クズスキルでも、努力次第で世界最強!?
33話 ちょっとした話
あるところに一人の少年がいました。
少年が五歳の時、孤児院の前に捨てられているところを見つけられ、そのままそこで暮らすことになりました。
彼はその時にはすでに、自分が捨てられた子であることを知りそれを受け止めていました。
彼は同じ孤児院のたくさんの人たちが、本物の家族のように接してくれたので寂しいとは思いませんでした。
しかし、孤児院とはあくまでも親のいない子供たちが十分に育つまで保護することが目的の施設、大人になれば独り立ちし巣立っていかなければなりません。
孤児院の子供たちは早くから自分にできることを探し始めます、それは少年も同じです。
みんな一生懸命頑張りました。
ある日、孤児院の子供たちの一人にスキルが発現しました。
スキルは生きとし生けるものすべてが持つもので、一般的には幼少期から思春期に入るまでの間に発現するものです。
その日を境に孤児院の子供たちは次々とスキルが発現していきました。
ある子はとても速く走れるようになったり、ある子は念力が使えるようになったり。
子供たちはスキル発現をきっかけに自分たちの進路を考えるようになりました。
この世界ではとても自然な流れであり、そうすることが一番簡単でありながら最も堅実な考え方だったのです。
少年も周りの子供たちを見て、自分にはどんなスキルが発現するのだろうとワクワクしていました。
ですが少年には一向にその兆候が現れません。
スキルの兆候とは、形のない不思議な力が感じ取れるというものです。
その力が形を成すことをスキルが発現したと言います。
しかし少年は今まで一度も感じたことがありませんでした。
一年、二年と時が過ぎても少年にスキルは発現しませんでした。
これもよくあることでスキルが発現するまでの時間は個人差があり、遅い人で十二歳の頃に発現する人もいます。
しかし未だその兆候すら表れないというのは、例がないことでした。
少年はこれからどうすればいいのだろうと、考えるようになりました。
孤児院の先生方、つまりは育ての親の人たちも心配になってきました。
そこで、鑑定士と呼ばれる人にスキルの有無を確認してもらうことにしました。
鑑定士とは物や人などを見るスキルを持ち、それを生業としている人のことを言います。
結論から言えば、少年はすでにスキルを持っていました。
ですが、いくつか矛盾することがあるのです。
まずスキルを持っているならば、その使い方や能力はスキルを持っている本人はなんとなく感じとることができます。
しかし少年は一度もそんなことを感じた事はありませんでした。
そして鑑定士の結果でスキルがあることはわかりましたが、それがどのようなものなのかわからなかったのです。
その鑑定士は、
「こんなことは今までに一度もなかった。これならない方がまだ希望があっただろうに。」
と言いました。
もしなかったのであればまだスキルの発現がしていないということ、いくらかの希望は残ったでしょう。
ですが、すでに少年にスキルは発現しています、使い方も能力もわからないスキルが。
少年は途方にくれました。
この世界では何らかに特化したスキルがあるということを前提として動いていきます。
そんな中で何の取り柄もない、それどころか何のスキルかすらもわからないという人がこの先、生きていけるのでしょうか。
答えは、無残なことにも否でした。
そのことに少年は誰よりも早く気づき、途方にくれていたのです。
生きていく術が見つからないまま、無気力に過ごしていた少年にある青年が声をかけました。
「なんでそんなにも落ち込んでいるんだ?」
少年はこれまでのいきさつを簡潔に教えました。
すると青年は特に気にした様子もなくこう言いました。
「なんだ、たったそれだけのことじゃないか。」
少年はそれを聞いて怒りました。
この世界で使えないスキルであることは圧倒的に不利であると、自分の身に起こっていないからそんなことが言えるのだと。
青年は笑ってこう言いました。
「世界ってのはそんなものが無くたって、努力すればなんだってできるんだぜ。」
少年は無理だと言いました。
青年は少年の言葉を受けると不敵に笑い、少年をある場所へと連れていきました。
少年が連れられてきた場所は武道場でした。
青年はあるところを指さします。
そこにいたのは二人の武闘家でした。
一人は長身で筋肉質な双剣使いの男です、その一振りは岩を砕きそうなほど重く鋭く、彼が手練れであることは少年の目から見ても一目瞭然でした。
対する相手は、隻腕で片足が義足の小柄な青年でした。
