インカイゼル戦記

虎丸リウ

第15話 奇襲作戦

第15話



神崎雷火引渡しの交渉決裂によって衝突不可避となった日本、決戦の日は急にやってきた。
報せを聞いた中国、基政府の意向により中国騎士団全戦力が中国首都、香蘭(コウラン)に集結していた。
圧倒的戦力を持つ中国だがあえての防衛戦を選んだのだ。
こうなれば此方が出を出さなければ済む話とも思えるがそう簡単ではない。
輸出入が市場の八割を占める日本であるがその貿易船を狙い撃ちにし流通を遮断、それだけではなく市民の入出国もまた同じである。
その為こちらから攻め込まざるを得ない状況だ。
一方日本騎士団では打開策を投じるため中国首都、香蘭に攻め入る作戦を建てるべく日本最高戦力の面々が会議室に集まっていた。

「偵察部隊からの情報によると敵戦力はおよそ15000、イージスの劉李飛を筆頭に数名の猛者、そしてイージスの9th、『シード』アルフレド・タッカー。10th、『スパイラル』アレク・ミケロが中国入したとのことです…ね」

数日前に派遣していた偵察部隊の情報を読み上げる天馬、その声音には困惑の念が感じ取れる。

「分かっちゃいたがとんでもねェ戦力差だな…」

「こっちの戦力はせいぜい4000弱よ、白兵戦じゃ圧倒的に不利だわ…」

「ぶっちゃけ正攻法で勝てる相手じゃない。考えるだけ無駄さ」

圧倒的戦力差に半ば絶望している連中を尻目に優雅に紅茶を飲んでいる雷火。

「じゃあ大人しくやられるのを待つの?真面目に考えてよ!」

いい加減な態度を取る雷火に堪らず怒気を荒げる如月。
しかし雷火の態度は変わらない。

「まーそう怒るなって。ちゃんと考えてるよ。“常軌を逸した”作戦をね。」

「なんだそりゃ?」

「多分そろそろ来ると思うけど。1人ここにいないだろ?」

辺りを見渡すと確かにいつも居る彼女がいなかった。

「そう言えば深月さんが居ませんね?」

天馬が発言した数秒後慌ただしく瑠依が会議室に入り込んでくる、その格好はよくある作業着に身を包み顔には煤や油などがついて汚れていた。

「雷火さん!例の兵器完成しましたよ!」

「流石仕事が早いね、助かるよ。さ、皆で見に行こーか。」

みな唖然としただ雷火と瑠依について行く。
地下に進むと技術開発室と書かれた部屋がある、ドアを抜けるとそこには5メートル程のミサイルのようなものが設置されている。

「なに…これ…」

「ロケットだけど」

「これで敵陣をぶっぱなすのか!派手でイイじゃねェの!」

ガハハハと男笑する飛鳥を一蹴。

「ばーか、そんな規模のミサイル作れる技術力が日本にあるわけないだろ。ロケットって言ったろ?乗るんだよこれに。5人乗りだぞ。」

「「「はい?」」」

何を言っているのだろうか…緊迫した日々が続いてとうとう壊れてしまったのか?と皆が思う。

「これに乗って敵陣深くに一気に突っ込む。そんで敵将を抑える。はい一件落着。」

パチパチパチと手を叩く瑠依。
なお他は全員ポカーン(゜д゜)

「は、はは、お前も冗談言うやつだったんだな…」

「悪いけど本気、この戦い長引けば長引く程元々勝ちの目の少ないものがさらになくなる。勝つには短期決戦しかない。」

真剣に語る雷火、しかしこれは余りに狂気じみた作戦である。
たった5人しか乗れないロケットで敵地のど真ん中に放り出されるわけだ。

「敵陣を内側から切り崩し陣形を乱したところを4000の兵力で叩く。統率の取れなくなった部隊は脆いからね。いい奇襲になるだろ?」

「言うのは簡単ですけど…相手にはイージスもいるんですよ?そう上手くいくわけが…」

ニタァと笑みを浮かべて雷火は言う

「そこは気合で何とかするしかないな、少なくとも敵陣の隊長クラスを如月と天馬で相手しなきゃならない。」

「ち、中国の隊長何人いると思ってるのよ!8人よ!?」

「覚悟は出来てるとか言ってなかったっけ?あれ嘘なの?」

「うっ…」

この戦い、一人一人が文字通り死力を尽くして戦わなければ糸よりもか細い希望、勝利を掴むことは出来ない。

「1番問題なのは劉だ、こいつをどうにかして止めておかないとならない…んだけど…」

沈黙が訪れる。
現状劉と渡り合える可能性があるのは雷火と飛鳥のコンビくらいだ、しかし劉1人にこの2人を割くことは出来ない、劉より格下とはいえ他にもイージスがいる。

