苦役甦す莇
Episode23 Wish to dominate
割れた船の後ろ半分からホロウが出てきた。
いや、厳密に言えば『ホロウの顔をしたミラ』が出てきた。
「離して! 離して!」
ミラはクーネの首根っこを強引に鷲掴みにして、無理やり引っ張って来ていた。
「うるせぇ! ちったぁ静かにしてろ!」
その行為は俺にとって、とても腹立たしく感じるものだ。
俺が尊敬しているホロウの姿で、俺が仲良くしているクーネを痛めつける光景。
俺は自身の怒りのメーターが少しずつ上がっていくのを自覚していた。
ミラはクーネの首を掴んでる手とは逆の手で、自らの顔についていた『仮面』のようなものを剥がし、首に付けていた変声機付きチョーカーを外した。
そして彼はマヤを視認するなり、彼女に向かってこう言った。
「アンタが今のボスか?」
「あぁそうだ。私の前任者は少々無能過ぎたようだ。で、どうだった? ラズリが作った能力付与特殊魔獣と、シュバルが作った試作型擬似植物魔獣は?」
「かなり好調だったぜ。そこにいるアザムキ坊ちゃんに本気を出させるくらいにな。」
......ラズリの能力魔獣? シュバルの植物魔獣?
「『影の犬』と『植物の魔獣』2つの実験も兼ねてたんだよ。お前らを襲うこと込みでな。そして、私とミラはここが初対面という事になるな。」
「ラズリも......シュバルも......お前らの仲間なのか?」
この時、俺は本当に訳が分からなかった。恩人であるシュバルが何故マヤの暴走に付き合っているのか。
何故ラズリはバンデットに襲われた側の中央庁の人間なのに、バンデット側に組みしているのか。
「私が引き入れたんだよ。私の能力でな。
顔見知りの腹心とか中央庁の内通者がいないと心細いだろうが。」
「......じゃあ......なんでクーネを拘束してんだよ…...」
俺の中の怒りはまるでマグマのように煮えたぎっていた。
「お前の事だから何か人質のようなものを用意しておかないと、私に協力しないだろ?
少なくとも私は、お前はメリットデメリット無しに動く男とは思ってない。
だから、黙って私と一緒にダイオウイカを倒すとも思ってない。」
「......だからクーネを人質にしたのか......?」
「そういう事だ。お前、1番仲良くしてるそうじゃないか。
用が済めば解放してやるよ。」
「分かった......ならお前に従おう。
サギ、フラン。何も言わずただ静観しててくれ。
カエデ......バトルモードに変更。」
「分かった。気をつけてね。」
「私達は少し離れた所で見てるから。」
『了解しましたマスター。』
3人とも素直に俺の言うことに従ってくれた。
「随分と素直じゃないか......『あの時もそうして素直でいればこんな事にはならなかったのにな。』」
後半の部分はマヤの独り言の様な感じで、ボソボソっと言っていた為、なんと言ったか俺には聞き取れなかった。
マヤは椅子に座り宙に浮いたまま、フワフワと船の甲板に降りてきた。
「さてアザムキ、お前ならこのダイオウイカどうする?」
マヤは椅子から立ち上がり、伸びをしながら俺に訊いてきた。
「俺なら......」
俺は常識の外の力を行使し、自室に置いてあった俺の剣を手元に転移させた。
「こうするかな。」
剣を思い切り振りかぶり、水中に向けて思い切り伸ばした。
「なるほど。まずは釣りの要領で水中から引っ張りあげるか。
だが、相手はダイオウイカだぞ。そう簡単に釣り上げられるのか?」
「ふん! ナメるな。
カエデ!パワーを上げろ!」
『了解しましたマスター。』
みるみる全身に力が入ってくる。
力を上げるのと同時に、剣に耐久力の外の力を行使し絶対に折れない様にした。
「いくぞおおおおおおおおおおおおおお!」
高校の柔道の授業で習った一本背負いの要領で剣を思い切り引き上げ、船の下にいるダイオウイカを釣り上げた。
「やるじゃないか。じゃ、私もお披露目タイムかな。」
そう言うと、マヤの周りにはあのアギルに貰ったばかりの状態のシンプルな剣が大量に出てきた。
「行け!」
マヤが力強く天に向かって手を挙げると、その大量の剣たちはダイオウイカに向かって飛んでいった。
飛んでいった剣たちがダイオウイカに突き刺さり、ダイオウイカが空中に固定されたのと同時に、俺はマヤを左手で引っ張り右手で剣のトリガーを引いた。
本来ならこんな事したりしないが、今は非常事態なので致し方ない。
伸びた剣は一気に元の長さに戻り、俺たちはダイオウイカの目の前まで来た。
