インカイゼル戦記

虎丸リウ

第16話 開戦

第16話


 「報告です、依然日本を発った軍艦や輸送船並びに飛行船等の移動手段は確認されていませン」

 日本対中国の戦争が開戦してから1週間、貿易船等を攻撃して日本の流通を麻痺させることで攻め込まざるを得ない状況を作るという策。
しかしここまで日本に動きは無かった。

 「了解した。…未だに動きを見せんとは…長引く程に民が苦しむ事は分かっているはずだ…」

 「そ、速報です!およそ30分前、ミサイルと思しき物体が発射された模様!!」

ミサイルだと!?馬鹿な、日本にそれ程の技術力が…いや、密偵の話ではそのような物を作っていると言う情報すらなかった…どういう事だ…!

 「し、然しながら申し上げます、発射されたミサイルの弾道が明らかに高く、香蘭は愚か本国に落ちる事すらないと思われます…」

 発射に失敗したというのか…?
いや違う…なにか意図が…

ゥォォォォォォォ…

「念の為着弾地点に赴き実物を調べろ、何か意図があるやもしれん。」

ォォォォォォォ

「了解しました!!ん?なにか聞こえるようですが…?」

オオオオオオオオオオ

「…ッ!上か!!」

 「うおおおおおおおおおお!!!!!」
 「いやあああああああああああ!!!!」
 「のおおおおおおおおお!!!!」
 「ぎゃああああああああああ!!!!」
 「空からの宅配便、お届けに上がりましたー!!!」

 夢を見ているのか。空から人が落ちてくるではないか。
 人影は全部で5つ、絶叫と共に地面に叩きつけられ粉塵が舞う。

 「気付けの一発くれてやるよ!」

 声とともに爆発するようなマナを感じとった劉はすぐさま指示を出す。

 「衝撃に備えろ!!!」

が、反応できた者は少なく周囲の騎士が電撃をうけ痺れたかのように動かなくなる。
なんと奇抜な作戦だ…まんまと意表を突かれたようだ…!

 粉塵が明ける、そこにはニヤリと口角を上げ薄ら笑う神崎、そして後ろには。
 後ろには…すでにボロボロになった4人の騎士が倒れていた。

 「いやー死ぬかと思ったねぇ」

 「「「「普通は死ぬんだよ!!!!」」」」
 全員が声を揃えてつっこむ

「おめェ後で1回斬らせろ…死なねェ程度に殺すからよ…!」

 「あははー器用なこと出来るんだねぇーオレ尊敬するー」

ケラケラと笑い飛ばす雷火

 「もぉ…二度と神崎の作戦には乗らないわ…」

 「右に同じ…」


 ~30分前~

 「以上のサードフェイズまでが今回の作戦プランだ、質問はある?」

あらかた作戦の大部分を説明し終わった所でいよいよ作戦が開始されようとしていた。

 「あの、作戦の鍵は神宮さんってのは分かったんですが、もう1人というのは?」

 「それなら呼んどいたからもうすぐ…」

ドーンと勢いよく扉が開く。

 「ナイスタイミングだね」

 「チーッス!兄貴のお呼びなら何時でも駆けつけるっス、あなたの心の華村勝男っス!」

えぇー…
恐らく誰もが予想していなかったであろう。
 彼を呼んだ本人も軽く引いているようだ。

 「…いやぁ絶妙にイラつくねぇ…」

 「は?ちょ、は?こいつが鍵??まじ…?」

 本気で心配そうにしている飛鳥

 「残念ながらまじなんだ…」

 「ちょっと!なんの話してんスか!?人の顔見て絶望されてもこまるんスけど!!?」

 当人も訳が分からないようだ。
のでかくかくしかじか作戦を伝える。

 「ええええええ!?俺がそんな役を!!?」

 「お前がいないと最終フェーズに移行できない、だからお前はオレと行動すること、可能な限りフォローはするけどできる限り自分の身は自分で守って。お前ならやれるさ。」

 「りょ、了解っス!」

さて、不落の要塞と化した香蘭に突撃と行きますか!
ロケットに乗るメンバーは雷火、飛鳥、如月、天馬、勝男の5人。
 瑠依は奇襲班が出発と同時に海路で進み4000の兵を率いて正面から突撃すると言う筋書きだ、既に兵を率いて港に待機している。
ロケットの中はかなり狭くおしくらまんじゅう状態になっている。