「…なァ雷火、頼みがある。」

「大体予想はつくんだけど…本気?」

「あァ、奴とは…劉とは俺が一人で相手する。」

「い、いくら何でも無謀ですよ!」

いつになく心配そうな口振りで飛鳥を止める天馬。

「初めてあいつと会った時感じたんだ、あいつは俺と同じ人種だってな。だからかしらねェが、血が騒ぐんだよ、剣士としてのな。」

「なら止めはしないよ、この作戦の鍵になるのは飛鳥、そしてもう一人居るんだけどその前に、瑠依。」

「ふぇ?」

急に話を振られたからか変な声で応答してしまう。

「主に如月と天馬のバックアップだ。けどもしもの為にマナを温存しておいてほしい。極端な話マナを使わずに戦ってほしい。」

マナを使わずに戦う、即ち能力が使えず身体能力が格段下がるため一般人と大差ないレベルまで落ちてしまうのだ。
ましてや主に魔弾を用いる戦闘スタイルの瑠依にとっては致命的である。

「マナ“は”使うな。後は何でもありだ。この意味わかるね?」

「…!!…はい!」

よし、と次々に作戦を支持し次は~と思っていると飛鳥がとある事を聞いてくる。

「なあ、マナの温存は分かるんだけどよ、一応前にお前がやってたマナの吸収を教えてくれよ。出来るかはわかんねェけどもし出来たら使えるだろ?」

「あ、私もそれは気になってた。」

マナの吸収、以前大和と武蔵と戦った際能力を使い瞬時に駆けつけた代償に戦う前からマナがないと言う状況を武蔵からマナを吸収して打開したのだ。
しかし2人の発言に雷火の顔は途端に険しくなる。

「…何で便利なマナの吸収を誰も使わないかしってる?」

「それは、難しいからって昔大和隊長に聞きましたよ」

天馬が答える。
しかし雷火は首を横に振った。

「確かに難易度が高いってのはある。でもそれ以上にデメリットの方がでかいからなんだ。」

皆は首を傾げて話を聞き続ける。

「こほん。ではまずマナについての勉強といきますか。」

本来マナには2つ種類がある。
人体の内で血液等と同じで生成されるマナ。
そして大地、自然の中で星から生成されるマナ。
後者は主に機械等のエネルギーに使われる事が多い、植物から光合成をする際によく生成される為花畑等に行くととある症状に見舞われる事がある、それが「マナ酔い」と呼ばれるものだ。自然から生成されるマナは純度が高く、多量にそれを浴びると人体に影響を及ぼす。その際吐き気や頭痛に見舞われる為にそう呼ばれる。

前者はいつも皆が使っているマナで生まれつきその能力は全ての人間に備わっている。
回復速度は人によって違うがほとんどの人は1日で回復してしまう。
人それぞれマナに波長がある、違う波長のマナを浴びることで前述の「マナ酔い」を引き起こす。
さて、ではマナの吸収をしたらどうなるか。
「マナ酔い」起こしてしまう。訳では無いのだ。
波長の違うマナを浴びるだけなら軽度の体調不良を起こすだけなのだが。吸収によって他者のマナを体内に取り入れてしまうと大変なことになってしまう。
それが「精神汚染」と呼ばれる現象。
自我を失い自分の意思でマナをコントロール出来なくなりいわゆる暴走状態になったり。人体の機能を停止させ、そのまま死に至る。
そしてこの「精神汚染」を治癒する方法は見つかっていない。


「であるからしてやらない事をおすすめするよ♪」

しかしこの説明だとひとつ疑問が残る。

「じゃあちょっと待て、お前あの時武蔵からマナ取り込んでただろ!なのに何で何ともねェだ?」

そう、本来なら精神汚染で身体を蝕まれているはず。

「オレの身体は少し特殊でね、ある程度抑えられてるけど次やったらやばいかもね。何ともなければあの時クロノスに簡単にやられたりしないし。」

軽く口を尖らせているあたり少し気にしている風である。

「あんま無茶すんなっての」

「オレがついた頃にはボッコボコだったのによく言うよ?」

こうして香蘭への奇襲作戦を前に団結を固めたのであった。


~ロシア首都ハーメルン〜

近未来的な建造物が立ち並び世界ナンバーワンの技術力の高さを誇る列強国。
首都に巨大な城として存在するロシア騎士団本部。

「お姉様、政府の方から通信が入っておりますわよ。」

筋肉質な巨体を揺らしメルヘンチックな飾りが施された部屋に問いかける1人の女?がいた

「…んー…めんどくさいわね…今行くわ。」

寝起きの気だるさを押し殺してドアを開ける。
そこには身長140cm程の少女、ロシア最高戦力、イージス1st、『慟哭』のアルマが寝癖をあしらいパジャマ姿で登場した。

