クズスキルでも、努力次第で世界最強!?

シュトロム

10話 会話しようよ

 戦々恐々としながらも歩くこと数十分、あまり人がいることがない俺のお気に入りの場所である公園についた。
 ここのことはたぶん俺が1番よく知ってるんじゃないかというくらい通いつめている。
 1本の大樹を残して、ほかの木々を切り開いて作られたこの公園は、黒の国の中央都市から少し外れた場所にあるため、わざわざ来るような物好きもおらず、俺一人で占領しているうようなものだ。
 俺がここに来ていた理由は、単に家が近いのと静かで鍛練するのに適していたからだ。

 俺は公園中央の大樹の前に立ってアリサの方を振り返る。
 アリサは少し俯き気味だったがこちらの様子を伺っているのはわかった。
 とりあえず、即刻切り捨ててくる訳では無いのがわかって少しほっとした。
 それはつまり、話がしたいということが本当だったということだ。

 …よかった、見つかった瞬間逃げ出したい衝動び身を任せなくて。
 逃げてたら逆に危なかったかもしれない。
 よくやった、過去の俺。

「ここなら、人も来ないし話もしやすいだろ。それで、聞きたいことってなんだよ。」

 色々と落ち着いたので、本題に移ることにした。
 アリサは顔を上げ、じっとこちらを見てから口を開いた。

「なぜ、貴方は最後に降参したのですか?あの状況であれば、貴方の勝ちは誰の目にもわかっていたはずです。なのにどうして降参など…」
「自分で言ったことだからな、観客という証人の前で公言したなら、それはもうルールになる。俺は自分で作ったルールで負けただけだ。」
「それは言い訳ですよね?貴方は私より強かった。それなのに、結果として私が勝ったことにするなんて納得できません」
「俺が強い?冗談だろ?…正直に話すけど、もしあの場所の、あの空気感で、決闘という条件下での戦いじゃなかったとしたら、俺はあんたに勝つどころか、決勝進出者の誰にも勝てなかったさ。」
「そんなはずありません。現に始めに使っていたあの棒術は王族剣技をアレンジしたものではありませんか。」
「…え?俺そんなことしてた?」

 アリサの中での俺の立ち位置どうなってんだろう。
 絶対なんか勘違いしてるよね。
 王族剣技?見たことはあるけど使ったことも、ましてやアレンジなんて俺にできるわけない。

「うーん、俺は技術を再現することは出来るけど、王族剣技なんて習ったことも使ったこともないから、再現しようもないぞ?」
「そんな…、あの動きはたしかに王族剣技のものです!私が5年かけて様々な文献を探し、最小限の力で最大の効果を発揮させるために研究した、最も理想的な動きだったはずなのに…」

 …あれ?おれ地雷踏んだかな。
 なんか急に熱くなってません?
 最初に見た、あの気品溢れる姿は何処へ、と言わんばかりに頭を抱えてらっしゃるんですが。
 実は残念な方だったりする?

「私の目は間違っていないはずです…。あの動きはやはり王族剣技のもの…。しかし少年は違うと言いました…。どうすれば…。」
「あのー、なにをブツブツ独り言ちてるんですかー。」

 やっぱり、この人残念な方だ。
 自分の世界に入って抜け出てこないぞ。
 あれー?いつの間に最初の重苦しい空気は消えてしまったんだ?

「なぁ、俺に聞きたいことがあって来たんだろ?もうないなら帰っていいか?」
「…そうです。その手がありました!」
「全然人の話聞かねぇなおい!」

 ぴこーん、とでも音がなりそうな勢いではっと顔を明るくしたアリサ。
 なんかいろんな意味でこの人怖い。

「貴方、弟子を取る気はありませんか。」
「…唐突すぎて話が掴めないんだが。もう1回言ってくれる?」
「私を弟子にしてはくださいませんか!」
「さっきと言ってることは違うが、意味はわかった。でも、話が飛躍しすぎてついていけないわ。」

 どういうことだ、この一瞬で武術家見習いから師範代にランクアップしたんだが。
 そんな前兆まるでなかったはずだよな、そんなもんそうそうあってたまるか。

「…えぇっと、俺になにを教えろと?」
「いえ、別に何も無い教えていただかなくても結構です。」
「あれー?さっき言ってたことと違いません?」
「これは失礼。貴方にはぜひしてほしいことがあるのです。」
「それ、俺がすること前提で話進めてるよね。」
「私の特訓相手になってほしいのです。」
「やっぱり人の話聞かないな。」

 それになんて言ったこの方。
 俺と特訓?ほう、あの人外の速度で戦う相手と定期的に模擬をしろと…。
 それはつまり、俺に死ねって言ってます?
 王族剣技で戦うならまだやりようがあるが、もしあの高速戦闘でするとかになったら…、寿命がガリガリ削られる未来が見えるな。

「なんで俺?他当たってくれよ…。完全に力不足だろ。」
「そんなことはありませんよ。謙遜することは美徳になりますが、やりすぎは逆効果ですよ?」
「いや謙遜とかじゃなくて本当に強くないんだけど…。」
「…やはり貴族はお嫌いですか?」

 急になにを言い出してるんだ?
 そんなこと言ったかな…。

「決闘の時に貴方が話していたことには、重みと言いますか切実な思いのようなものを感じました。」
「その事か…。ただただ勝つために必死だっただけなんだけど…」
「それでも私には強くならなければならない理由があるんです。だから、どうかお願いします。」

 そういってアリサは頭を下げた。
 何がそこまでさせるほどの決意をアリサにさせたんだろう。
 貴族の、それも王族の分家のアリサがただの平民の俺に対して頭を下げてまで強くなる必要があるのだろう。

「はぁ、何がそこまでさせるのか知らないけど…、俺でいいって言うなら、まぁやってやらんことも…。」
「ありがとうございます!では明日の朝、10時頃にここでまた会いましょう。それでは。」
「え、あ、ちょっ!?」

 それだけ言ってアリサは颯爽と去っていった。
 …とりあえずわかったことは、あいつ本当に人の話聞かねぇわ。
 自分の言いたいこと言うだけ言って、会話する気が全くない。
 明日もこんな調子だったら、俺ちょっとやっていける気しないんだけど…。
 まぁ、なるようになるさ。
 頑張れ、明日からの俺。

 考えることを放棄した俺は、そのまま帰路についた。
 これから想像もできないような日々が続くなんて欠片も思うことなく。

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コメント

  • ノベルバユーザー1160

    役不足の使い方が間違ってるので、役不足ではなく、力不足が正解です。
    内容的にも合ってるので
    わかりやくす説明すると、
    役不足は社長なのに下っ端の仕事⁇ってな風に自分の能力が余ってるって感じですね。

    0
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