苦役甦す莇

マウスウォッシュ

Episode60 Mixing world


やぁ......こんにちは。


「貴方は誰ですか?」


僕は創造主マウスウォッシュ


「貴方が創造主ですか。ここはどこですか?」


ここは無限空間と呼ばれる、言わば君たちの世界の外だ。君たちの世界は有限世界と呼ばれ、僕の夢の中にある。つまり君たちは僕の夢の中の住人って事だ。


「......俺が最後に能力を使ってから......一体何が起きたんですか?」


君が世界の外の力......つまり僕の夢の外に干渉したから、今こんな風になってるんだ。


「どういう事ですか?」


まず、君はあの能力を使った後、母親やマヤは勿論のこと、2つの宇宙をその体内に納めた。
つまり君は僕の夢の中にある無数の世界のうち、2つの世界を取り込んだ事になる。
すると僕の夢に穴があいたんだ。そして僕の力に干渉したが故に、この無限空間に出てきてしまい、僕は目を覚ましたんだ。


「俺が......宇宙を2つ取り込んだ?」


あまりの衝撃で、君はこの無限空間に入ってくる直前の記憶は少し消えてしまったんだろう。だから覚えてない。


「これで......俺は貴方の望むままに......調停者であり神でもある存在......つまり最強に到達したワケですね?」


いや......ごく惜しい所までは来たが、残念だよ。君は完璧なアザムキソウセキでは無い。


「どういう事ですか?」


君は......最後の一つの欠片を......取り込むことを忘れてしまったんだよ。


「そんな! 俺は確実にあの時100%取り戻したハズです! 証拠に黄金の矢は俺に向かって飛んできた!」


それは君が残りの欠片を一気に取り込んで、一気に神に近づいた為に矢が勢いで飛んできただけだ。実際、最後の欠片はサクリの中に残されたままだ。


「サクリに......?」


そうだ。君が100%取り戻した状態で世界を2つ取り込んだなら、完璧だったのに......本当に残念だよ。君の存在はじきに崩壊する。


「そんな......」


自身の欠片を全て集めるという苦役......しかし君は最後に失敗した。あの時、サクリを助けずに殺してしまえば良かったものを......他人を殺さないように努力した挙句がこれじゃ、皮肉としか言い様がないな。


「俺は......もう一度自分の欠片を集めに?」


いや、君では無理だ。君の存在は活動を続行出来ないほどにバラバラになる。誰か他人が集めてくれることを祈るしか無かろう。


「そんな......そんな......俺の......俺の努力が......」


全て無駄だったというわけでは無いぞ。現に君の中では2つの世界が混ざり、今まさに1つになろうとしている。
君は世界が融合する壺の役割で、融合が終わり次第崩れて、新しくなった世界に欠片が散らばっていくだろう。


「誰かに、俺の欠片を集めるように頼めって事ですか? あの苦役をもう一度誰かに押し付けろと?」


それしか無かろう。君が復活したくないのであれば別に良いが。


「ワイズマンや貴方が干渉して直接集めることは?」


無理だ。我々無限空間の住人が、有限世界に干渉すれば、一瞬にして君たちの宇宙が多元破壊する。だからこそワイズマンは君たちへの干渉を極力避けたのだ。
一度だけサクリくんの肉体をワイズマンが操ったあの時は、君が光という宇宙のルールを覆す力を使った直後で、私の夢である宇宙空間が不安定になったからこそ出来た偶然の産物だ。


「そんな......折角平和な世界を築き上げたのに......わざわざ俺のせいで......」


君が誰かに頼みたくないのなら、君が自身の代行を創り出せばいい。


「俺の......代行?」


君の事を最後まで守り抜いた鎧があるじゃないか。


「カエデ?」


君はあれに名前を与えた。つまり自我を芽生えさせたんだ。彼女には誰にも言わない願いがあった。


「願い?」


他の人と同じく、肉体が与えられて、ただの一人の人間として生きたいという願いだ。君は、君自身の存在が無くなってしまう前に、最後の力を振り絞ってカエデに肉体を与えてあげても良いんじゃないか? そして彼女に君の欠片探しを頼めば良い。


「カエデに......俺がしてきた苦役を......」


迷うのは別に構わないが、迷ってる時間はもうそろそろで無くなる。それに、君の欠片を集める事だってモタモタしてられないんだぞ?


「どういう事ですか?」


腐ってしまうんだよ。君の肉体も精神も。君が復活するには、君のことを誰かに覚えておいて貰う事が必要なんだ。でも、君と繋がりが深かった人はほとんど死んでるし、君に関する記憶を失ったりしてる。


「完全に皆の記憶から俺のことが消えたら?」


消滅する。二度とは戻らない。それが有限世界の理だから。


「俺が......消える......」


新たな世界の礎として身を削ってまで頑張った事を皆から忘れ去られても、それで消滅しても満足だと言うのなら、別に欠片集めなぞ誰にも頼まなくて良いんだ。


「嫌だ......消えたくない......」


そうだろうね。その気持ちは君が旅に出た最初の気持ちと同じハズだ。消えたくないから欠片集めの旅に出て、仲間を作って行って......でもそれらは全て君の母親の掌の上で転がされてただけだった。
もう誰の思惑も絡んでない。だったら、君のワガママの一つくらい許されるんじゃないか?


「許される? 誰が許すんですか? 俺のこのクソみたいなワガママを! 誰が喜んでやるって言うんですか!」


カエデならやってくれるだろうさ。例え君のことを覚えてなくても、彼女には君を守り抜いたという事実が存在する。人間として生まれ変わっても、運命が君の欠片へと導くハズだ。


「カエデに頼むのは酷だ......でも消えたくない......うっ......うぅ......どうしたら......」


君は他人を思いやれる人間に育ったようだね。まぁ、他人を受け入れる最強の者を目指してたのだから、別に不自然なことでは無いが。
しかし、君はもう孤独を知っているハズだ。カンナや異世界の仲間に合わなければ孤独さえ知らないまま消滅を受け入れてただろうけど、君はきっと一人で消えていくのは辛いはずだ。
もし君が消滅したら、天国でも地獄でもない『無』へと辿り着く。そこに君の自我は無く、戦争も無ければ愛も無い。
そして本当に永遠に、君の魂は有限世界と交わる事は無くなるだろう。


「嫌だ! 一人は嫌だ......でもきっと誰かは言うだろう......『どうしてお前は消えなかったんだ』って......『どうして何の罪もないカエデに苦役を与えた』って......」


そんなの君の気にする事じゃない。君が消滅するか否かは君が決めていい事だ。


「......なら......俺は......」


俺は?


「最後に......最後の最後に......カエデに肉体を与える為......力を行使する......」


分かった。


「カエデ......あとは頼んだ......俺は世界中のどこかで待っている。」

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