彼の持っている武器はただの短剣に見えます。
少年は言いました、あれでは相手にならないじゃないかと。
青年はまた不敵に笑うと、
「まぁ、静かに見てな。面白いものが見られるぞ。」
と言いました。
少年は言われるがまま、その戦いを見ることにしました。
張り詰めた空気の中、先に動いたのは双剣使いでした。
大柄な体格からは想像もできないほどの速さで隻腕の青年へ迫ります。
そして、大上段と中段からの同時攻撃を繰り出します。
少年は決着はついただろうと思いましたが、そこでありえない光景を目にしました。
なんと隻腕の青年は、たった30センチほどの短剣一本を持った細い腕で、剛腕から放たれた同時攻撃を受け止めているではありませんか。
双剣使いは力を込めて押しつぶそうとしますが、受け止められた双剣はビクともしません。
さらに力を籠めようと力んだ瞬間、双剣使いは前のめりに倒れてしまいます。
隻腕の青年は相手が何をしようとしているのかを先読みし、タイミングよく相手の股下を転がり込み相手の背後へ回ることで、攻撃を避けると同時に相手のバランスを崩すことに成功します。
そして隙だらけの双剣使いの首元に短剣を突き付け、決着の合図が道場に響きます。
唖然としている少年に、青年は誇ったような顔をしながら声をかけます。
「あれを見たら、俺達何でもできると思わないか?」
少年は打ち震えました、今まで悩んでいたことが些末なことのようにさえ感じます。
双剣使いは優れた体格を活かし、その上たくさんの努力をして剣術を身に着けたのだろう。
しかしあの隻腕の青年は体格が優れているわけでもなければ五体満足な身体ですらない、普通の人のように努力することもままならないはずです。
であるにもかかわらず、双剣使いを圧倒し難なく勝利をつかみました。
それは誰よりも努力し続けた結果であり、努力をすればなんでもできるといった青年の言葉を裏付ける確たる証拠でもありました。
少年は青年に聞きました、俺もあんなふうになれるかなと。
青年は今までで一番いい笑顔で言いました。
「あんなふうになれるかどうかは、お前の頑張り次第だ。だがあえて言おう。なれる、必ずだ。」
それが少年が武術家を目指すきっかけになった出来事でした。
少年が五歳の時、孤児院の前に捨てられているところを見つけられ、そのままそこで暮らすことになりました。
彼はその時にはすでに、自分が捨てられた子であることを知りそれを受け止めていました。
彼は同じ孤児院のたくさんの人たちが、本物の家族のように接してくれたので寂しいとは思いませんでした。
しかし、孤児院とはあくまでも親のいない子供たちが十分に育つまで保護することが目的の施設、大人になれば独り立ちし巣立っていかなければなりません。
孤児院の子供たちは早くから自分にできることを探し始めます、それは少年も同じです。
みんな一生懸命頑張りました。
ある日、孤児院の子供たちの一人にスキルが発現しました。
スキルは生きとし生けるものすべてが持つもので、一般的には幼少期から思春期に入るまでの間に発現するものです。
その日を境に孤児院の子供たちは次々とスキルが発現していきました。
ある子はとても速く走れるようになったり、ある子は念力が使えるようになったり。
子供たちはスキル発現をきっかけに自分たちの進路を考えるようになりました。
この世界ではとても自然な流れであり、そうすることが一番簡単でありながら最も堅実な考え方だったのです。
少年も周りの子供たちを見て、自分にはどんなスキルが発現するのだろうとワクワクしていました。
ですが少年には一向にその兆候が現れません。
スキルの兆候とは、形のない不思議な力が感じ取れるというものです。
その力が形を成すことをスキルが発現したと言います。
しかし少年は今まで一度も感じたことがありませんでした。
一年、二年と時が過ぎても少年にスキルは発現しませんでした。
これもよくあることでスキルが発現するまでの時間は個人差があり、遅い人で十二歳の頃に発現する人もいます。
しかし未だその兆候すら表れないというのは、例がないことでした。
少年はこれからどうすればいいのだろうと、考えるようになりました。
孤児院の先生方、つまりは育ての親の人たちも心配になってきました。
そこで、鑑定士と呼ばれる人にスキルの有無を確認してもらうことにしました。
鑑定士とは物や人などを見るスキルを持ち、それを生業としている人のことを言います。
結論から言えば、少年はすでにスキルを持っていました。
ですが、いくつか矛盾することがあるのです。
まずスキルを持っているならば、その使い方や能力はスキルを持っている本人はなんとなく感じとることができます。