 「ちょっと狭いですね…」

 「たった3日で作ってくれたんだ。文句言わない」

 「そもそもちゃんと飛ぶんスか?飛行実験してないって聞いたんスけど…」

 「深月ちゃんの仕事なら間違いないと思うけひあぁ!ちょっと飛鳥!どこ触ってんのよ!!」

 飛鳥の手が不本意にも胸に埋もれている。

 「何触ってんのか見えねェよ、尻でも触ったか?悪い悪ぐほあ!」

 飛鳥の頬を見事な鉄拳で屠る。

 「今のは飛鳥が悪い。」

 「仕方ねェだろ狭いんだから…」

ハッチが締まり発射シークエンスに入る。

 「だから手をどけなさいって…ば…んんっ…あ…」

 「動けねェんだから我慢しろよ!尻の一つや二つで文句言うな!」

どうも飛鳥は鈍感というか馬鹿というか…見てる分には楽しいからいいや。

ピリリリリリ。
 『こちら深月、聞こえますかー?』
 通信機から瑠依の声が雑音と共に響く。

 「あぁ、聞こえてるよ。どうした?」

 『言い忘れてたことがありまして。』

と同時にロケットは発射され中国上空へ向け飛び立つ。

 『撃ち落とされる可能性等を考慮して着弾地点を香蘭の先にある海峡に設定したので、途中で飛び降りることになりますのでパラシュートとか用意していってくださいね!』

………え…?
 瑠依の発言に1人を除いて顔が青ざめていく。

 「どどどどどーするんスか!?つまりパラシュートなしのスカイダイビングって事ッスか!??」

 「…おい雷火…てめえまさか分かってて言わなかったな…?」

 「はははー言ったら快く乗らないだろー?」

ふざけんじゃねえぞおぉぉ!と狭い中雷火を揺らしまくる。
 故にロケットも揺れる揺れる。

 「ちょちょちょ!落ちるから!落ち着いてください馬鹿さん!!」

 「こっちのが馬鹿だろうが!!!」

 「パラシュートなんて使ってのんびり降りたら狙いの的だろ?多少痛くても飛び降りないと?」

あたかも当然かのように言う為にそれが普通と勘違いしそうになるが…

「そもそも落下の衝撃で死ぬような奴ここにいないじゃーん。」

ハッハッハと笑う雷火。
 確かにどれだけの高さから落下したとしてもマナで身体能力を上げていればこのメンバーなら死ぬことは無いだろう…が。
 高高度から身を投げ出す恐怖。そして間違いなく死ぬほど痛い。

 「俺は多分死ぬッスよ…」

 勝男にはそれだけのマナやコントロール能力が無いからな…

「あぁ…ファイト♪」

おおおおおおおおおおい!!!

と叫んでいるが無視。

 目的地上空に到達。瞬間ロケットが空中分解を起こした。

 『それから目的地上空に着いたら座席部分がパージするので肝に銘じておいて下さいね!』

だから言うのが遅いんだあああああああああああ!

