クズスキルでも、努力次第で世界最強!?

シュトロム

14話 師匠として、1人の武術家見習いとして

 特訓2日目。
 昨日と同様に『インデンス:剣フォーム』を構えた俺は、アリサ対峙していた。
 
 結果は変わらず、アリサが倒れるまで戦い続けた。
 それでも、昨日は昼から夕方までだったが、今日は昼食休憩を取りはしたものの朝からずっとだったが、夕方なるまで倒れることも弱音を吐くこともなかった。
 昨日の今日でもう俺の動きに慣れてきたらしい。
 恐ろしいほどの成長速度だと思う。
 
「ふぅ、今日はこれで終わりだな。立てるか?」
「大丈夫、立てる、と思う。」

 そう言って、両手地面についてゆっくりと上体を起こす。

「んっ…、っはぁ………。」

 気にしていなかったが、昨日も倒れるまで戦ったのだ。
 一晩ですぐに全快するほどの疲労ではない。
 筋肉に負荷をかければ当然壊れる、ようは筋肉痛になっているはずだ。
 だがそんなことを一切おくびにもださずに今日の訓練をして、案の定限界まで振り切って倒れた。
 起き上がるのもやっとなはずだ。

 だから、ちょっと色っぽい声出してるからって気にするな、俺。
 息を切らして、顔が上気してるのとか見るな。
 あぁ今こっち見ないで、上半身だけ起こして座っている状態ではほんとにダメだから!
 その体制からだと見上げる形になるから!
 目が少し潤みを帯びていて、なんか非常にマズイ感じに見えるから!!

「?………どうしたの?」

 首をコテン、と傾げながら上目遣いでこちらを見るアリサ。

 何だこの湧き上がってくる気持ちは!!
 可愛いのはもう置いておけ。
 今はこの感情言い表す言葉がわからない。
 このままでは、色々と危ない気がする!
 これは、この気持ちは。

「大丈夫?難しい顔してるけど。」
「……あぁ、うん。色々大丈夫じゃないけど大丈夫。」
「それ大丈夫じゃないでしょ。」

 頭を捻って唸っていると、アリサは既に息を整えていた。
 少しけだるさはあるのか、両足が少しふらついたがなんでもないような動きで立ち上がった。

「それじゃ、また明日。」
「おう。ちゃんと体休めろよ。」

 俺の言葉に笑みで返すとそのまま帰っていった。
 その後ろ姿にはもう疲労の色はみられなかった。
 そして俺に湧き上がったこの感情の名前も結局解らず終いだった。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 特訓3日目。

「今日はほんのちょっとだけやること変えるぞ。」
「何をするの?」
「俺が使う得物をちょこっと変更。」

 カチャッ

 『インデンス:スピアフォーム』に換装しました。

 『インデンス:槍フォーム』は刃渡りは10センチほど、持ち手が1メートルといった槍の中では、平均よりやや短めのものだ。

「っしゃー、やるぞぉ。」
「またキャラ変わった!情緒不安定なのかな。」
「これはくせでねぇ、意識すれば治らないこともないんだがぁ、正直めんどくさいんだよねぇ。」
「できればその口調はやめて欲しいかな。苦手なタイプだから。」
「そぉ?………、じゃあ、頑張って抑える。いくぞ。」
 
 俺は槍を構え、アリサもすぐさま構える。
 相手が構えたらすぐに構える、ということは戦いの中では最も大事なことの一つだろう。
 初日は酷いものだった。
 だが、たった2日という短い期間で、実践経験は多少なりともついてきていることがわかる。

 一応弟子という立場であるために、アリサの成長が見て取れたのはすごく嬉しかった。
 思わず口角が上がってしまう。
 あぁなるほど、昨日の俺の感情がわかったかもしれない。
 たぶんあれは、父性から出たものなんじゃないだろうか。
 昨日のアリサは非常に保護欲のくすぐられる出で立ちと振る舞いだったから、なってまだ間もないが師弟関係に似た状態であるから、そういった感情が湧き上がってきたんだと思う。

 モヤモヤしていたことがわかって心が晴れていくのが感じられた。
 よし、これで気兼ねすることなく訓練を続けることができそうだ。

 再度現実に意識を戻しアリサを見る。
 もともと持ち合わせていた技術から今のアリサからスキを見出すのは非常に困難を極める。
 ただ、もう既に弱点はわかった。
 アリサは確かにこの2日間で実践経験を積んで、他の人では考えられないほどの成長を見せている、がしかし、そうであってもまだ実践から得られる知識や心構えといった、才能では誤魔化すことの出来ない面から突くスキはそこかしこに存在する。

 そして、この2日間成長したのはアリサだけではない。
 俺も武術家を目指してありとあらゆる武術に手を出してきた。
 俺がいくつもの武術を習っていた理由は、それ一つを極めようとしても、必ず、、1番にはなれないからだ。
 俺にも武術家になるための才能はある。
 だが最強を目指している俺には、周りにいる同期や先輩、後輩にはいくら俺が頑張ったとしても追いつけないだけの才能を持った人がいるのだ。
 俺には俺にしかない何かが必要だった。
 それを探すために、手当り次第と言っても間違いじゃないくらいには、様々な武術に手を出しているだろう。
 その一つ一つに全力を注いできた。
 もう俺には武術の道を歩むことしか出来ないくらい没頭し続けてきた。
 俺も大成してまもない武術家からすれば、まだまだ修練が足りないと言われるだろう。
 だがそれでも、俺には俺なりに今まで身につけてきた技術がある。
 未だ本物に至っていないアリサには、現師匠として意地でも勝って道を示す義務がある。

 だから俺はアリサの特訓に付き合っているさなかで、アリサの動き、呼気、思考を読むことに専念してきた。
 はっきりいって、アリサの戦い方はほぼすべて見切ってしまった。
 戦う相手の情報を逸早く収集し、相手を倒すための一手をできるだけ多く考える。
 それが今まで俺が他の武術家達や才能ある弟子達と同等に戦うために身につけた、俺が誇れる最高の技術だ。

 ここで俺はアリサという才能の塊、最強になりうる原石に、アリサの師匠としても1人の武術家を目指す男としても、勝たなければならないのだ!

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品