苦役甦す莇

マウスウォッシュ

Episode47 World war 3rd

「あれ......なんか騒がしくないか?」


 炭鉱の町にいたラズリは、すぐさま異変に気がついた。


「どうしたんですか? ラズリ姐さん。」


「ジャック......一緒についてきなさい......今回アナタの出番になるかも知れないから......」


 ジャックと呼ばれた大男は、その重い腰をのっそりと上げた。


 ラズリとジャックは逃げ惑う人々の流れに逆らうように、町の中心にある広場に向かって歩いて行った。


 2人が広場に着くと、1番最初に目に付いたのは累々と積み上げられた死体の山。


「あ〜らら......酷いやられようだね......誰にやられた?」


 ラズリはまるでボロ雑巾のようにグチャグチャになって床に転がってるバンデットの仲間に訊ねた。


「く......クレル......族......とかいう奴らが......」


 そいつはそれだけ言うと、そこで気絶した。


「クレル族? 姐さん知ってますかい?」


「何回か文献で読んだことがある。獣人じゃなく、ちゃんとした人間だが、人間の中でも最も地位が低く、奴隷より下の存在。ケガレ多き忌むべき存在、ヒト非ざる者として迫害されてた......
500年か400年くらい昔の話だ。」


 ラズリは広場をグルッと見回した。すると、積み上げられた死体以外は町の建物に被害が無い事に気がついた。


「狙いは完全に私たちだけか......無差別ってワケじゃなさそうだ。」


「そんなヤツらがなんで今更......」


「さぁね......でも舐めてると死ぬよ。奴ら地下に追いやられた後、自分たちだけの力で発展して行って、今じゃ考えられないほどの技術を身につけたらしいから。
1番文献で取り上げられてたのは『擬似太陽』だな。」


 ラズリは死体の山を見上げながら言った。


「擬似太陽?」


「ヤツら地下生活で太陽が無いからって、自分たちの生命エネルギーを纏めて固形化して、太陽みたいな物作っちまったのさ。とんでもないことしやがる。
それに、ヤツら地上は歩けないってんで、地理的に繋がってない空間に一瞬で転移出来る技術まで開発したらしい。」


「ふぅん......簡単に言えば、地下暮らししてたカス共が俺らの仲間ぶち殺したってワケッスね。」


 ジャックは奥歯をギリッと噛み締めた。


「......と話してたらあちらから出向いてく
れたようだ......」


 ラズリは広場の横にある建物の屋根を指さした。建物の屋根には怪しい人影が3つ見えた。


「結局この町にヒヒイロカネが無いことは分かったんだから、マヤのお使いは終了だろ?
それなら私たち好きに暴れていいんじゃないかな?」


 ラズリはジャックの肩をポンポンと叩いた。


「じゃあ姐さん......遠慮なくやらせてもらいますよ......」


 ジャックがやる気満々で指の節を鳴らすと、それに呼応するかのように奴らは屋根から飛び降りて広場に近寄ってきた。


「マジで変なカッコ......気持ちワル......」


 ラズリが悪態をつくほどのクレル族の装束。白を基調とした服装で、黒い線のような物が複雑に入り組んで模様を作っている。どこか原始的かつ宗教的な怖さを感じるもので、近寄り難いモノというイメージが強い。