飛んでる間にマヤは船の破片の一部を浮かべ、空中に足場を作った。
「「痛いじゃないか! なんでこんな酷いことをするんだ!」」
俺とマヤの声が混ざった気持ち悪い声で話すダイオウイカ。
「「あぁ!? テメーのせいで、こちとら手を組みたくも無い相手と手を組まねーといけなくなったんだろうが!!」」
お互いがお互いのことを嫌ってると、言うことや考えることが似るという事もあるようだ。
俺とマヤは怒りの限りを尽くして、渾身の蹴りをダイオウイカに向けて放った。
その瞬間、マヤの背後に魔獣の残像のようなものが見えた。
恐らく、マヤの怒りの部分を食っていた魔獣の残像だ。
俺自身では分からないが、恐らく俺もあの白い獅子の魔獣の残像を放っているハズだ。
渾身の力を込めた2人の蹴りは、ブヨブヨしたイカの表皮を突き破り、辺りに内蔵をぶち撒けさせた。
「こんなんで終わると思うなよカス!」
マヤは掌をパーにして前に突き出し、イカの目の前で握り潰すような動作をした。
すると、今まで突き刺さっていた剣たちは更にイカの最深部にまで食い込み、エグいほどの刺傷を作っていった。
「今日の晩飯はイカリングフライかな?」
俺も負けじと能力を発動し、物理の外の力を行使して、物理法則無視の永遠に伸び続ける剣でイカの体を切り刻んでいった。
「「あああああああああああああ!!」」
気色悪い声で叫ぶダイオウイカ......というか最早その姿はダイオウイカとの呼ぶには原型をとどめておらず、白い塊のような何かに変わり果てていた。
「「じゃあなクソッタレ。」」
俺とマヤは一気に剣を引き抜くと、今まで空に固定されていたダイオウイカは力なく海に落ちていった。
俺らが甲板に降りる頃、水面に2つの光る玉が浮かんで来ていた。
俺はなんとなくどちらが自分のかが分かった。そして、マヤも同様だったようである。
俺らは迷わず自分の欠片を拾うと、自分の中に押し込んだ。
「......さぁ、クーネを解放しろ。」
「おいおい待て待て。
私は『用が済んだら解放する』と言ったんだ。」
「......は? イカなら倒しただろ?」
俺がそう言うと、彼女は口元をぐにゃりと歪めこっちをしっかりと見据えた。
その双眸は深く......とても深く濁っていた。
「アハッ......アハハ......アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ ハハハハハハハハハハ!!
アハハハハハ ハハハハハハハハハ ハハハハハハハハ ハハハハハハハ!!
あ
は
は
は
は
は
は
は
は
は
は
あははははははははははははははははははは!」
空に響いた彼女の笑い声には、恐ろしさと邪な匂いと、狂気が混ざり合っていた。
「............お前、本気でダイオウイカを倒すことが、私の言っていた『用』だと思ってたのか?
もしそうだとしたら......いや、そうでなくてもとんだお笑い種だな。」
一通り笑い終えたマヤは俺を小馬鹿にするような物言いをした。
「さっきから黙って聞いてりゃ偉そうに! なんでアンタはアザムキにそんなにイジワルな態度をとるの?」
今まで黙って事の流れを見守っていたフランが、とうとう痺れを切らしマヤに不満をぶつけた。
「......イジワル、か。君にはアザムキと私の間に何があったか知らないからそう言う事が言えるのさ。
私はアザムキみたいな自分の意に沿わない人間が嫌いなんだよ。
全部......そう、全部私のモノにしなきゃ気が済まない!!
だから! だから!! だから!!!
この世界だって私のモノにするんだ!
その為なら何だってやる!
手段なんかどうでもいい!
この世界全部を私のモノにする!
それが私の『用』だ!」
初めてマヤの本音を聞いた気がする。腹の底から......否、魂の奥底から響いてきた彼女の本音。
支配したいという願い。支配しなければ気が済まないという性分。だからこそ彼女は元の世界でも生徒会という組織に所属していたワケで、掃除をサボって帰ろうとした俺の事が気に食わなかったワケだ。
「......だから、この世界全部を支配する為にこの娘が必要なのさ。
そう、『2人目の......うわっ!」
マヤが明らかにヤバい話題に触れそうになった瞬間、あらぬ方向から何かが飛んできた。
飛んできた何かは船の甲板に突き刺さり、俺はそれを拾った。
「手裏剣?」
「それ以上その事に触れてはならないよ。」
どこかで聞き覚えのある声......?
