夢に見た時間。それは現実との境界

有見玲衣

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 当時高校2年生の私にはいつも見ている夢があった。

 見渡す限り青々とした空、そしてその向こうには山が連なる自然豊かな街。

 そこが何処なのかは、全く見当がつかなかったが、かなりの田舎町であることに間違いなかった。

 通りを一本抜けると、背の低い木造住宅や商店が立ち並ぶ路地へ入り、家と家の間には大小さまざまな畑が点在している。
 車よりもダンプカーが通る頻度のほうが高いような気がするほどだ。
 ランドセルを背負った子供たちが、けらけらと明るい笑い声を立てながら楽しそうに走り回り、その横では中年の女性たちがなにやら井戸端会議でもするように話し込んでいるような、そんな穏やかでのどかな光景。
 
 夢なのに、いつも見るその景色はやけにリアルで、現実身を帯びていた。
 普通、夢というのは醒めた瞬間忘れてしまうものがほとんどだが、「この場所」が出てくるときはいつも鮮明に記憶が残っているのも特徴の1つである。

 東京に住み、東京の学校に通う私が知っている場所とは程遠い風景。はじめは「なんか前も同じような夢を見た気がする。」という程度の感覚だったが、次第に「またあの場所の夢だ。」となり、そのうち「何度も見たことのある景色」へと認識が変わっていった。



  その日もまた同じ場所の夢を見た。
時刻は夕暮れ時。私は民家が立ち並ぶ路地を通り抜け、大きな川の岸辺に居た。

 日が沈む頃には子供たちの笑い声も、大人たちの井戸端会議も聞こえない。

「ご飯よ!早く帰って来なさい。」と我が子たちを呼ぶ母の声、ご飯の匂い。

「みんなまたね!」
「あしたね、ばいばい!」

わーっと遊んでいた子供達は方々の家へ向かって帰ってゆき、街は一気に静寂に包まれる。この街の夜は短いようだ。
 足元は不揃いな背の草木たちが生い茂り、ころころと虫の鳴き声が何処かから聞こえてくる。


 静寂のなか、私は広大な川の先にある紅に染まった夕日を眺めていた。空を一羽のカラスが横切っていく。

とても、絵になる。

そして私の隣には、誰かが居たような、そんな気がした。
遮るものもなく、佇むその夕日は夢の中だけれどもはっとするほど美しく、雄大だった。

しかし隣にいる誰かを確かめようと、横を見た瞬間に、機械的なアラームが鳴り、一気に現実に引き戻され、目が覚める。

AM6:30。

そうだ、今日はまだ水曜日。学校に行かなくてはならない。
私は重い瞼を開け、ベッドの横に置いておいたメモ帳とペンを取り出した。

 この夢を見たときは、記録をつけている。
何故つけようと思ったかは忘れてしまったが、なんだかんだ私は夢のなかでしか出会わないこの景色が好きなのだと思う。

「夕暮れ時、私は誰かと川辺で夕日を見ていた。紅の空を一羽のカラスが横切り、それすら綺麗。真っ赤で大きな夕日は絵本の中の世界のようでとても美しかった。」




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