クズスキルでも、努力次第で世界最強!?

シュトロム

2話 黒剣

「さぁ、まずは決勝トーナメント進出者のメンバーを対戦順に紹介しよう!第1試合、ガルド対ワールスだ!第2試合は......」

 無双審判こと、ムルアスの紹介に合わせて大競技場に決勝トーナメント進出選手が順番に出てくる。
 やはりガルドは決勝トーナメントに進めたらしい。
 そして、所詮の相手は先程の達人タイプの男、ワールスで早くも面白い試合が見れそうだ。
 続々と出てくる選手達に歓声が巻き起こる。
 そして7名の決勝トーナメント進出選手の登場が終わった。

「ここで、観客の皆にお知らせだ。なんと今年も・・・前回優勝者不在ということで、今回も特別ゲストのご登場だ!」

 ムルアスの案内により、先程選手達が出てきたところから、特別ゲストと思わしき人物が入場する。

 まず始めに驚いたのは、出てきた人物がまだ成人(ここでは18歳を指す)にも満たないような少女だったのだ。
 だがそれだけではなく、その存在感からしてかなり異質だった。
 それを一言で表すなら、黒剣。
 長く美しい黒髪と、切れ長で見ているものを射貫くような琥珀色の瞳が、まるで限界まで鋭く磨かれた、一本の名剣であるかのようだった。
 腰に下げられた黒の細剣レイピアは彼女自身を表しているようだった。
 しかし身に纏う衣服は、今から行われる決勝トーナメントにふさわしいものではないように見える。
 いかにも、王族貴族によく見られる正装に手が加えられた、きらびやかな服装だったのだ。
 これには、観客からも困惑した声が聞こえる。

「ご紹介しましょう!今回、特別ゲストとしてご参加してくださるのは、黒の国エイリオスの王族分家にあたる、エイセラ家の御息女、アリサ・エイセラ様です!」

 ムルアスの説明に合わせて、恭しくお辞儀をする姿に観客(ほとんど男性)から、ため息がこぼれるほどに洗練された動きを見せた。

 只者ではなさそうだが、大丈夫なのか?万が一にも怪我をすれば、分家だからといってただ事じゃすまないだろ、と思ったが、なにか事情があるのかもしれないと、その考えを頭の片隅に追いやった。
 そして俺は、無双審判の解説になるほど、と納得した。

「ここでなんとも驚きの知らせを観客諸君に伝えよう!実はアリサ様は独学であの有名な王族剣技を収め、王族剣技の師範を打ち負かし、免許皆伝を取得しておられるのです!これは大きく期待できます!!」

 王族剣技は、昔王族貴族の間で演舞として用いられた剣術舞踏を実戦ように改良されたものである。
 この剣技は、代々王族に一子相伝するために改良されたのだが、あまりに修練難度が高いので王族だけでなく貴族の者達にもあまり使われることがなくなり、王族剣技とは名ばかりのものとなってしまったが、この剣技は完成度が高く世界で『三大武術』の1つとされている。

 無双審判の解説に観客一同は大歓喜している。
 『三大武術』とは言うものの、それを実際に使えるものは少なく、最も多く存在する王族剣技の使い手であっても、師範代ともなれば世界で10人もいない。
 その1人を倒したともなればこの騒ぎようは当たり前ともいえる。
 だが納得していないものもいるようだ。

「ふざけるな!!予選も出ず、決勝進出だと?!」
「どうせコネに決まってる!」
「この解説もどうせ金でも握らせて言わせてんだろ!!」

 そう声を張り上げたのは、予選敗退者達だった。
 まぁ、そう考えてもおかしくはない。
 王族と言っても分家は貴族扱いになる。
 こういった公の場での功績は爵位などにも関わってくるという。
 周りの空気が一変し、疑惑と嫉妬の目線に晒されている。
 このままでは大会一時中断しかねない。が、

「そこまでおっしゃるのなら、今ここで予選をしましょうか。敗者復活戦も兼ねて皆さん参加なさっては?」
「何ッ?!」

 大競技場から声が上がった。
 その声はアリサによるものだった。
 確かにそうするならば、周りからの疑念も晴れるし、不満のある者達はここぞと参加する。
 もし参加もせず、文句を言ったとしても臆病者に耳を傾けるようなやつはこの闘技場にはいないだろう。

「よろしいでしょうか?大丈夫です。お時間は取りません。すぐに終わらせますので。」

 無双審判と他の決勝進出者に振り向きそう告げた。
 決勝進出者達はすぐに了承したが、無双審判は少し困った表情を浮かべつつも了解した。

 観客席から数十人ほど大競技場に降りていく。
 小競技場では入りきらない人数で予選行うので大混戦が予想される。

「それでは、一斉にどうぞ。私の準備はできています、いつでも大丈夫ですよ。」
「舐めやがって!!いくぞオラァッ!!」

 アリサの挑発に、初めに声を上げていた男が戦鎚せんついを振り上げる。
 どこからか悲鳴が上がり、皆がアリサの身を案じた。

 一閃。黒い一筋の光が走る。
 
 全員が息をのみ硬直した。
 直後、戦鎚を振り上げた男が膝から崩れ落ち地に伏せた。
 ほとんどのものが、何が起きたのかわかっていないらしいが、見えたものですら、ほとんど理解できなかっただろう。
 簡単なことで、アリサは腰に下げた細剣を鞘ごと抜き放ち溝内に一撃入れ、すぐに元どうり腰に下げただけである。
 ただ、その行動が異常なまでに速い、速すぎた。
 参加者たちには瞬間移動したように見えただろう。
 皆一様に後ずさっていた。

「先程までの威勢はどうしたのですか?来ないのならこちらから行きます!」

 咄嗟に皆武器を構えるが、既に遅い。
 黒い剣閃は全ての参加者が倒れるまで消えることは無かった。

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