「んもう、お姉様?レディがこんな時間まで寝ていたら美容に良くないですわ?まさかそのままの恰好で外に行くつもりですの?」


「ただ通信取るだけじゃないのよ。」

「んもう、そんなんだから23にもなって男の1人もできないんですのよ?」

「う、うっさいわね、オカマに言われたくないわよ」

「心は誰よりも乙女だからいいの♡」

ふわりと宙に浮き司令室へと向かう。
すれ違う騎士という騎士が全て足を止め敬礼をする。
司令室に到着し通信を取るアルマ。

「この私を朝っぱらから呼び出すとはいい度胸じゃない?碌でもない話だったら許さないわよ?」

「お姉様、朝じゃなくてもうお昼の12時よ…」

通信の主はアルカトラズ総帥、クロノスである。

「…相変わらずだな…まぁいい、先日日本と中国の戦争が開始した。協定通りイージスとして参加してもらいたい。」

「嫌よ面倒くさい。」

一喝。

「…これは頼んでいるのではなく命令なのだが?」

「頼みなら直接顔出して土下座でもしなさいよ、それでもお断りだけど。それから私命令しないでくれる?」

この発言には司令室にいる騎士の顔が青ざめるもアルマと顔を合わせないようにしている。

「…断ると言うならイージスの称号は剥奪することにな」

「好きにしたらぁ?頼んでもないのに勝手にイージス認定してきたのはそっちでしょ?馬鹿じゃないの?」

言葉の途中に吐き捨てる。

「気に食わないのならかかってきなさい?捻り潰してあげるわ、あんたも、政府も。忘れたわけじゃないわよね?あんた達が私にした事。」

ため息の後にクロノスは続ける。

「…いいだろう、今回は免除してやる。全くアイリスといいお前といい…ブツブツ…」

通信が切れる。

「…お姉様…あまり挑発じみた行動は避けた方がいいわよ…皆もひやひやして見てらんないんだから…」

「まぁいいじゃない、私がいる限りこの国は平和よ。」

あんたが1番怖いよ…と騎士の面々は心中感じるのであった。

「それにアイリスも断ってたみたいじゃない、平気よ平気。」

ふわふわと自室に戻り始める。

「それからディッタ、後で部屋に紅茶とケーキ持ってきて。それからミーシャを連れてきてね。」

「んもう、人使い荒いんだから、わかりましたぁ♡」

日本と中国の戦争ねぇ…ようやく始まったのね、結果は見えてるけど。
ん、そう言えば日本には私の能力防いだのが居たわね…
おやつ食べたら少しだけ覗きにいこうかしら。
鼻歌まじりに自室に戻っていくアルマであった。


~中国首都、香蘭~

ロシア騎士団本部とは違い古風な街づくりで広い平地の真ん中に建つ要塞。それを囲むように騎士が並び立つ。
その中央に彼は居た。

「劉(ラウ)様、全軍配置完了しましタ。」

「了解した。」

高台に立ち喝を入れるべく気高い声で喝を入れる。

「我々の成すべきことはなんだ!!」

祖国の平和と安全を維持し守護すること!!!

「祖国を守る為武器を取れ!!我々の敵はただ一つ!!」

日本!!!

「我々に敗北は許されない!!全軍!!持てる力全てを出し切り、日本を滅ぼせ!!!中国に栄光あれ!!!」

栄光あれ!!!!

「見事な恫喝でした。」

「団長代理とはいえやれるだけの事をやったまでた、お前の活躍も期待しているぞ、風(フォン)」

「はっ」

拳を心臓の前に付け敬礼をする。

「他の隊長諸君も、奮闘を期待する。」

はっ!と10人近い人数が同じく敬礼する。

「流石は中国騎士団、大戦力を抱えているのに見事な結束力ですな」

白髪の長い髪にウェーブをかけ額を顕にしている厳格な中年男性が劉に声をかける。

「いえいえ、ギリシャ騎士団の洗練された兵士にはいくら数が居ても適いませんよ、アレク殿」

「それでは数も練度も遥かに高いアメリカ騎士団は更にという事になりますなぁアルフレド公。」

「やめてくれ、所詮荒くれの集まりだ。すげえのはうちの戦士長様だ。」

金髪のトゲトゲヘアーにサングラスをかけた黒人は否定的に言った。
そう、この2人が政府から援軍で送られたイージスの9thと10thである。

「ご助力感謝します。勝ち戦といえど、油断はなさらぬよう…」

「何時になく慎重だな、日本如き簡単に潰しちまえば」

「油断なさらぬよう。何卒お願い致します。」

念を押すように闘気を放ち強く発言する。
2人は息を飲み同意すると散開した。

今後歴史に名を刻む伝説の戦いが幕を開けようとしていた。







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