飽きたという方法を試したら見事異世界に行けました

チャンドラ

神の遊び

「ううぅ......」
 俺は一人暮らし用の部屋で泣いた。
 都内の大学に通う、大学一年生のこの俺、雨宮猛あめみやたけるは本日、めでたく失恋をした。

 彼女とは、高校時代から付き合っていたのだが、彼女曰く「好きな人ができたから別れてほしい」そうである。
「か、考え直してくれないか?」
「無理」
 即答だった。すでに俺に対して興味を抱いていなかった。
 そんなわけで、俺はめでたく振られた。
 今日は8月11日。
 どっかの大物Youtube rも何か伝説をこの日に起こした気がする。
 やはり、この日には何かが起こる日なのかもしれない。

 俺は、ビールの蓋を開けた。
 プシュッとした音が缶からなった。アサヒィスゥーパードォラーイを喉に流し込んだ。
 程よい苦みとキレが感じられた。
 うん。
 美味しいけど、美味しい。
 けど、悲しい。

 これが失恋の味か。
 ぽろぽろと涙が溢れてきた。一体全体、何がダメだったのだろうか。
 容姿か?
 性格か?
 お金か?
 それとも全部か?

 考えれば考えるほどわけが分からなくなった。
 俺は彼女と同じ大学に通うために、死ぬほど勉強をした。
 俺の頭では、合格するのが難しい大学を死ぬ者狂いで勉強して合格したのである。
 すべては彼女と同じ大学に通い、楽しいキャンパスライフを送るためである。
 それなのに。
 それなのに......
「ああ、別の世界にでもいきてぇな......」
 到底かないそうもしない願い事を俺は呟いた。
 --平行世界パラレルワールド
 俺たちの住んでいる世界とは異なる世界のことである。
 なにも、ファンタジーの世界がパラレルワールドってわけじゃない。
 例えば、織田信長が本能寺の変で死んでおらず、天下を統一していたり、日本が第二次世界大戦に参加していたかった世界等、そういった『もしも』の世界もパラレルワールドに含まれる。

 例えば! 俺が、彼女に振られていない世界とかも! できればそういう世界へと羽ばたきたい。
「パラレルワールドに行く方法......と」
 俺はパソコンで検索をかけた。
 そこで俺はとある方法を見つけた。
 それは『飽きた』と呼ばれる方法で、紙に六芒星を書き、その真ん中に赤い文字で飽きたと書く。その紙を枕の下に入れて寝るだけという、一昔前のアイドルの写真を枕の下に入れて眠れば、いい夢を見れるみたいなとても簡単なやり方であった。

 俺は、そのあたりめをかじりながら、『飽きた』に関することが書いてあるサイトを見た。
 体験者の中には、金縛りにあい、謎の人物に別の世界に連れ込まれそうになったという記載が書いていた。
 おもしろい。
 俺は是非とも試してくなった。
 どうせ、このまま、目的もなく大学生活を送るくらいならば、いっそのこと、別の世界にでも行ってみたい。
 平たく言うと、現実から逃げたい。

 俺は早速、ルーズリーフを取り出した。
 鋏でルーズリーフを5×5㎝にカットした。
 ネームペンで、丁寧に六芒星を描いていった。
 そして、真ん中に魂を込めて、飽きたという文字を記載した。
 余談だが、俺は秋田県出身である。
 秋田~秋田の次は、土崎。
 そういう、電車のアナウンスが脳内再生された。まぁ、どうでもいいのだが。

 六芒星が描かれた紙を枕の下に敷いた。
 俺は、さっぽろ黒ラベルのビールの蓋をあけ、喉に流し込んだ。
 まろやかでコクのある味わいだった。
 たくさん飲んで、今日は深い眠りにつこう。
 これは俺の考えだが、深い眠りについたほうが、別世界に移動しやすいのではと俺は考えた。

 ビールを飲みあえたあと、俺は歯を磨き、就寝した。
 一分もかからないうちに、俺は深い眠りについた。

 そして俺はこんな夢を見た。
 目の前に、綺麗な長い金色の髪をした、俺よりおそらく一つ年上くらいの女性が立っていた。
「人間、貴様が異世界に行きたいという人間だな?」
「あ、あなたは?」
「私はこの世界を統べる者、まぁお前らの世界でいうと神と呼ばれる存在かな?」
 神というのはもっと、神々しい姿をしていると俺は想像していたが、俺より年上の女性のようなすがたなのか。
 少し、驚きだ。

「あの、神様。私を異世界に連れて行ってくれるのですか?」
「ああ。しかし、もう二度と元の世界には戻れないが、良いのか?」
「......」
 思わず押し黙ってしまった。
 二度ともとの世界には戻れない。
 知人、友人、高校時代の恩師。
 両親にも会えない。
 元彼とも。

「やっぱり辞めておきます」
「そうか。分かった。それじゃ、お前をもとの世界に戻してやろう」

 そこで俺は目が覚めた。
 しかし、そこは俺の住んでいる一人暮らし用の部屋ではなかった。
 起きた場所は木の小屋だった。
「ええ!?」
 一体全体どうなってやがる。
 部屋から抜けだして外を見た。

 当たり一面、樹で囲まれていた。
 樹はとんでもなく大きな大きさのものが多かった。
 空には、大きな鳥のようなものが飛んでいた。
 青い翼で太い脚が生えていた。
 鳥というか、もはや恐竜の一種に近いのではと感じた。
 ここは地球ではないのではないか?

 それにしてもあの神と名乗ったやつ、元の世界に戻してないじゃないか。
 服装は元のままだった。俺は寝るとき、いつもジャージを身に着けている。

 はぁ、これからどうしたものか。
 このままここにいるってわけにもいかないよな。

 途方に暮れていると、樹の隙間から何かでてきた。
「うまそうな、人間だ......」
 出てきたのはとても大きな狼のような生き物であった。
 銀色の毛並、鋭い牙と爪。
「美味しくいただいてやるとしよう。」
 じゅるりと、舌を狼のような生き物が出した。
「な、パンナコッタ......」


 

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