苦役甦す莇
Episode53 Warrior & warrior
少年ダンクは、戦場に向かう荷馬車の中で震えていた。今から向かうの死と隣り合わせの戦場......しかし武者震いでは無い。死への恐怖から来る震えだ。
数時間に及ぶ戦い方レクチャーの後に渡されたのは、粗末な鎧と安っぽい青銅製の剣だけ。不安極まりない。
ダンクは横をチラッと見ると、真っ青な顔をした同じ歳くらいの青年がいた。この荷馬車には、戦争用の道具と運転手とダンクとこの青年しか乗っていない。
「ねぇ......君も怖いかい?」
「もちろんさ......こんなの怖くない方が可笑しいぜ......君、今から戦う敵がどんなのか知ってるかい?」
「あぁちょこっとだけだけど知ってるぜ。いきなり消えたり現れたりする幻術を使うような奴らだ。逃げてくる時に見たから間違いない。」
「そうなのか......レクチャーの時に大義の為とか散々言われたけど、噂によると空の監視者達がバンデットにカネで買収されたからこんな戦争に加担してるんだってよ。」
「カネの為に市民の命を安売りかよ......」
「俺らはまだ良い方だと思うよ。僕この荷馬車に乗る前にチラッと他の荷馬車を見たんだけど、奴隷兵の装備が命捨てるの前提で酷すぎるって思ったよ。」
「命捨てるの前提?」
「ああ。粗末な盾だけ......いやあれは最早盾なんてもんじゃないな。板だよ板。その粗末な板に爆破札が付けられてるんだ。きっと奴隷兵には自爆同然の特攻をさせるつもりだぜ。」
「......みんな頭おかしくなっちゃってるぜ。どうしてこんなにも戦争に勝ちたいんだ......」
「なんでも、バンデットの作戦担当が相当頭可笑しい奴らしい。
対象1人殺す為に、子供に爆弾入りプレゼントボックス渡して、人混みの中で爆発させるようなキチガイだって噂だ。
でもそんなキチガイだけど、バンデットの中では『姐さん』とか呼ばれて慕われてるらしい。」
「詳しいんだな。」
「知り合いにバンデットのメンバーが居るんだよ。まぁ魔獣にビビり散らすような小物だけどね。
そう言えば、随分長いこと乗ってるけど今どの辺なのかな?」
そう言われたダンクは、今どの辺まで来たのか気になった為、荷馬車からひょこっと顔を出し周りの景色を見た。すると、噴煙を上げている火山が視界に入った。
「な、なんだ? 噴火か?」
ダンクの声につられ、青年も顔を出し様子を伺った。
「こりゃ大きい......この分だと噴石とかがここら辺に飛んでくる危険性だってあるぜ......」
「あの辺りの火山といえば......」
「スイハ半島のキセ火山だ。間違いない。」
「キセ火山......? あのヒヒイロカネの剣が納められてるとかって噂の?」
「そうだよ。てか噂じゃないよ。本当に納められてる。」
「なんでそんな事知ってるのさ。」
「あの辺に昔住んでたからね。」
「へ〜。ヒヒイロカネの剣って本当にあるんだ。」
「なんでも、普通の人がヒヒイロカネの剣を持っても意味ないらしい。」
「どういう事?」
「ヒヒイロカネの剣は、高純度の生命エネルギーと合体して、神様が持って初めて本来の力を発揮するんだって。」
「そうなるとどうなるの?」
「さぁ? そこまでは分からない。」
「なるほどね......あそこにスイハ半島が見えたって事は、この辺はサマキ湖沼地帯辺りか。」
「多分このまま進んでいけばキーオート自然保護区......もうちょっと進むとナズキの森があって、森を抜けた所に中央街。」
「聞いたところによると中央街は火の海だってさ......」
「多分ナズキの森でも戦闘は始まってるだろうさ。森を管理してるギルドだって沢山いたわけだし......ギルド転覆されたらそりゃ怒るだろうさ。」
「バンデットの奴ら、森にまで手を出したのかな......あそこは特に魔獣が多いのに......」
「言っちゃ悪いけど、バカの集まりだから何にも考えずに手を出してるだろうね。もしかしたら、怒った魔獣達が自然保護区あたりに出てきてるかも。」
青年とダンクはどこで戦闘をするか全く伝えられていなかった。なので、どこで戦闘が始まるか予想するしか無かった。しかしその予想は大きく裏切られる事となる。