「......聞くところによると、君達は抑圧され続け、ギルドという組織から爪弾きにされた者達の徒党らしいね。」


 近づいてきたクレル族3人のうち真ん中の1人が喋った。


「それがどうした!」



「いやさ、結局僕らは似たもの同士なんじゃないのかなって思っただけだよ。僕らだって人間という枠から爪弾きにされて迫害された者達だ。

人なのにヒト非ざるものとしての扱いを受けてきた。不幸自慢じゃないけど、君達よりずっと昔から、君達よりずっと悪い扱いを受けてきたんだよ。」



 真ん中で1人喋り続ける奴を除いた2人のクレル族は、手から灰を出してその場から消え去った。


「だからそれがどうしたんだよ!」


 ジャックは思い切り右ストレートを放ったが、当たる寸前で相手は灰を撒いて消えてしまった。


「分かってないな......いきなり殴るなんて、やっぱり君達も迫害してきた奴らの子孫だね。
血は争えないみたいだ。」


 そいつはいつの間にかジャックの背後を取っていた。


「ジャック! 後ろ!」


「やろぉ!!」


 ラズリの声を聞いたジャックは後ろに蹴りを入れるが、クレル族はのらりくらりと躱した。


「野郎じゃないよ。僕の名前はフワド......名乗ったんだからちゃんと名前で呼んでね......」


 フワドと名乗ったクレル族はジャックの攻撃を尽く避けた。


「まぁ......君達はきっと自分の都合のいいようにしか解釈しない人種だろうから、話しても無駄なんだろうけどさ。」


 フワドはいきなり攻撃に転じ、ジャックにパンチを一発お見舞いしてやった。


「......フワド君さぁ......」


 ジャックはパンチされて出てきた鼻血を手で拭き取りながら話し始めた。


「なんだよ」


「......何歳?」


「何を聞くかと思えば......」


「何歳だって聞いてんだよ!」


 ジャックが張り上げた大きな声に、フワドは若干ビクッとしてしまった。


「じゅ......15だよ......」



「ふ〜ん......15ねぇ......フワドくんさ、俺らに喧嘩ふっかけなけりゃ、あと50年くらいは長生き出来たろうにさ......」


 ジャックは床に手をついた。


「残念だ......今日が君の命日で、ここが君の墓標になるね。」


 ジャックがそう言い終えると、いきなりフワドは吹っ飛んだ。


 無様に地面に背をつける前にフワドは灰を使って転移し、地面に足をつけて戦闘の構えを取った。


「......いま何が起きたか分かんねぇだろ? 俺は地面に手をつけてて、後ろに控えてるラズリ姐さんは手を出してない。
なのになんで今自分は吹っ飛ばされたんだろうってな。」


 フワドは完全に心を読まれていた......と言うよりかはジャックはある事をして、初見殺し故にフワドが混乱している事はジャックにとって完全に分かっていた。


「何したんだ......」


「フワド君さぁ......ずっと地下に引きこもり過ぎだったんじゃないの?」


 ジャックがそう言うと、フワドはもう一度吹っ飛ばされた。


「もうちょっとお日様浴びて、外の世界の事知らなきゃいけなかったんじゃないかな?」

 ジャックは馬鹿にするような言い方をしながら、フワドに近づいて行った。


「......なんだって?」


「だからさ、俺が言いたいのはテメェら世の中の事知らなさ過ぎ。
お前らが瞬間転移使えるのと同じように、俺らも何かしらの力を持ってるってワケ。」


 ジャックは両手の拳を高く挙げた。すると、ジャックの両脇の地面が高く盛り上がった。


「......腕......?」


 フワドには、ジャックの両脇の盛り上がった地面が大きな両腕のように見えた。


「正解。商品として土の槌ハンマーをプレゼントしてやろう。」


 ジャックは天高く突き上げた拳を、そのままま振り下ろした。

 すると、その動きに合わせて両脇の土腕も振り下ろされ、フワド目掛けて一直線。


 慌てたフワドは灰を使ってショートワープし、窮地を脱した。


「......アンタ......土とか砂を操れんのか......」

 フワドは冷静に事態を分析した。


「またまた正解。商品として今度はもっと面白い物を見せてやろう。」


 ジャックは膝を曲げ、地面に両手をついた。すると、今度はフワドの近くの地面に異常が起きた。

 フワドの立っている地面が盛り上がったかと思うと、いつの間にか土や砂がフワドの事を取り囲んだ。


「......くそ......ここで灰切れかよ......もっと持ってくれば良かった......」


 最悪な事にこのタイミングでフワドは転移が使えなくなってしまった。


 更に、フワドを取り囲んだ土や砂は形を変え大きな人の形となり、フワドは土人形ゴーレムの手に掴まれてる状態となった。


「面白いだろう? これが魔獣の息の根すら一撃で止める俺様のゴーレムよ!」

 ジャックはゆっくりと手のひらをしめていった。するとゴーレムの手も連動し、フワドは少しずつ締め上げられていった。


「うっ......うわあぁぁあああああああ!」


「もっと叫べ! 仲間のクレル族を呼べ! 俺が全部仕留めて、永遠に地下に沈めてやる!」

 ジャックがフワドを一瞬で殺さないのは理由があった。

 まず、単純に殺しを楽しみたい為。そして、仲間を呼ばせて纏めて始末する為。


「う......ぐ......やっぱり......君達は分かってない......」


 フワドの目付きを見て、ジャックは違和感を感じた。


 ジャックはフワドの事を握ったまま周りに目線を写した。


「姐さん......こりゃ一体......」


 いつの間にかジャックとラズリは取り囲まれていた。しかし、取り囲んだのはクレル族では無い。


「......WANTED扱いのギルドども......」


 ラズリは取り囲んでいる奴らの顔に見覚えがあった。

 全員、マヤがWANTED扱いにしろと指示したギルドのメンバーであった。



「なるほどね......クレル族とギルドは手を組んで、バンデット及び空の監視者を敵に回すというのか。

なるほどなるほど......今、私は援軍を呼んだ。この炭鉱町を中心に新たな争いの波が広がってくだろう......

こりゃ......第3次世界大戦の始まりだ......」

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