 香蘭上空高度8000mを落下中

 「深月ちゃん…変な所が雷火に似てるわ…」

 「逆にこれだけ好き勝手やられると悟りが開けそうですね…」

 真っ逆さまに落下していく中冷静に会話をする。

 「なんでなんでなんで落ち着いてんスか先輩達!!うおおおおお!!!!死ぬぅぅううう!」

 「あれが普通の反応だわな、もう驚くのも面倒くせェぜ…」

 「そろそろ着地だね、死なないように気をつけてね!」

 「「「「お前のせいだああああああ」」」」

そして今に至る。

 「まさか空から敵陣のど真ん中に降りてこようとは、面白いことを考える、然しそれは意表を突くだけでただの愚行に過ぎないな。」

 襟足だけやたら長い黒髪をおさげに結び金色と黒色のチャイナ服に身を包むキレ目が鋭い180cm前後の爽風な男、劉李飛ラウリーフェイが言う。

 「でもこれは予想していなかっただろ?」

ニタリと笑みを浮かべる雷火。

 「予想をしていたと言われれば嘘になる…だが例え予測していなくても問題はない、何故なら貴様らはここで死ぬからだ。」

 「そう簡単には行かないと思うよ?なんせ世界に喧嘩を売った馬鹿どもが揃ってるんだからな。全員散開!作戦プラン通りにいくぞ!」

 了解!!!
 雷火と勝男、そして如月と天馬はそれぞれ別の方向に散開する。

 「行かせるか!」

すぐさま雷火目掛けて向かう劉だがその動きはすぐに止まる。

 「行かせろよ…!」

 劉の前に立ち塞がり風月を抜刀する。

 「心外だな、君一人で私を相手に出来ると思っているのか?」

 放たれる闘気に竦むことなく飛鳥は堂々としている。

 「やって見なけりゃ分からねェさ、一応これでも日本のエースって身だ、抑えておいて損はないぜ?」

 「…フッ、失礼した、この私を前に臆さず居られるとはな、だがいいのか?貴様、死ぬぞ。」

 問いには敢えて答えない。

 「天下の『武神』様が一対一サシ勝負を断るなんて無粋な真似しねェよな?」

 「いいだろう…全軍、この戦いには手出し無用だ、散った連中を数を持って蹴散らすのだ!!」

 周囲にいる騎士達は命令と共にこの場を離れていく。

 「感謝するぜ…?」

 「これ以上言葉は要らないだろう、全ては戦いの中で語り合おうぞ…!改めて、中国騎士団団長代理、劉李飛、我会去的(行かせていただく)!」

 「日本騎士団1番隊隊長、神宮飛鳥だ。行くぜェ!!」

 互いの信念を賭けぶつかりあう。

 ~中国騎士団本部 正門前~

どうやら飛鳥は始めたようね…こっちの仕事はできるだけ数を減らしながら敵指揮官を仕留めることね。

 「はああぁ!!」

 遠心力を利用した回転斬りで雑魚を蹴散らしていく。
 敵の注意がそれ指揮官が指示を出す。その一瞬に首が宙を舞う。

 「ダメですよ、敵はちゃんと見据えてないと。」

 雷火程のスピードでは無いがトップクラスの速さを駆使し戦場を駆ける。『疾風』の名を持つ天馬の真髄だ。しかし、視認できるだけでも5000近い騎士が次々に押し寄せてくる。

 「天馬!よろしく!」

 了解です!の声とともに無数のナイフを目にも止まらぬ速さで投擲していく。
 次々と巡り来るナイフは騎士達に無数の切り傷を付けていく、しかし致命傷にはならない。
この程度かと騎士達は嘲笑うがまだ終わりではない、彼女がいる限り。

 「たとえかすり傷でも甘く見たらいけないわよ?」

 途端に小さな切り傷は深みを増し血管を引き裂き次々と血を流し倒れていく。
 一気に広範囲に攻撃出来るが火力に乏しい天馬と一太刀浴びせることが出来れば致命傷を与えられる如月のコンビプレーである。