いきなり荷馬車の幌が破けて、驟雨の如く敵が荷馬車に乗り込んできたのである。
全く予想外のことかつ、意識外の事だったのでダンクと青年は反応出来ず、荷馬車に乗り込んできた敵に捕縛されてしまった。
「......貴様ら一般市民から寄せ集められた民兵だな?」
「なんでそんな事......」
「バンデットの連中にしては若すぎる。そして装備がお粗末過ぎる。いかにも空の監視者らしいお役所仕事で、いかにもバンデットらしい雑な仕事だ。」
ダンクと青年を捕縛したのはどうやら旧ギルドのメンバーらしい。空の監視者とバンデットの事をよく知ってるあたりそうでは無いかとダンクは推察した。
「おい! 荷馬車を止めろ。じゃないと運転手の貴様を殺すぞ!」
荷馬車の前の方ではかなり物騒な会話が聞こえた。そして、馬の嘶きと共に荷馬車はゆっくりと止まった。
捕まった運転手とダンクと蒼年は、荷馬車から半強制的に降ろされ、一列に並ばされて正座させられた。
ダンク達3人に対して、旧ギルドのメンバーは2人。しかし敵は能力者である可能性は高く、戦闘力が高いからこそ奇襲を仕掛けてきたのだろう。その為、下手に逆らう事は出来なかった。
1人が積荷を確認している間に、もう1人が3人の前をウロウロしながら話し始めた。
「これから一本の剣をお前らの前に置く。それで殺し合いをしろ。生き残った奴は俺らに忠誠を誓え。そうしたら手厚い待遇で迎え入れてやる。」
男は説明し終えると、3人の前に剣をポンと置いた。
誰よりも早く反応し、剣をその手に取ったのは運転手であった。
「はは......悪いな小僧ども......俺は生き延びたいんだ......悪く思うなよ? お前らは所詮どの道戦場で死ぬ運命だったんだからな。」
ダンクと青年は、運転手から一定の距離をとった。そしてボソボソと作戦を耳打ちし合った。
「俺が右から組み付くから、お前は左から剣を取り上げろ。いいな。」
「了解。」
ダンクと青年は出来るだけ手短に打ち合わせを済ませると、臨戦態勢をとった。
「何をごちゃごちゃと!」
運転手は大きく剣を振りかぶったが、動作がイマイチ素人臭かった。恐らく本物の剣を一度も握ったことが無いのだろう。
対してダンクは自身の身体能力には自信があった。毎日炭鉱で父親の手伝いをして筋力は並よりあるし、父親に護身術を学んでいたから剣を持った相手なんて屁でも無かった。
ダンクは滑るように地面を駆け、低姿勢で運転手に右側から突っ込み、剣が届かない背中に組み付いた。
「今だ!」
合図を聞いた青年は既に左から突進してきており、ダンクに気を取られていた運転手から、鮮やかに剣を取り上げた。
そして、何の躊躇も無くその運転手を刺し殺した。
「はァ......はァ......よくやったな。」
ダンクは青年を褒めた。しかし、青年の表情には翳りが見えた。
「どうした?」
青年はいきなりダンクに剣を向けた。その顔は鬼のような修羅の顔になっていた。
「死にたくなかったら動くな。いいな?」
咄嗟のことにダンクは、戦う意思の無いことを両手を挙げることで伝えた。すると青年は、剣の矛先をダンクから旧ギルドの男に向けた。
「おいおい。何の冗談だ?」
「この運転手には怨みがあった。ここで晴らせて清々した。
そしてもう一つ、アンタらギルドにも恨みがある。」
「そりゃなんだ? 言ってみろ。」
「それは前の戦争で、お前らギルドが武力介入した為に俺の昔住んでた街は滅びて、仲の良かった友人が沢山死んだ。」
「前の戦争の武力介入?」
「忘れたとは言わせないぜ! スイハ半島での戦闘の事だ! あの戦闘でキセ火山の麓にあった集落は全滅。特にアソコにアジトを構えていた『実力至上主義ルド』が一番憎い!」
「あぁ......あの時のことか。」
「何呑気な事言ってるんだ! いいか、サシで俺と剣の勝負をしろ。能力は使うなよ? いいな?」
「なんでお前なんかの話に乗る必要がある? 俺は能力でお前の事を一撃で殺す事だって出来るんだ。そして、その横の小僧もな。」
ダンクはヒヤッとした。もしかしたらこの青年は自分の命を差し出すかもしれない。そう思うと気が気でなかった。
「こいつは関係ないだろ! 俺とサシでやれって言ってんだぜ!」
