クズスキルでも、努力次第で世界最強!?

シュトロム

28話 弓での戦い方の確立 前編

「今まで一度も自分から攻勢に移ったことはなかったのか?」

 どうやって攻めればいいかわからないというのでちょっとだけヒントを出してやると、察しのいいアリサはすぐにどういう意味かわかったようだ。

「私が武術祭の敗者復活戦の時にやってたみたいにすればいいってこと?」
「そういうことになるな、なんで今の今までその発想に至らなかったのか疑問の意を呈したいんだが。」
「だって、あの時の私は言わば王族分家で貴族の私だったから。今は強くなることを目標にしているものとしての心構えだから、なんとなく思い出せなかったというか?」
「まぁわからないでもないんだが…。」

 俺だってインデンスを換装させて戦闘スタイルを替えるときに各師匠のまねをするという癖がある、それとアリサの言ったことは似たようなものだ。
 癖はない方がいいが、でもルーティンはまた別だ。
 決まった行動をすることで即座に集中状態になれるので非常に便利だ、アリサの言っていることはまさにこれだろう。
 俺のはルーティンとは呼べないから、癖と言うべきだがルーティンと同じような効果は得られるから良しとしよう。

「もういけそうか?」
「うん、次は大丈夫。仕切り直そう。」

 互いにさっきの場所まで戻り互いに構える、俺は矢をつがえアリサは黒剣を抜く。
 アリサの構えはいつもの王族剣技の構えとは違い、武術祭の時に見せた比較的自然体な構えだ。

 王族剣技は代々受け継がれてきた型にはまった動きが多い、堂々と構えスキを見せぬようにすることで相手の攻撃の幅を狭め、容易に受け流し反撃できるように考えられたものだからだ。
 元が剣舞から来たとは思えないほどの完成された三大武術の一つであり、『絶対防御』の異名を持つほどの強さを誇る。
 言ってしまえば王族剣技は絶対防御できるわけではないのだが、それこそ対王族剣技用の戦い方をする必要がありそれも極めていなければならない。
 そんなものでは他の武術家には勝てない、だからこそ三大武術として認められているわけなのだが。

 それをアリサは今まで使っていたことを踏まえて今の構えを見ると、王族剣技とは正反対で型があるとは思えない、構えていると評することすらできないようなものだった。
 武術祭の時、敗者復活戦で見せたのは腰だめの剣を移動と同時に抜き放ち相手を攻撃しまた元の位置に戻るというヒット&アウェイ戦法だ。
 あの時は常に腰に剣を下げていたから手を剣に掛けている状態なので、居合いの構えと言ってもいいだろう。
 だがこれは明らかに前のものとは違う、普通に立っているだけなのだ。
 剣を持ってはいるが剣先は地面を指し、ゆらゆらと動き居が定まっていない。
 まるで木の枝を持っているかのようで、佇まいも相まって武器を持っているようには見えなかった。

 俺は恐ろしく感じた、自然に構えてみようとしてまさかそれが出るとは思わなかった。
 アリサのこの構えとも呼べない構えは暗殺者の戦い方に酷似していた、町中でナイフなどを持っていてもまるでそれが危険物に見えないようにする技法。
 これは武術にも通ずる一つの技術でもある、相手の視線や意識を相手の気づかぬうちにこちら側から誘導し、掴めない動きから初動を隠し先手を取る。
 俺も武術祭で似たことをした、俺なりに暗殺術と武術を混ぜて研究した成果だ。
 別に暗殺者の知り合いがいるわけではないが、資料だけなら図書館にだってある。
 そういうものは対処法も一緒にある、であれば少し変化をつけて武術に昇華すれば実用できると思った。

 俺のものは武術だがアリサのそれはもはや暗殺術だ、普通なら止めるべきだろうがいい機会だ。
 俺も暗殺術を使うやつとなんて戦ったことはない、貴重な戦闘経験が得られるなら損はない。
 終わった後に色々教えてやる必要はあるが考えるのは後だ、今は勝つことだけを考えろ。

 互いに構えて数秒、アリサが動く。
 暗殺術の要領によって隠された初動と持ち前の桁外れの速度で繰り出された攻撃は、鳩尾を的確に狙ってきた。
 完璧ではない暗殺術の模倣のおかげで剣先が少しだけ動いたのが見えた、以前の俺であればそれすらも見えなかっただろうが、アリサとの数日の修行によって動体視力は嫌でも鍛えられた。
 だが初動が見えただけでは後手に回ってしまい受けきることができない、たとえどれだけ後の先を得意としいくら素早く動けたとしても、アリサも同等かそれ以上の速さを誇る。 並はおろか熟練の者でも一撃で沈められる、まさにとんでもない一撃であると言える。

 ただこの戦いにおいては相手が悪い、俺はアリサの戦い方の癖を熟知している。
 アリサが初めに攻撃してくるであろう場所は見当がつく、武術祭の時アリサは相手を瞬時にノックアウトするために急所を狙って攻撃していた、そのほとんどが鳩尾だったことは把握済みだ。
 やりあう前、アリサがどう攻撃すればわからないと言っていたとき武術祭の時のことを思い出させるようにした、そうすることで無意識に相手が初めに攻撃してくる場所を絞った。
 その上で相手の初動から狙える攻撃個所を分析し、後の先を取るつもりだった。

 しかし、カウンターはできなかった。
 俺の今の武器は弓だ、普段通り棒や剣、槍であったなら相手の攻撃の軌跡を掻い潜って貫けばいいだけだ。
 だが弓の場合、攻撃する直前に弓を弾く動作が必要になる、つまりこちらが攻撃するタイミングがバレバレになるのだ。
 弓は隠れた位置からの遠距離射撃に部類の強さを誇るが、近距離戦で隠れる場所もない開けた土地での一騎打ちとなると、弓の優位性はほぼ皆無と言っていい。
 案の定、俺は鳩尾への一撃を大きく回避し、できるだけ見づらい位置から弓を放つが軽く跳ね除けられてしまった。

 弓で戦うと決めた以上、弓を使わないで勝つというのはしたくない。
 近距離戦と言う不利な状況でも勝つことのできる弓の戦い方を、この戦いの最中でみつけなければならない。
 意識を集中させ、思考を働かせ、俺はアリサに対峙する。



最近忙しくなってきました、年内は2週に1投稿ペースになるかもです。
時間さえあれば、時間さえ……。

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