方(箱)舟のファントムズ

丸ーニィ

第11話「望郷のファントムズ②」

奇跡に対する挑戦と言うべきだろうか。
ねぱたの言葉通りなら一部でも奇跡にたどり着いたと見るべきだろうか。

「つくも神ってモノに上手くなったかは解らんねん、でもほら…よう見て」

レストルームの中には光る玉の様なモノが蛍のようにさまよっている。

「これが精霊って言うらしいんや、工作室でよう手伝ってくれる従順な自然発生霊なんやで」

光る玉の様な精霊は工作室のブロックトイの人形にとり憑いて作業を手伝ってくれている様だ。

「ウチらがここまで頑張れるのも生き長らえるもの、この子らの手伝いあってなんや」

すると精霊達が作業する間を縫うようにしてこちらに来るモノがあった。

車に変形するアメリカントイがやって来たのだ、こちらに向かって走ってきて目の前で変形する。

「ギゴゴゴ(自分で発声)ほう、君か新入りと言うのは…」

ロボットモードで立ち上がるとユナのヌイグルミのダメージ箇所を見ている。

「俺がドクだ、ここの工場長をしている」

ドクは精霊達に指示を出すと精霊達は作業アームを動かして工作室からコンテナを運んでくる。

「裁縫作業は手慣れてなくてね、体を預けたら直すまでの仮のボディを用意するから使ってくれ」

コンテナの中には同じ様なサイズの人形やヌイグルミが入っていた。

「あ、あのそんなすんなり私の体は引き剥がせないと…思うんです。」

ユナの言葉にねぱたが首を傾げた。

「まあとにかくレストルームの奥の部屋に入ろう、なんにせよ一回脱いで考えたらええねん」

ねぱたの言葉にユナが混乱している。

「はい?脱ぐってなんですか?着ているモノなんて有りませんよ?」

「脱ぐんはそのボディや!まあこっちに来て中入り」

別に熊のヌイグルミがストリップするような期待を、だれもしていないだろう。

二人が奥の部屋に入る、中はまるで普通の家そのものだ。

シールで再現された畳、ちゃぶ台やタンス、ミニチュアテレビ、襖で区切られた模型の和室。

ユナはその様子に満を持して言葉を残す。

「…昭和か」

余りに中が予想外過ぎて、ついツッコミが漏れてしまった。

横を向くとねぱた女史の特撮フィギアが正座して座っていたが、何故か気配がない。

「ねぱたさん?どうしたんです?電池ですか!切れちゃったんですか?単3電池ですか!」

ユナは熊から飛び出た霊体があたふたと騒いでいると後ろから別の声が聞こえた。

「いやそれ電池とか入ってへんし」

ユナの後ろに立っているのは、その姿はまごう事無きねぱた女史そのものだ。

しかも霊体の姿でフィギアから飛び出してるのである。
もはや亡霊という感覚ではなく足で立っているのだ。

「え、えっと体が離れて大丈夫なんですか?そもそも離れられるもんなんですか!」

ユナは目の前のねぱたに驚愕している。
ユナは基本的に札にくっついている訳だが、ねぱた達は違う。

つまりユナの言葉の通りだ、体の霊体が抜け出す事は、モノにとり憑いている亡霊にとっては本来自殺行為なのである。

「これがレストルームの和室居間の力や、この中なら溜め込んでる霊力がめっちゃ充満してるから好きにボディを抜け出せるんやで」

ねぱたの様子は正に生きていた頃の姿の様な感覚で、優雅にちゃぶ台に座る様はとても亡霊とは思えない。

「精霊化とか妖精化とか言われてるんやで、小さいまんまやけど霊体の圧縮のせいで生きてるみたいに部屋で過ごしてるんや」

つまり霊力で満たされている水槽の様なもの、失う霊力が無ければ霊体の消失も無く存続出来るらしい。

「此処は天国やで、霊力も沸いてくるしな」

ねぱたがお茶を啜っている、一見何もないコップを持っている様に見えるが液体にも煙や泡にも似た良くわからないモノが満たされていた。

「こうやって急速に霊力を固めて吸収するのも出来るし、ある意味好き放題なんやな」

「マジですか…」

ユナはもはや何でもありな状況に呆然としていた、しかしそれと同時に自分も同様な事が出来るのか疑問が生まれる。

(私が札から抜け出せる?)

またと無いチャンス、そう思ったユナは早速自分もヌイグルミの体を脱け出そうと努力してみる。

ここなら可能かもしれない。

そう思ったユナは脱け出そうと、もがき始めた。

「ぐぬぬぬぬぬぬ!はーなーれーろー!」

「よっしゃ!ユナちゃんもう少しや、微妙に腰から上が飛び出とる!行けるで!」

そしてヌイグルミからユナの霊体はスポーンと出てきた!

だがしかしそれと同時に霊体の腹部に何かが埋まっている様に見える。

そう!彼女を張り付けにしたあの紙札が折り畳まれた状態で霊体に埋まっているのである!

「あ…あれ」

ねぱたはふとその札を見る。

「おお?(なんやこれ)」

ユナは現状を泣きそうな顔で言葉にする。

「離脱!全然!出来ませんでした!」

ユナは豪快に土下座していた。


一瞬時間が止まった様な感じになったが、ねぱたはまあまあと慰めの言葉を言おうと近寄る、が。

「あれ?これさっきの変な紋様の紙に似てない?」

ねぱたの言葉でユナは凍り付いた。















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