
対する『アックス』では、『アックス』という枠組みは過激派勢力全体を指しただけのものであり、『アックス』内には様々な国や地域が存在する。そしてそれらの国は終わる事の無い闘争を続けている。
このような状態になってしまった原因の一つは、『アザムキソウセキ』による世界の融合の『失敗』であり、半分平和半分闘争という混在する結果になってしまった。
穏健派『ログ』は、過激派『アックス』内における闘争の飛び火や、非武装の『ログ』に対する侵犯等を恐れ、『防衛騎士団』という物を設立する。
『防衛騎士団』により、『ログ』を防衛する『結界』などが張られ、平和維持の努力がなされている。
更に、『防衛騎士団』には『ログ』の防衛以外にもう1つ役職があり、『ログ』内における災害等の救助活動も仕事である。
防衛騎士団に属する聖騎士は、穏健派『ログ』に住む人々を信じ、その人々の安全や平和を維持する事が務めである。
しかし8年前『ログ』の『モリオー地区』で起きた大震災、その時防衛騎士団の聖騎士達の多くは絶望する事となる。
そして聖騎士の1人であった鬱宮 黎もまた、その日絶望し、信じていたものに裏切られる事となる。
「団長、これは一体どういう事ですか? 何故撤退命令が下されたのですか?」
「未知の現象が起きている。時戻しですら直らない程の破壊現象。今まで聞いたことも無い現象だ。これ以上ここに留まるのは危険だ。だから撤退する。」
「理解出来ません。目の前に救えるかもしれない命があると言うのに! それをわざわざ見捨てるんですか?」
「レイよ。『ログ』の結界は我々騎士団全員の魔力で成り立っているのは分かるだろう? 今ここで団員が減れば結界は弱くなる。そうなれば過激派『アックス』からの攻撃等で2次被害、3次被害が起こる恐れがある。」
「今助ければ助かるかも知れない命より、我々の安全の方が優先だと? そう言いたいのですか?」
「これは俺よりもっと上の役職の方からの命令だ。これ以上お前が食い下がるなら、俺にじゃなくて騎士団本部に問い合わせろ。」
そして携帯端末のマップ表示機能を用いて、何度か道を間違えながらも目的の『ミズアメ・リサーチ』に到着した。
キサラギ地区の街中にあるビルの1つ、『ネフィビル』という所の4階にあった。
ビルの中はまだ夕方だと言うのに、夜中かと疑うほど暗く、そして建物の構造上の問題故か、湿気が高く妙に空気がジメジメしていた。
3人は口を揃えて「何か陰気臭い感じ」という印象を抱いた。
3人はカビとホコリで汚れた階段を上がっていき、4階の薄暗い廊下の奥から僅かに差す光を頼りに、4階の廊下を進んで行った。
廊下の奥から差していた光の正体は、『ミズアメ・リサーチ』の事務所から出ていた光で、3人が『ミズアメ・リサーチ』と書かれた看板を見た時、少し安堵の気持ちが出てきた。
楓を先頭にして、3人は『ミズアメ・リサーチ』の扉を開いた。
「こんにちは〜......どなたかいらっしゃいますか〜?」
楓が恐る恐る事務所の中に向かって声をかけると、事務所の奥の方からひょこひょこと人が出てきた。
「あれ? 学生さん? まぁいいや、取り敢えずこちらにどうぞ。」
見た感じトラオと同年代くらいの青年が出てきて、3人を奥の部屋に案内した。
「いやぁ学生さんのお客さんなんて初めてだなぁ。取り敢えず自己紹介からさせていただきます。私はこのミズアメ・リサーチの調査官兼事務官をしている鬱宮 浄慈です。ご要件はなんでしょうか?」
「あ、足利 百さんと椎名 虎雄さんの紹介できました。
ウツノミヤさんを介して『ハイス サクリさん』に会ってこいって。」
「あぁ〜。君たちがあの3人組か。あ、いや既にモモさんから連絡は貰ってるんだ。
でも丁度タイミングが悪くて、今ここにサクリさんは居ないんだ。」
「そうなんですか。いつ頃会えますか?」
「それが分からないんだ。サクリさんって基本的にこの事務所に居るんだけど、極稀に外出する時があって、そういう時は決まって帰ってくる時間は不定なんだ。
さっきタイミングが悪いって言ったのは、この事で、今まさにこの『極稀にする帰ってくるタイミングが不明な外出』中なんだ。
だからどの時間に戻ってくるかなんて一概に言えないと言うのが答えなんだ。すまないね。」
3人は顔を見合わせた。そして困った表情をしきりに見せ合ったあと、もう一度ジョウジの事を見た。
