苦役甦す莇

マウスウォッシュ

Episode18 Mirage water

「......よし......出来た。」

 調合指南書と睨めっこして、俺が初めて作った作品。

「ペイントボール......ですか?」

 横で手伝ってくれたサクリには作ってる途中、何を作ってるか内緒にしていた。

「そうだ。これで奴を引っ張り出すんだよ。」

「どういうことですか?」

「ある仮説が頭の中に思い浮かんだのさ。」

 俺の中で立てたある仮説。それは鏡男は鏡の中にはいないという仮説である。

 鏡男は鏡の表面にしかおらず、それが原因で鏡の中の世界で俺らに手出し出来ないと思ったのだ。

 それに、あの時一瞬だけ見えた一筋の光。鏡男は鏡の中の世界を移動出来る訳じゃない。

 きっと反射する物から反射する物に移動する他無いのだ。

 鏡の中に引きずり込めるのは、自分以外の人間や魔獣だけだと思われる。



 今の時間は丁度皆が出払っている。フランとシナトラとサギはクエストに、クーネは買い出し、ホロウは散歩に行っている。

 俺らは風呂掃除をしておくという口実でアジトに残ったが、実は本当の目的はそうではない。待ち伏せして、奴を仕留める。



 俺は自室にある姿見をリビングに持って行き、サクリにペイントボールを持って姿見の裏に隠れるように言った。

 そして合図と共にペイントボールを姿見に投げつけるように言っておいた。

 俺はリビングの窓の1つのカーテンを開き、俺の像が窓には映らず姿見には映るというポジションをとった。



 数分待つと、奴は現れた。窓から姿見に一筋の光が走ると、姿見に奴が映った。

「やぁ、こんにちは。今日はとーーーっても面白い魔獣をたくさん連れてきたよーwwwwww

気に入るかもよ〜www」


 相変わらずバカにするような口調である。


「おーおーおー三流がなんかほざいてらぁwww

なんだったら鏡の外にその魔獣とやらを出してみろよwww」

 俺は挑発に対して挑発で返した。


「三流......三流だと?

テメー!!今俺のこと三流つったのか!?あぁん?」

意外と挑発に乗りやすいな…...


「そーだよ!
三流つったんだよ!  さ★ん★り★ゅ★う」

 俺は更に挑発をかけた。頭に血が上った奴は割と簡単にあしらえるというのが過去からの教訓である。


「なんだとこのやろおおおおお!」

「今だ!サクリ!」

 俺が合図を出すとサクリは姿見の裏から手を出して、ペイントボールを姿見に投げつけた。

「な!? なに!?」

 自分が存在できる鏡面が無くなり、そこにいることが出来なくなった鏡男は窓に飛び移ろうとした。

 だが、それはもう俺の予想通りの動きだった。

 俺は合図と共に既にカーテンを閉める準備をしていて、サッと閉めるなんて簡単な仕事だった。

 窓に向かっていた一筋の光は、カーテンにぶつかり、男の形に変わって床に転げ落ちた。



「よぉ......三流。」

 俺はそいつの首根っこを、ガシッと掴んでやった。

「うっ......うっ......」

 そいつは怯えた目で俺のことを見ていた。

「テメーにはなんぼか聞きたい事がある。

ちゃんと答えるなら良し、答えなかったらゲロ吐くまで殴り続ける。いいか?」

 そいつは震える頭を必死に縦に振った。

「まず、テメーの名前は?」

「み、み、み、ミラだ。」

「よし、じゃあミラ。テメーは高ギルド狩りっつー行動を知ってるか?」

そいつは首を縦に振った。

「ふん、ならお前はそれに関与してるか?」

「あ、あぁ。してるよ。そして、あんた達もまた高ギルド狩りの対象だ。」

「お前のバックにある組織は?」

「い、いやぁそこまでは......」

その瞬間、俺はそいつにグーパンを十発食らわせた。

「おい、答えなかったら殴るつったよな?」

「ひ、ひぃ......は、は、はははは話すから!」

「うし、じゃあもっかい聞くぞ?
テメーのバックの組織は?」

「......ギルド認定を受けられなかった奴らの集まり、バンデットって言うグループだ......

お、お、お前が馬車に乗ってた時に襲ったのも、俺の仲間だ......」

「ふーん......バンデットね。誰がトップだ?」

「この前いきなりカチコミかけてきた奴がいて、そいつめちゃくちゃ強くて、トップが変わったんだ......」

「だから!誰だ!」

「ななな名前までは知らない。ただ、メイド服の女だったって話しか聞いてない!本当だ!」


 メイド服の女......まさかな......


「そーかいそーかい。大体分かった。

じゃ、最後の質問だ。

なんで俺のことを付け回してるんだ?

