クズスキルでも、努力次第で世界最強!?

シュトロム

9話 俺刺されないよね?

「おうソーマ。どうだった、今年も勝てたか?」

 俺が闘技場から出ると串焼きの屋台のおっちゃんが声をかけてきた。

「あはは、負けちったよ。そう何度もうまくは行かないよな。おっちゃん、串焼き1本。」
「毎度、まさかお前がまけるとはなぁ。今年の優勝者はそんなに強かったのか?」

 おっちゃんが驚いた顔をしながらも串焼きをくれた。
 やっぱこれうまいわ、俺じゃこの味出せないんだよな。
 どうやって作ってんだろ。

「今までの優勝者だって俺よりみんな強かったさ。それでも俺が勝てたのは情報量と決闘の場数の違いだよ。相手の戦い方がわかっていれば対策は立てられるし、試合と決闘じゃ前提条件違うから勝てたってことだな。」
「うーん、俺にはわからん話だな。対人戦なんぞやったこともない。」
「そうなのか?おっちゃん強そうに見えるけど。」

 何を隠そう、このおっちゃんムキムキである。
 あれ?あのムルアスとかいう無双審判もムキムキだったな、というかあの会場にいるやつほとんどムキムキだったわ。
 俺はヒョロヒョロなんだけどね。
 …いや、武術家はムキムキなやつが強いってわけじゃないよ、ホントだよ。
 ホラ、アリサもちゃんと女の子らしい見た目だったし。動きは人外レベルだけど。

「まぁ、オレは仕事柄よく森を通るからな。そりゃ体の一つや二つ鍛えてないと今頃死んでるぜ?」
「あぁ、そういえばこの串焼き魔物の肉使ってるって言ってたしな。最初はちょっと忌避感あったけど、美味しいものに罪はない。ていうか、普通に好きだわ。」
「だろ!?やっぱわかるやつはわかるんだよな!」

 俺の言葉を聞いて興奮気味のおっちゃんは、ここクレア大陸の黒・紫・赤の三国を行き来して魔物肉のうまさを伝えるために、色々なところを回っているんだとか。
 最近ようやく魔物肉の良さが伝わったとかで一部の人にはすごい人気なんだそうで。
 かくいう俺も今では週一くらいで食べるよ、魔物肉。
 ち、ちゃんと調理すれば美味しいんだよ?
 ちなみに、俺の今いる黒の国では俺が初めておっちゃんの串焼きを食べたらしい。
 なんでも、「食べた後に何の肉か聞いた時におもしろい反応をしてくれるやつだと、上手く売れんだよ」ということらしく、それの犠牲にあったわけだ。
 いやぁ、あの時は年甲斐にもなく叫んだなぁ。

 なんてことを話していると闘技場の方で、ワァァっと歓声が上がる。
 今頃表彰式終わりの会見でもやっているのだろう。
 ここ数十年の間、女性の優勝者は出ていなかったから余計に盛り上がっている。
 今年は負けてて良かったかもしれないな。
 勝ってたら勝ってたで色々と雰囲気をぶち壊していただろうし、個人的には貴重な経験と楽しささえあれば割と勝ち負けはどうでもいいんだけどね。
 まぁ、戦いが始まっちゃうと勝ちにこだわっちゃうけどね。

「それで、今年は誰が優勝したんだ?」
「アリサ・エイセラっていう貴族様だよ。王族剣技使いで師範代を何人も倒してるんだと。」
「ほぉ、エイセラって姓はこの国の分家の姓だろ?お前そんな相手に決闘申し込んだのか。捕まってもおかしくないぞ?」
「あはは、まぁ5年も『荒らし』なんぞやってるからな。
道場破りとかもちょっとだけやってたりするから、エンターテインメントとして受け入れられてんじゃね?」
「道場破りはエンタメになんねぇよ。」

 互いに冗談を織り交ぜつつ談笑していると、闘技場からたくさんの人が一斉にでてきた。
 どうやら今年の武術祭も閉幕となったようだ。
 俺はフードを目深にかぶりできるだけ人目につかないように移動することにした。

「おっちゃん、またな。今度会った時串焼きのうまい作り方教えてくれよな。」
「教えねぇよ。お前は一生オレから串焼き買ってろ。」
「あはは、じゃあな」
「おう」

 挨拶を済ませて見つからないようにこっそり移動する。
 観客や選手の中には俺のことが気に入らないやつが多い。
 少なくとも今日だけはひっそりとしていないと吊るし上げられるかもしれないからな。
 誰にも見つからないように裏路地を抜けて小路を歩く。
 何度か俺を探してるやつを見つけたがなんとか見つからずにすんだ。

 闘技場からだいぶ離れたところでフードを下ろし一息ついた。
 ここまでくれば大丈夫だろうと思って。
 しかし、

「やっと見つけました。」

 思わず肩がはねた。
 人の声にしては覇気がなさ過ぎて、亡霊のような声だった。
 ゆっくり振り返ると、そこにいたのはアリサだった。
 闘技場で見た時の力強さというか存在感というか、何かが抜けて落ちたような雰囲気でそこに立っていた。
 それでもこちらを見ている目には、しっかり力が宿っていた。

「貴方に聞きたいことがあります。お時間よろしいでしょうか。」
「……場所を変えるぞ。ここじゃ人目に付く。」
「わかりました。」

 俺、殺されるんじゃなかろうか。
 力のこもった目に、わざわざ聞きたいことがあると言って2人になれる状態を作りにきやがった。
 今の俺はすぐにでも隠れていたいし、アリサは今年の武術祭の優勝者で目立つ。
 必然的に人目のつかない場所に行かなければならない。
 そこで、後ろからサクッとくる気か…、怖ぇぇ…。

 でももし本当に話がしたいだけなら、聞かないわけにもいかないし。
 ちょうど俺も気になってたこともあるし。
 俺はアリサを連れて、全力でアリサを警戒しつつ移動することになった。

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