「おいおい。お前震えてんぜ。そんなんで俺を殺せんのかよ? そんでもって荷馬車の中には俺の仲間がいる。もし仮に俺を殺したとしても、俺の仲間はサシの勝負とやらには関係ない。だからお前らを殺す事はルール違反でもなんでもないよな?」
「う......うるせぇ! いいから勝負しろ!」
「嫌だね。そんなに言うならその剣で俺を刺し殺してみろよ。」
「言ったな?」
青年は剣を握る力を最大まで高め、殺意の波動を解き放ち、男に向かって突っ走った。
しかし、その剣は男に届くことは無かった。男が能力を使ったのではない。ダンクが身を呈して止めたのだ。
深々とダンクに突き刺さった剣と流れ出る血を見て、青年は一旦落ち着き、そして混乱した。
「な......なんで、なんで止めたんだ......」
「はっ......お前このまま突き進んでいったらお前が死んでたぜ......勝てもしないのに突っ込むなんて馬鹿だぜお前......」
足元から崩れ落ちるダンクを、青年は支え、抱きかかえた。
「僕の為だとでも言うのか? 馬鹿はお前だぜ!」
「お前が死ぬって分かってて......見殺しに出来るかよ......そんなんだったら......俺が死ねばお前が助かる......そっちの方が良いと思ったんだ......」
「馬鹿野郎! お前が死んだら、お前の親が悲しむだろう!」
「分かってるじゃないか......それだったらお前が死んだら......お前の親が悲しむって......分かるよな? わざわざ命を捨てに行くんじゃねぇよ......」
「お前に俺の命を救う義理なんてねェだろ! 今日会ったばっかりだぜ!」
「お前とは......今朝からの......長い付き合いじゃないか......」
ダンクはそう言って、力なく腕を地に下ろし、瞼を閉じた。
「......馬鹿野郎......」
青年はダンクの亡骸を抱きかかえた。
「おぉ〜涙ぐましいねぇ......でも、俺たちに刃向かったお前は許されない。つまり問答無用で死刑だ。」
青年の首元には無慈悲にも刃が当てられていた。
「ははっ......いっそ殺せ。」
「あの世で再会出来るじゃないか良かったな。」
数時間に及ぶ戦い方レクチャーの後に渡されたのは、粗末な鎧と安っぽい青銅製の剣だけ。不安極まりない。
ダンクは横をチラッと見ると、真っ青な顔をした同じ歳くらいの青年がいた。この荷馬車には、戦争用の道具と運転手とダンクとこの青年しか乗っていない。
「ねぇ......君も怖いかい?」
「もちろんさ......こんなの怖くない方が可笑しいぜ......君、今から戦う敵がどんなのか知ってるかい?」
「あぁちょこっとだけだけど知ってるぜ。いきなり消えたり現れたりする幻術を使うような奴らだ。逃げてくる時に見たから間違いない。」
「そうなのか......レクチャーの時に大義の為とか散々言われたけど、噂によると空の監視者達がバンデットにカネで買収されたからこんな戦争に加担してるんだってよ。」
「カネの為に市民の命を安売りかよ......」
「俺らはまだ良い方だと思うよ。僕この荷馬車に乗る前にチラッと他の荷馬車を見たんだけど、奴隷兵の装備が命捨てるの前提で酷すぎるって思ったよ。」
「命捨てるの前提?」
「ああ。粗末な盾だけ......いやあれは最早盾なんてもんじゃないな。板だよ板。その粗末な板に爆破札が付けられてるんだ。きっと奴隷兵には自爆同然の特攻をさせるつもりだぜ。」
「......みんな頭おかしくなっちゃってるぜ。どうしてこんなにも戦争に勝ちたいんだ......」
「なんでも、バンデットの作戦担当が相当頭可笑しい奴らしい。
対象1人殺す為に、子供に爆弾入りプレゼントボックス渡して、人混みの中で爆発させるようなキチガイだって噂だ。
でもそんなキチガイだけど、バンデットの中では『姐さん』とか呼ばれて慕われてるらしい。」
「詳しいんだな。」
「知り合いにバンデットのメンバーが居るんだよ。まぁ魔獣にビビり散らすような小物だけどね。
そう言えば、随分長いこと乗ってるけど今どの辺なのかな?」
そう言われたダンクは、今どの辺まで来たのか気になった為、荷馬車からひょこっと顔を出し周りの景色を見た。すると、噴煙を上げている火山が視界に入った。