しかし少年は一度もそんなことを感じた事はありませんでした。
そして鑑定士の結果でスキルがあることはわかりましたが、それがどのようなものなのかわからなかったのです。
その鑑定士は、
「こんなことは今までに一度もなかった。これならない方がまだ希望があっただろうに。」
と言いました。
もしなかったのであればまだスキルの発現がしていないということ、いくらかの希望は残ったでしょう。
ですが、すでに少年にスキルは発現しています、使い方も能力もわからないスキルが。
少年は途方にくれました。
この世界では何らかに特化したスキルがあるということを前提として動いていきます。
そんな中で何の取り柄もない、それどころか何のスキルかすらもわからないという人がこの先、生きていけるのでしょうか。
答えは、無残なことにも否でした。
そのことに少年は誰よりも早く気づき、途方にくれていたのです。
生きていく術が見つからないまま、無気力に過ごしていた少年にある青年が声をかけました。
「なんでそんなにも落ち込んでいるんだ?」
少年はこれまでのいきさつを簡潔に教えました。
すると青年は特に気にした様子もなくこう言いました。
「なんだ、たったそれだけのことじゃないか。」
少年はそれを聞いて怒りました。
この世界で使えないスキルであることは圧倒的に不利であると、自分の身に起こっていないからそんなことが言えるのだと。
青年は笑ってこう言いました。
「世界ってのはそんなものが無くたって、努力すればなんだってできるんだぜ。」
少年は無理だと言いました。
青年は少年の言葉を受けると不敵に笑い、少年をある場所へと連れていきました。
少年が連れられてきた場所は武道場でした。
青年はあるところを指さします。
そこにいたのは二人の武闘家でした。
一人は長身で筋肉質な双剣使いの男です、その一振りは岩を砕きそうなほど重く鋭く、彼が手練れであることは少年の目から見ても一目瞭然でした。
対する相手は、隻腕で片足が義足の小柄な青年でした。
彼の持っている武器はただの短剣に見えます。
少年は言いました、あれでは相手にならないじゃないかと。
青年はまた不敵に笑うと、
「まぁ、静かに見てな。面白いものが見られるぞ。」
と言いました。
少年は言われるがまま、その戦いを見ることにしました。
張り詰めた空気の中、先に動いたのは双剣使いでした。
大柄な体格からは想像もできないほどの速さで隻腕の青年へ迫ります。
そして、大上段と中段からの同時攻撃を繰り出します。
少年は決着はついただろうと思いましたが、そこでありえない光景を目にしました。
なんと隻腕の青年は、たった30センチほどの短剣一本を持った細い腕で、剛腕から放たれた同時攻撃を受け止めているではありませんか。
双剣使いは力を込めて押しつぶそうとしますが、受け止められた双剣はビクともしません。
さらに力を籠めようと力んだ瞬間、双剣使いは前のめりに倒れてしまいます。
隻腕の青年は相手が何をしようとしているのかを先読みし、タイミングよく相手の股下を転がり込み相手の背後へ回ることで、攻撃を避けると同時に相手のバランスを崩すことに成功します。
そして隙だらけの双剣使いの首元に短剣を突き付け、決着の合図が道場に響きます。
唖然としている少年に、青年は誇ったような顔をしながら声をかけます。
「あれを見たら、俺達何でもできると思わないか?」
少年は打ち震えました、今まで悩んでいたことが些末なことのようにさえ感じます。
双剣使いは優れた体格を活かし、その上たくさんの努力をして剣術を身に着けたのだろう。
しかしあの隻腕の青年は体格が優れているわけでもなければ五体満足な身体ですらない、普通の人のように努力することもままならないはずです。
であるにもかかわらず、双剣使いを圧倒し難なく勝利をつかみました。
それは誰よりも努力し続けた結果であり、努力をすればなんでもできるといった青年の言葉を裏付ける確たる証拠でもありました。
少年は青年に聞きました、俺もあんなふうになれるかなと。
青年は今までで一番いい笑顔で言いました。
「あんなふうになれるかどうかは、お前の頑張り次第だ。だがあえて言おう。なれる、必ずだ。」
それが少年が武術家を目指すきっかけになった出来事でした。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
140
-
-
35
-
-
93
-
-
63
-
-
93
-
-
314
-
-
149
-
-
4405
-
-
26950
コメント