それに、なんであの場所にいたんだ?」


 そいつはその質問をされた瞬間、口角を歪めて道化のような気持ち悪い笑顔を作った。

「情報だよ。君に関する情報を貰ったのさ。」

「誰にだ! 言え!」

「それは言えないなぁ…...どんなに殴られてもね!」

 そいつは俺のことを一瞬突っぱねると、その一瞬でどこかに消えてしまった。

「そんな! もう反射する物は無いはずなのに!」

 俺は部屋中を見回した。窓にはカーテン、姿見にはペイントボール。どこにも逃げられるはず無いのに。

 その時、ある物が俺の目に留まった。さっき、クーネがサギの為に持ってきて、そのまま置いてある水が入ってるコップ。

「あ、ウソだろ......」


「残念だったねーー!!

追い詰めたつもりだったのかな〜www

念の為人質は貰っておくよ〜www」


 奴の声が響くと、目の前にいたサクリが一瞬にして消えてしまった。



「あーあとさ......

殴られた分の借りは返すから、覚悟しとけよ?」


 その声はいつものおちゃらけた調子の声では無かった。嫌にドスの効いた、低い声だった。


「ぐっ......ぐぬぬぬ......」

 俺は悔しさのあまり、奥歯を噛み締めた。


「悔しいかぁ?えぇ?悔しいっていう気持ちが分かったかよぉ!!

人質を殺されたくなきゃ、窓のカーテンを開けろ!」


「テロリストの要求には譲歩しないのが俺の国際常識だ。

お前んとこの国際常識はどーだか知らんけどな。」



 俺は常識の外の力を行使し、無理矢理鏡の中の世界に押し入った。





「鏡の中に許可なく無理矢理押し入っただと!?

......でもその方が好都合。俺はこのまま悠々と貴様らのアジトから出て行けるからな。

せいぜい足掻け。」

 しまった。と思ったが、今はサクリを救う事に集中しなくてはならない。


 鏡の中のアジトには、魔獣が沢山いた。

「サクリ!どこにいる!」

「アザムキさぁあああああん!」

 サクリの悲痛な叫びが聞こえてきた方向には大量の魔獣の群れがいた。

「どけよ!クソ魔獣ども!」

 俺は認識の外の力を行使し、見えない拳で魔獣どもを殴り飛ばした。


 殴り飛ばした先にいたサクリは、植物型魔獣の触手に捕まっていた。

 俺はサクリに向かって走っていったが、周りにいる魔獣どもが俺のことを抑えつけた。

「おおおおおおおおおおおお!」

 俺は更に能力を加速させ、抑えつけてる魔獣どもを殴り飛ばし、吹き飛ばし、起き上がって走った。

「があああああああああ!」

 魔獣の咆哮があちらこちらから聞こえてくる。キリがない。

「助けてええええええ!」

 魔獣の触手がサクリのか細い体に巻き付いた光景。

 その光景が俺の両目に焼き付いた瞬間、俺の中の何かがプッツンと切れた。


「ぅぅぅうううあぁあああああああぁああああああああああああああああああああぁぁぁあああぁあああああああぁああああああああああああああああああぁぁぁあぁあああああああぁああああああああああああああああああああぁぁぁ!!!!!!!」

 それは地獄の底から鳴ってるかのような咆哮だった。

 俺は無意識のうちに、能力を発動させていた。

 より強く、より速く。



光の外の力を行使する。



 それはまるで一瞬の出来事だった。この鏡の中の世界にいる魔獣ども全部を貫く黒い光。

 俺の心の中を体現するかのように、不可視のエネルギーが魔獣どもを突き刺していく。



生の外の力を行使する。



 黒い光に貫かれた魔獣共に、安寧なる死を。
 魔獣達には断末魔を上げることすらさせなかった。



「はぁ......はぁ......やべぇ......能力使いすぎたかな......」

 俺の身体はやや透明になりつつあった。結構危ないかもしれない。

「アザムキさん!後ろ!」

 サクリは俺に向かって叫んだ。俺は頑張って後ろを振り向こうとしたが遅かった。


 振り向こうとした瞬間に、四肢に触手が巻き付き身動きが取れなくなってしまったからだ。

「はぁ......はぁ......まだ......はぁ......やろうってのかよ......はぁ......」


「ねぇ遊ぼ?遊ぼうよ......あははは」
「どうせ遊んでなんかくれないよ......どうせ俺なんか......」
「殺す! 殺す! 殺す!」
「このお肉美味しそうだね!」

 色んな声が聞こえてくる......

 俺はチラッと周りを見やった。そこにはさっきまであったはずの魔獣達の死骸が無くなっていた。

 まさか......融合したのか......

 こいつは俺の結晶を持っていた複数の死骸が集まってできた成れの果てか......通りで醜いツラしてやがる......


「はぁ......はぁ......あそばねぇよ......」


「「「「なに!?」」」」

 他の触手や爪が俺の体を貫いた。こんにゃろ......人が疲れてんのに......遊ぼうとか言うなや......

「ほらね......どうせ俺なんかと遊んじゃくれない......」

「遊ぶんだよ!俺はまだ元気有り余ってるもん!」

「お肉まだー?」

「あれ?なにこれ?死にそうじゃない?」

 好き勝手言いやがって......



 あぁ......ダメだ意識が......とお......のく......


 あ......なにか......とおくで......きこえる......






「隣人よ。」

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