「ん〜......そう困った顔をされてもなぁ......取り敢えず僕的に心当たりのある場所をメモに書き出すから、それを頼りに探して来てくれ。
僕も僕なりに仕事の合間にサクリさんの事を探すから。」
ジョウジはメモ紙に3箇所程度場所を書き記した。ジョウジが書き出した場所は『有馬ファーム』という牧場、『鹿仙堂』という博物館、そして『メガロワールド』というゲームセンターだ。
「これらは過去にサクリさんが行ったことのある外出先だ。これ以上の心当たりは無いから、取り敢えずこれが今現在の僕が出せる最大限の情報だ。」
「分かりました。3箇所なら丁度3人で手分けして向かえます。ありがとうございます。」
3人はそれぞれ場所を振り分け、それぞれの場所に向かった。『有馬ファーム』には創、『鹿仙堂』には楓、『メガロワールド』には奏が向かった。
有馬ファームに向かった創の場合
創はミズアメの事務所からタクシーに乗り、車に揺られること数十分。有馬ファームに到着。
そして直ぐに牧場主の人がいる場所まで行き、聞き込みを始めた。
「すみません。僕、ミヨシヤマ学園の生徒なのですけど、『ハイス サクリ』さんという方を探してまして、以前ここにサクリさんが訪れた事があると伺ったのですが。」
「ん? ハイスさん? あぁ〜覚えてるよ。ハイスさんの何が聞きたいんだい?」
「ここに来た時の様子について伺いたいです。」
「ここに来た時の様子......確か、いきなり『備蓄庫に人がいるから開けてもらって良いですか?』なんて言ってきて、おかしな事言うもんだと思って備蓄庫開けたら、そこに人が居たんだよ。
あまりにも突拍子も無かったというか、飛び抜けてヘンチクリンな出来事だったから凄く覚えてるよ。
いつから備蓄庫に人が居たのかとか、なんで備蓄庫に人がいる事が分かったのかとか、色々と聞きたかったんだけど、ハイスさん名乗るだけ名乗って、その後備蓄庫の中にいたひと連れてったっきりここに来なくなったからさ。結局何が何だか分からずじまい。」
「備蓄庫に人が居た?」
「そうなんだよ。女の子が居たんだよ。あ、ちょうど君くらいの年齢の子さ。ハイスさんがあっという間に連れてったから、名前は知らないけど。
でも、何処と無く君と似ていたような気がするな。」
「俺と......似ていた?」
鹿仙堂に向かった楓の場合
楓は、ミズアメの事務所を出た後、徒歩で向かい、歩いてる途中で携帯端末を用いて、事前に鹿仙堂にアポを取った。
そして到着するやいなや、鹿仙堂の館長と会い、展示ブースの奥にある応接室に通された。
「お時間さいていただき、ありがとうございます。今日は『ハイス サクリ』さんのことについて伺いたいのですが。」
「あぁハイスさんの事についてね。ハイハイ。ご説明致しますよ。ささ、まずはそちらに腰をかけて、お茶でも飲みながらゆっくり説明をお聞きください。」
カエデは促されるままに椅子に座り、出されたお茶にゆっくりと口をつけた。
この辺の地域では滅多に無い博物館。その応接室というものだから、部屋はとても立派な物ばかりで飾られていた。
椅子ひとつですら素晴らしい彫刻作品のようである。綺麗に彫り込まれた肘掛けが両端にくっついていて、美しいカエデのレリーフが背もたれに埋め込まれていた。
「ハイスさんという方がこちらにいらしたのは『8年前』の事になりますね。」
「8年前?」
「まぁ、なんで8年も前に来た方をこんなにもハッキリと覚えているかというのは理由がありましてね。
カエデさん、8年前と言えば何が起きたか覚えてますか?」
「8年前......8年前の大きな出来事と言えば、モリオー地区周辺で起きた大地震ですかね?」
「そうだね。8年前の大震災。その時、彼女......ハイスさんが来ていたんだ。
厳密に言えば、その時と言うより、地震が起きる少し前にやって来たんだ。
まぁその当時の話が複雑怪奇で、長くなってしまうから、まずは結論から言わせてもらうよ。8年前の地震の原因は『ここ』にあるんだ。」
「どういう事です?」
「私自身、当時ハイスさんから説明されたんだが、あまりよく理解出来なくてね。なんでも、1回壊れたら、もう2度と元には戻せなくなる『不可逆の力』なるものが、この世界に存在しているらしい。
当然それらは非常に危険、かつ不安定な存在だから、ハイスさんはその『不可逆の力』を秘めた少年少女を探して保護していたらしい。
よく分からないけど、ハイスさんはそれらの『不可逆の力』という物を制御する方法を知っていて、野放しになっている危険な存在を集めて、制御する活動をしているというワケらしい。