 「4番隊、そして五番隊の隊長ともなると一筋縄では行きませんか。」

 落ち着いた声音で緑髪の男が1人前に出てくる。

 「初めまして、中国騎士団戦闘総指揮官を努めさせていただいております、風天悠フォン・テンユウと申します。以後お見知り置きを。」

ぺこりと両手を合わせお辞儀をする。

 「翠豹シルフパンサーと呼ばれる劉李飛の側近であり事実上中国No.2の実力者とお会い出来るとは光栄ですよ…」

 天馬は息を呑む。

 「既に隊長3人を虫の息にされて更に被害が増えようものならこの戦場を任せていただいた劉様に申し訳が立ちません。さしあたっては貴方達の首でお許し頂こうと思います。」

 顔色一つ変えずに冷静な風、余程余裕があるのだろう。
それも当然、目の前にいるのは所詮格下の2人にしか見えていないからだ。

 「私たちの首にそんな価値ないと思うけど、簡単に取れると思ったら大間違いよ。」

 「死に抗おうと藻掻く末に咲く花は美しい物です、どうか麗しく咲き誇ってください、鮮血という大花を…」

 袖から鍵爪を取り出し装着する。

 ~中国騎士団本部 前線拠点~

 最前線に背後から奇襲を掛け、進軍の手助けをする為戦場を暴れ回る雷影が一つ。
まさに一騎当千、波のように押し寄せる敵兵を片っ端から殲滅していく。

 「第5から第8部隊が壊滅!第4部隊並びに第2部隊、被害拡大中!第1部隊より救援要請です!!」

 指揮官と思しき人物に被害状況を伝える兵士。


 「あ、悪夢かこれは…たった一人で5000の兵を倒して息一つ切らしていないだと…ありえん…」

 恐怖心で敵前逃亡するものまで現れ統率を失いつつある前線。その中に1人日本騎士団の紋章の入った盾を持ち逃げ惑う勝男の姿が。

 「せめてお前だけでも討ち取ってやる!!」

 雑魚と見るやいなや無数の敵兵に追われてしまっていた。

 「ひいいいいい!なんつて。」

 逃げてる方向を急に切り返しそのまま兵士を斬りつけた。 
 敵一同は呆気に取られ立ちすくむ、まさか雑魚だと思っていた奴も雷火のような実力を隠していたのかと示唆が交錯する。 

 「なに!?」

 「あまり舐めないでほしいッスね、周りの隊長達がおかしいだけで俺も結構強いッスよ…?」

ゴクリと生唾を飲む敵兵に刃を向けながら数秒沈黙、そして動き出したのは勝男。

 「でも数が多すぎっスー!!!」

 「思わせぶりな態度取りやがって!殺せー!!」

 再び最初に戻る、勝男を追う数十名の騎士は突然血を流しその場に倒れ込む。
 返り血を浴び透き通る白髪が白と赤のコントラストを描く男。

 「ちょこまか動き回らないでくれる?殺り辛いから。」

ビュッと刀を振り血を払いながら言う雷火。

 「兄貴ィ!流石ですぜ!」

 前線はいい感じに荒らせた、後は瑠依達に任せるとして…

「話を聞いて駆けつけてみればえらい有様であるな。」

 巨大なハンマーを抱えて歩くはギリシャ騎士団のエースでギリシャの英雄と呼ばれるアレク。

 「はは、ホントに敵陣のど真ん中にいるぜ。いい感じにぶっ飛んでるな。」

そしてもう1人、アメリカで『戦姫』に継ぐ力を持つ『超回スパイラル』アルフレドだ。
やはり思惑通り前線に配置されていたみたいだな。気がかりは中国No.2の風がこちらに来ていない事だが…

「貴殿があの『猛獣ワービースト』と『衝撃インパクト』を負かした神崎殿であるか、なるほど、噂に違わず相当の使い手と見える。」

 「ギリシャの英雄『樹種シード』、あんた程じゃないよ。二人揃ってアルカトラズへのゴマすりとはイージスも大変だね。」

 皮肉混じりに吐き捨てる。

 「それを言われると頭が痛い、我らも望んでここには来ていないであるからな。」

 「だがまぁ、これで中国に恩が売れるなら安いもんだ。あんたらに恨みはないが覚悟してもらうぜ。」

アルフレドは大きめの長槍を構える。

 「勝男、今まで通り頑張って逃げ回っててね、もう援護はできないと思うから。」

 「チョーきついっス…けどイージス2人相手にする方がキツいからなんにも言えないっス…」

 「漢見せろ♪」

 「うおおお!!やってやるっスー!!!」

 猛ダッシュで戦場を駆け巡る勝男。健闘を祈る…

香蘭での総力戦が幕を開けたのであった。

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