「な、なんだ? 噴火か?」
ダンクの声につられ、青年も顔を出し様子を伺った。
「こりゃ大きい......この分だと噴石とかがここら辺に飛んでくる危険性だってあるぜ......」
「あの辺りの火山といえば......」
「スイハ半島のキセ火山だ。間違いない。」
「キセ火山......? あのヒヒイロカネの剣が納められてるとかって噂の?」
「そうだよ。てか噂じゃないよ。本当に納められてる。」
「なんでそんな事知ってるのさ。」
「あの辺に昔住んでたからね。」
「へ〜。ヒヒイロカネの剣って本当にあるんだ。」
「なんでも、普通の人がヒヒイロカネの剣を持っても意味ないらしい。」
「どういう事?」
「ヒヒイロカネの剣は、高純度の生命エネルギーと合体して、神様が持って初めて本来の力を発揮するんだって。」
「そうなるとどうなるの?」
「さぁ? そこまでは分からない。」
「なるほどね......あそこにスイハ半島が見えたって事は、この辺はサマキ湖沼地帯辺りか。」
「多分このまま進んでいけばキーオート自然保護区......もうちょっと進むとナズキの森があって、森を抜けた所に中央街。」
「聞いたところによると中央街は火の海だってさ......」
「多分ナズキの森でも戦闘は始まってるだろうさ。森を管理してるギルドだって沢山いたわけだし......ギルド転覆されたらそりゃ怒るだろうさ。」
「バンデットの奴ら、森にまで手を出したのかな......あそこは特に魔獣が多いのに......」
「言っちゃ悪いけど、バカの集まりだから何にも考えずに手を出してるだろうね。もしかしたら、怒った魔獣達が自然保護区あたりに出てきてるかも。」
青年とダンクはどこで戦闘をするか全く伝えられていなかった。なので、どこで戦闘が始まるか予想するしか無かった。しかしその予想は大きく裏切られる事となる。
いきなり荷馬車の幌が破けて、驟雨の如く敵が荷馬車に乗り込んできたのである。
全く予想外のことかつ、意識外の事だったのでダンクと青年は反応出来ず、荷馬車に乗り込んできた敵に捕縛されてしまった。
「......貴様ら一般市民から寄せ集められた民兵だな?」
「なんでそんな事......」
「バンデットの連中にしては若すぎる。そして装備がお粗末過ぎる。いかにも空の監視者らしいお役所仕事で、いかにもバンデットらしい雑な仕事だ。」
ダンクと青年を捕縛したのはどうやら旧ギルドのメンバーらしい。空の監視者とバンデットの事をよく知ってるあたりそうでは無いかとダンクは推察した。
「おい! 荷馬車を止めろ。じゃないと運転手の貴様を殺すぞ!」
荷馬車の前の方ではかなり物騒な会話が聞こえた。そして、馬の嘶きと共に荷馬車はゆっくりと止まった。
捕まった運転手とダンクと蒼年は、荷馬車から半強制的に降ろされ、一列に並ばされて正座させられた。
ダンク達3人に対して、旧ギルドのメンバーは2人。しかし敵は能力者である可能性は高く、戦闘力が高いからこそ奇襲を仕掛けてきたのだろう。その為、下手に逆らう事は出来なかった。
1人が積荷を確認している間に、もう1人が3人の前をウロウロしながら話し始めた。
「これから一本の剣をお前らの前に置く。それで殺し合いをしろ。生き残った奴は俺らに忠誠を誓え。そうしたら手厚い待遇で迎え入れてやる。」
男は説明し終えると、3人の前に剣をポンと置いた。
誰よりも早く反応し、剣をその手に取ったのは運転手であった。
「はは......悪いな小僧ども......俺は生き延びたいんだ......悪く思うなよ? お前らは所詮どの道戦場で死ぬ運命だったんだからな。」
ダンクと青年は、運転手から一定の距離をとった。そしてボソボソと作戦を耳打ちし合った。
「俺が右から組み付くから、お前は左から剣を取り上げろ。いいな。」
「了解。」
ダンクと青年は出来るだけ手短に打ち合わせを済ませると、臨戦態勢をとった。
「何をごちゃごちゃと!」
運転手は大きく剣を振りかぶったが、動作がイマイチ素人臭かった。恐らく本物の剣を一度も握ったことが無いのだろう。
対してダンクは自身の身体能力には自信があった。毎日炭鉱で父親の手伝いをして筋力は並よりあるし、父親に護身術を学んでいたから剣を持った相手なんて屁でも無かった。