そして『8年前』の当時、その『不可逆の力』を有する危険な存在が、『ここ』に居ることをハイスさんは突き止めた。ハイスさんはここにやって来て、その『不可逆の力』を有する子を説得して連れていこうとしたが、説得に失敗。そしてその子は力を暴走させて、8年前の大震災を引き起こしたというワケ。
私も今君に説明していて、自分でも何を言っているのかよく分からないけど、兎に角そういう事らしい。
震災によって多くの人が亡くなった。その原因をこの目で見てしまったし、あまりにも突拍子も無い出来事が起こったものだから、私はこうして覚えているんだよ。」
「なるほど......8年前そんな事が......」
「8年前と言えば君は小学生くらいかな? 少女であった君にとっては、あの大震災はさも怖かっただろう?」
「そうですね......あの地震の時、丁度震源地近くにいましたから......」
「あの震災の数日後の報道は今になっても忘れられないよ。
防衛騎士団の聖騎士の方達が現場に向かって、もう亡くなられた方の遺体を瓦礫の山から拾いだしたり、もう救う事の出来ないぐらいの重症を負った方に対して、目の前の救う事の出来ない命を看取ったり......私があの立場であったら絶望していただろう......なんて思ったりして。
実際、あの震災を境に騎士団から抜けていった聖騎士の方達がいるという噂も聞いた事がある。まぁ、普通の感覚を持った人間なら続ける事なんて出来ないだろうね。」
ふと、カエデはあの日......8年前の震災の日のことを思い出していた。
カエデが存在する世界は、大きく2つの勢力に大別する事が出来る。
1つはカエデが住んでいる穏健派の『ログ』という勢力。『ログ』は対話を主な解決手段として用い、非武装や平和を体現した勢力である。
もう1つは『アックス』と呼ばれる過激派勢力。こちらは先程の『ログ』とは正反対で、武装し、圧倒的な兵力等で他を制圧する事を解決手段として用いる。
『ログ』では国家などは存在しなく、ただ便宜上地区ごとに名称を与えられているだけであり、『ログ』全体が1つの大きな国として見ることが出来る。
対する『アックス』では、『アックス』という枠組みは過激派勢力全体を指しただけのものであり、『アックス』内には様々な国や地域が存在する。そしてそれらの国は終わる事の無い闘争を続けている。
このような状態になってしまった原因の一つは、『アザムキソウセキ』による世界の融合の『失敗』であり、半分平和半分闘争という混在する結果になってしまった。
穏健派『ログ』は、過激派『アックス』内における闘争の飛び火や、非武装の『ログ』に対する侵犯等を恐れ、『防衛騎士団』という物を設立する。
『防衛騎士団』により、『ログ』を防衛する『結界』などが張られ、平和維持の努力がなされている。
更に、『防衛騎士団』には『ログ』の防衛以外にもう1つ役職があり、『ログ』内における災害等の救助活動も仕事である。
防衛騎士団に属する聖騎士は、穏健派『ログ』に住む人々を信じ、その人々の安全や平和を維持する事が務めである。
しかし8年前『ログ』の『モリオー地区』で起きた大震災、その時防衛騎士団の聖騎士達の多くは絶望する事となる。
そして聖騎士の1人であった鬱宮 黎もまた、その日絶望し、信じていたものに裏切られる事となる。
「団長、これは一体どういう事ですか? 何故撤退命令が下されたのですか?」
「未知の現象が起きている。時戻しですら直らない程の破壊現象。今まで聞いたことも無い現象だ。これ以上ここに留まるのは危険だ。だから撤退する。」
「理解出来ません。目の前に救えるかもしれない命があると言うのに! それをわざわざ見捨てるんですか?」
「レイよ。『ログ』の結界は我々騎士団全員の魔力で成り立っているのは分かるだろう? 今ここで団員が減れば結界は弱くなる。そうなれば過激派『アックス』からの攻撃等で2次被害、3次被害が起こる恐れがある。」
「今助ければ助かるかも知れない命より、我々の安全の方が優先だと? そう言いたいのですか?」
「これは俺よりもっと上の役職の方からの命令だ。これ以上お前が食い下がるなら、俺にじゃなくて騎士団本部に問い合わせろ。」
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