「あれ? 俺を殺したとか勘違いしてる『三流』君も一緒じゃないか。
だから言っただろ? 獲物を前にして感情を表に出す奴は『三流』だって。
だから『幻影』に惑わされたんだよ。」
いや、厳密に言えば『ホロウの顔をしたミラ』が出てきた。
「離して! 離して!」
ミラはクーネの首根っこを強引に鷲掴みにして、無理やり引っ張って来ていた。
「うるせぇ! ちったぁ静かにしてろ!」
その行為は俺にとって、とても腹立たしく感じるものだ。
俺が尊敬しているホロウの姿で、俺が仲良くしているクーネを痛めつける光景。
俺は自身の怒りのメーターが少しずつ上がっていくのを自覚していた。
ミラはクーネの首を掴んでる手とは逆の手で、自らの顔についていた『仮面』のようなものを剥がし、首に付けていた変声機付きチョーカーを外した。
そして彼はマヤを視認するなり、彼女に向かってこう言った。
「アンタが今のボスか?」
「あぁそうだ。私の前任者は少々無能過ぎたようだ。で、どうだった? ラズリが作った能力付与特殊魔獣と、シュバルが作った試作型擬似植物魔獣は?」
「かなり好調だったぜ。そこにいるアザムキ坊ちゃんに本気を出させるくらいにな。」
......ラズリの能力魔獣? シュバルの植物魔獣?
「『影の犬』と『植物の魔獣』2つの実験も兼ねてたんだよ。お前らを襲うこと込みでな。そして、私とミラはここが初対面という事になるな。」
「ラズリも......シュバルも......お前らの仲間なのか?」
この時、俺は本当に訳が分からなかった。恩人であるシュバルが何故マヤの暴走に付き合っているのか。
何故ラズリはバンデットに襲われた側の中央庁の人間なのに、バンデット側に組みしているのか。
「私が引き入れたんだよ。私の能力でな。
顔見知りの腹心とか中央庁の内通者がいないと心細いだろうが。」
「......じゃあ......なんでクーネを拘束してんだよ…...」
俺の中の怒りはまるでマグマのように煮えたぎっていた。
「お前の事だから何か人質のようなものを用意しておかないと、私に協力しないだろ?
少なくとも私は、お前はメリットデメリット無しに動く男とは思ってない。
だから、黙って私と一緒にダイオウイカを倒すとも思ってない。」
「......だからクーネを人質にしたのか......?」
「そういう事だ。お前、1番仲良くしてるそうじゃないか。
用が済めば解放してやるよ。」
「分かった......ならお前に従おう。
サギ、フラン。何も言わずただ静観しててくれ。
カエデ......バトルモードに変更。」
「分かった。気をつけてね。」
「私達は少し離れた所で見てるから。」
『了解しましたマスター。』
3人とも素直に俺の言うことに従ってくれた。
「随分と素直じゃないか......『あの時もそうして素直でいればこんな事にはならなかったのにな。』」
後半の部分はマヤの独り言の様な感じで、ボソボソっと言っていた為、なんと言ったか俺には聞き取れなかった。
マヤは椅子に座り宙に浮いたまま、フワフワと船の甲板に降りてきた。
「さてアザムキ、お前ならこのダイオウイカどうする?」
マヤは椅子から立ち上がり、伸びをしながら俺に訊いてきた。
「俺なら......」
俺は常識の外の力を行使し、自室に置いてあった俺の剣を手元に転移させた。
「こうするかな。」
剣を思い切り振りかぶり、水中に向けて思い切り伸ばした。
「なるほど。まずは釣りの要領で水中から引っ張りあげるか。
だが、相手はダイオウイカだぞ。そう簡単に釣り上げられるのか?」
「ふん! ナメるな。
カエデ!パワーを上げろ!」
『了解しましたマスター。』
みるみる全身に力が入ってくる。
力を上げるのと同時に、剣に耐久力の外の力を行使し絶対に折れない様にした。
「いくぞおおおおおおおおおおおおおお!」
高校の柔道の授業で習った一本背負いの要領で剣を思い切り引き上げ、船の下にいるダイオウイカを釣り上げた。
「やるじゃないか。じゃ、私もお披露目タイムかな。」
そう言うと、マヤの周りにはあのアギルに貰ったばかりの状態のシンプルな剣が大量に出てきた。
「行け!」
マヤが力強く天に向かって手を挙げると、その大量の剣たちはダイオウイカに向かって飛んでいった。
飛んでいった剣たちがダイオウイカに突き刺さり、ダイオウイカが空中に固定されたのと同時に、俺はマヤを左手で引っ張り右手で剣のトリガーを引いた。
本来ならこんな事したりしないが、今は非常事態なので致し方ない。
伸びた剣は一気に元の長さに戻り、俺たちはダイオウイカの目の前まで来た。
飛んでる間にマヤは船の破片の一部を浮かべ、空中に足場を作った。
「「痛いじゃないか! なんでこんな酷いことをするんだ!」」
