インカイゼル戦記

虎丸リウ

第12話 揺らぎ

第12話


「あぁ?俺に訓練をつけてくれだァ!?俺がお前に!?」

朝から騒々しいと思われるだろうが驚かざるを得ない理由はちゃんとある。
起床してから日課の精神統一を済ませ朝ニュースを見ながら濃いめに出した日本茶を飲んでいるとドアをノックする音がした、面倒ながらもドアを開けたのだが、そのノックの主は意外な人物、御堂天馬であった。
天馬が俺の部屋に来ること自体そうそうない事なのだが奴から飛びてた言葉に驚かされる。

「朝早くにすみません、今日訓練に付き合ってくれませんか。」

もう周知だろうが天馬と俺は犬猿の仲、とでも言うのか互いに嫌っている訳では無いのだがすぐに喧嘩になることが多い。
そんな天馬が俺に頼み事をしてくるとは、それも訓練に付き合ってくれませんかと来たもんだから冒頭の発言になったわけだ。

「無理にとは言わないです、こっちも出来ることなら飛鳥さんに頼みたくないんで。」

結局いつも通りトゲのある言い回しに戻る訳だ。


「モノ頼みにきてんのか喧嘩売りにきてんのかわかんねェ奴だな…でも珍しいな、どうしたんだよ。」

いつも小馬鹿にしたように絡んでくる天馬だが今日はいつになく真面目に見える。何となくそれを察した飛鳥は天馬に問う。

「…あの時僕は何も出来なかったんです…今まで天才なんて呼ばれていい気になってました。でも実際は…強くなりたいんです…後悔しないように…」

大和と武蔵に手も足も出なかった事を言っているのだろう、確かに天馬の強さは日本でもトップレベルだが奴らはそれを上回った。本来の実力、イージスである事を隠していたのだから。

「…強くなりたいってのはみんな同じだ、オレだってクロノスって奴に無様に負けたしな、それでもいいのかよ?」

「昔言ったじゃないですか、強くなりたいって魂の底から思えば強くなれるって、未だにバカっぽいセリフだと思いますけどね。」

「い、いつの話してんだ!わァったよ!今からトレーニングに行こうとしてたとこだ、付いてこいよ。」

入団当初よく口にしてた言葉だが、今聞くとこそばゆく感じるもんだな…
本部地下の修練場で天馬と共にトレーニングに励む二人。
そこにもう一人

「やってるわね、私も混ぜてもらえる?」

既に軽く体を動かしてきたのか少し息が荒くなっている如月がやってきた。

「おう、丁度いいから組み手と行こうぜ。」

如月にはよく組み手の相手になってもらうことが多かった、その度に手加減しなさいよ!等と言われる。
天馬と如月と一緒にトレーニングを重ねて行くとあっという間に時間は過ぎていく。
朝から休むことなく続けている為流石に疲れが見えてきたので休憩を取ることに。

「だぁー…やっぱあの時の感覚が思い出せねぇ…何だったんだ?あれは…」

クロノスの技を切り裂いた時の力、あれを使えればもっと強くなれると踏んだんだがあれ以来全くそれっぽい力が出せないでいる。

「火事場の馬鹿力って奴じゃないですか。」

うっせ、と天馬にゲンコツをプレゼント。
しかしその通りだな、無我夢中の出来事だったしまぐれの一撃だったのかもしれない。そもそもあるかないかわからない力に縋ってちゃ先に進めねェ。

「つーかさ、俺に頼まなくても雷火に頼んだ方が確実じゃねェ?どう考えてもあいつが一番強いんだからよ。」

「ざーんねん、神崎は朝早くに観月ちゃんとデートよ」

「あぁ?デートだぁ?気楽なもんだなおい…」

日本が滅ぶ滅ばないの瀬戸際に何やってんだか…

「言葉のあやですよ、僕も頼みに行こうとしたんですけど先客がいましてね、二人も朝から修行に行ってます。」

「なんだそういう事かよ…つーか俺はあいつの代わりかよ!」

「じゃなきゃあんたになんか頼まないわよ。」

二人して顔を見合わせ同意している。
笑いながら言うことか!失礼な奴らだ。

「あったまきたぜ…如月ィ!もっかい組み手だ!お望み通りみっちり稽古つけてやんよ!」

「ちょ、ジョーダンだって!もうクタクタなのー!」

半ば強制的に第2ラウンド開始である。
そして異変は起こった。
突如今までにない気配を感じた。恐らく俺だけしゃなく二人も気がついたようだ。

「…誰だ…うちの騎士じゃねえな…」

「…流石日本の最高戦力、ほんの少しだけ殺気を放ったのを気がつくとは…失礼、試すような真似をした。」

鋭く鷹のような瞳に金髪のおさげを拵えチャイナ服に身を包んだ屈強な男、身長も俺と同じくらいか…どう見ても中国人だが。

「その格好…中国騎士団ですね…堂々と敵の本丸に侵入とは…どういう神経してるんですかね。」

「日本の騎士団はどういう所か見学をしたくてね。楽しそう修行に励む君たちを見ていて実に、滑稽と言わざるを得ない。そんな生ぬるいやり方で政府と対立しようなどとのたまわるのだから尚の事」

「…そりゃ大きなお世話ってんだ…てめェだろ。中国の劉李飛ってのは…」

如月と天馬はえ!?と目を丸くする。
俺も実物を見るのは初めてだがこいつから感じる異様な感じは慟哭のアルマや破壊神ラオテラスから感じた物によく似ている。
そんな力を持った中国人は一人しか知らない。

「んで?戦争でもしに来たか?随分気がはえェじゃねェの。」

「いくら私でも一人で日本を抑えれるとは思わない。今日は交渉に来ただけなのでね、騎士団長にお取り次ぎ願えるかな。」

交渉?いったい何を…

「悪ぃが敵をいきなり大将に合わせる気はねぇな。話なら俺達が聞いてやるよ。」

「懸命だな…単刀直入に言おう。神崎雷火という男を渡してもらいたい。聞き届けてもらえるなら我々中国、そして政府は日本から手を引こう、日本騎士団長の罪も無かったことにしてな。」

「な!?」

売れってのか…あいつを…雷火を引き渡せば日本は助かる…そういう事か?

「日本は…助かるの…?」

「如月!!」

明らかに動揺してる如月を抑制するように飛鳥は叫ぶ。
実際揺れるのはわかる。絶対勝てない相手と戦わなくて済む、死の恐怖に怯えなくて済むのだから。

「わ、分かってる…!でも…」

「罠…という線も充分考えられます。都合が良すぎる話ですからね…」

天馬の言う通りだ。なにか裏があるに違いな…

「疑いたくなる気持ちは分かる。それほど彼の力を欲しているという事だ。考えてみろ。奴が居なければ日本は的にされる事もなかった。違うか?」

「そ、それは…」

まずい…天馬まで…
言葉巧みに流れを掴みやがる…人の心理に漬け込むやらしいやり方だぜ…

「24時間与える。それまでに結論を出すことだ。いい返事が聞けることを祈る。懸命な日本騎士団諸君。」

言いたい放題いって消えやがった…
にしてもまずいなこりゃ。明らかに二人とも動揺してやがる…かくいう俺もだ。
楽な道があるならそれを選びたくなる。それがある人間心理だ…

「今日はあがるね…疲れちゃった…」

そう言うと如月は走っていってしまった。

「…ボクには何が最善か分からない…」

同じように天馬も思い足取りで行ってしまった。

「くそっ!どうすりゃいいんだ…」






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