ダンクは滑るように地面を駆け、低姿勢で運転手に右側から突っ込み、剣が届かない背中に組み付いた。
「今だ!」
合図を聞いた青年は既に左から突進してきており、ダンクに気を取られていた運転手から、鮮やかに剣を取り上げた。
そして、何の躊躇も無くその運転手を刺し殺した。
「はァ......はァ......よくやったな。」
ダンクは青年を褒めた。しかし、青年の表情には翳りが見えた。
「どうした?」
青年はいきなりダンクに剣を向けた。その顔は鬼のような修羅の顔になっていた。
「死にたくなかったら動くな。いいな?」
咄嗟のことにダンクは、戦う意思の無いことを両手を挙げることで伝えた。すると青年は、剣の矛先をダンクから旧ギルドの男に向けた。
「おいおい。何の冗談だ?」
「この運転手には怨みがあった。ここで晴らせて清々した。
そしてもう一つ、アンタらギルドにも恨みがある。」
「そりゃなんだ? 言ってみろ。」
「それは前の戦争で、お前らギルドが武力介入した為に俺の昔住んでた街は滅びて、仲の良かった友人が沢山死んだ。」
「前の戦争の武力介入?」
「忘れたとは言わせないぜ! スイハ半島での戦闘の事だ! あの戦闘でキセ火山の麓にあった集落は全滅。特にアソコにアジトを構えていた『実力至上主義ルド』が一番憎い!」
「あぁ......あの時のことか。」
「何呑気な事言ってるんだ! いいか、サシで俺と剣の勝負をしろ。能力は使うなよ? いいな?」
「なんでお前なんかの話に乗る必要がある? 俺は能力でお前の事を一撃で殺す事だって出来るんだ。そして、その横の小僧もな。」
ダンクはヒヤッとした。もしかしたらこの青年は自分の命を差し出すかもしれない。そう思うと気が気でなかった。
「こいつは関係ないだろ! 俺とサシでやれって言ってんだぜ!」
「おいおい。お前震えてんぜ。そんなんで俺を殺せんのかよ? そんでもって荷馬車の中には俺の仲間がいる。もし仮に俺を殺したとしても、俺の仲間はサシの勝負とやらには関係ない。だからお前らを殺す事はルール違反でもなんでもないよな?」
「う......うるせぇ! いいから勝負しろ!」
「嫌だね。そんなに言うならその剣で俺を刺し殺してみろよ。」
「言ったな?」
青年は剣を握る力を最大まで高め、殺意の波動を解き放ち、男に向かって突っ走った。
しかし、その剣は男に届くことは無かった。男が能力を使ったのではない。ダンクが身を呈して止めたのだ。
深々とダンクに突き刺さった剣と流れ出る血を見て、青年は一旦落ち着き、そして混乱した。
「な......なんで、なんで止めたんだ......」
「はっ......お前このまま突き進んでいったらお前が死んでたぜ......勝てもしないのに突っ込むなんて馬鹿だぜお前......」
足元から崩れ落ちるダンクを、青年は支え、抱きかかえた。
「僕の為だとでも言うのか? 馬鹿はお前だぜ!」
「お前が死ぬって分かってて......見殺しに出来るかよ......そんなんだったら......俺が死ねばお前が助かる......そっちの方が良いと思ったんだ......」
「馬鹿野郎! お前が死んだら、お前の親が悲しむだろう!」
「分かってるじゃないか......それだったらお前が死んだら......お前の親が悲しむって......分かるよな? わざわざ命を捨てに行くんじゃねぇよ......」
「お前に俺の命を救う義理なんてねェだろ! 今日会ったばっかりだぜ!」
「お前とは......今朝からの......長い付き合いじゃないか......」
ダンクはそう言って、力なく腕を地に下ろし、瞼を閉じた。
「......馬鹿野郎......」
青年はダンクの亡骸を抱きかかえた。
「おぉ〜涙ぐましいねぇ......でも、俺たちに刃向かったお前は許されない。つまり問答無用で死刑だ。」
青年の首元には無慈悲にも刃が当てられていた。
「ははっ......いっそ殺せ。」
「あの世で再会出来るじゃないか良かったな。」
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