俺とマヤの声が混ざった気持ち悪い声で話すダイオウイカ。
「「あぁ!? テメーのせいで、こちとら手を組みたくも無い相手と手を組まねーといけなくなったんだろうが!!」」
お互いがお互いのことを嫌ってると、言うことや考えることが似るという事もあるようだ。
俺とマヤは怒りの限りを尽くして、渾身の蹴りをダイオウイカに向けて放った。
その瞬間、マヤの背後に魔獣の残像のようなものが見えた。
恐らく、マヤの怒りの部分を食っていた魔獣の残像だ。
俺自身では分からないが、恐らく俺もあの白い獅子の魔獣の残像を放っているハズだ。
渾身の力を込めた2人の蹴りは、ブヨブヨしたイカの表皮を突き破り、辺りに内蔵をぶち撒けさせた。
「こんなんで終わると思うなよカス!」
マヤは掌をパーにして前に突き出し、イカの目の前で握り潰すような動作をした。
すると、今まで突き刺さっていた剣たちは更にイカの最深部にまで食い込み、エグいほどの刺傷を作っていった。
「今日の晩飯はイカリングフライかな?」
俺も負けじと能力を発動し、物理の外の力を行使して、物理法則無視の永遠に伸び続ける剣でイカの体を切り刻んでいった。
「「あああああああああああああ!!」」
気色悪い声で叫ぶダイオウイカ......というか最早その姿はダイオウイカとの呼ぶには原型をとどめておらず、白い塊のような何かに変わり果てていた。
「「じゃあなクソッタレ。」」
俺とマヤは一気に剣を引き抜くと、今まで空に固定されていたダイオウイカは力なく海に落ちていった。
俺らが甲板に降りる頃、水面に2つの光る玉が浮かんで来ていた。
俺はなんとなくどちらが自分のかが分かった。そして、マヤも同様だったようである。
俺らは迷わず自分の欠片を拾うと、自分の中に押し込んだ。
「......さぁ、クーネを解放しろ。」
「おいおい待て待て。
私は『用が済んだら解放する』と言ったんだ。」
「......は? イカなら倒しただろ?」
俺がそう言うと、彼女は口元をぐにゃりと歪めこっちをしっかりと見据えた。
その双眸は深く......とても深く濁っていた。
「アハッ......アハハ......アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ ハハハハハハハハハハ!!
アハハハハハ ハハハハハハハハハ ハハハハハハハハ ハハハハハハハ!!
あ
は
は
は
は
は
は
は
は
は
は
あははははははははははははははははははは!」
空に響いた彼女の笑い声には、恐ろしさと邪な匂いと、狂気が混ざり合っていた。
「............お前、本気でダイオウイカを倒すことが、私の言っていた『用』だと思ってたのか?
もしそうだとしたら......いや、そうでなくてもとんだお笑い種だな。」
一通り笑い終えたマヤは俺を小馬鹿にするような物言いをした。
「さっきから黙って聞いてりゃ偉そうに! なんでアンタはアザムキにそんなにイジワルな態度をとるの?」
今まで黙って事の流れを見守っていたフランが、とうとう痺れを切らしマヤに不満をぶつけた。
「......イジワル、か。君にはアザムキと私の間に何があったか知らないからそう言う事が言えるのさ。
私はアザムキみたいな自分の意に沿わない人間が嫌いなんだよ。
全部......そう、全部私のモノにしなきゃ気が済まない!!
だから! だから!! だから!!!
この世界だって私のモノにするんだ!
その為なら何だってやる!
手段なんかどうでもいい!
この世界全部を私のモノにする!
それが私の『用』だ!」
初めてマヤの本音を聞いた気がする。腹の底から......否、魂の奥底から響いてきた彼女の本音。
支配したいという願い。支配しなければ気が済まないという性分。だからこそ彼女は元の世界でも生徒会という組織に所属していたワケで、掃除をサボって帰ろうとした俺の事が気に食わなかったワケだ。
「......だから、この世界全部を支配する為にこの娘が必要なのさ。
そう、『2人目の......うわっ!」
マヤが明らかにヤバい話題に触れそうになった瞬間、あらぬ方向から何かが飛んできた。
飛んできた何かは船の甲板に突き刺さり、俺はそれを拾った。
「手裏剣?」
「それ以上その事に触れてはならないよ。」
どこかで聞き覚えのある声......?
「あれ? 俺を殺したとか勘違いしてる『三流』君も一緒じゃないか。
だから言っただろ? 獲物を前にして感情を表に出す奴は『三流』だって。
だから『幻影』に惑わされたんだよ。」
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