インカイゼル戦記
第8話 即席チーム
獣人化、数ある能力の中でもずば抜けた肉体強化が特徴であり獣特有の敏捷性に加え脅威的な破壊力を得る。
いざ目の当たりにし対峙するとその脅威が身に染みる。
唸り声にも近い雄叫びをあげ高い敏捷性を生かし飛鳥を撹乱する大和。防戦一方となる飛鳥だが武蔵の攻撃ダメージが蓄積量しているため一瞬だがよろめいてしまう。
わずかな隙を逃さず鋭い爪を交差させ飛鳥の喉元を抉るように切りかかる。
隙を突かれたもののなんとか防御が間に合うがあと数センチという距離まで爪が押しよる。
「くっ…そが…なんてパワーしてやがる…!」
ちっ!力が入らねえ…このままじゃまずい…なにか手を…
「鍔迫り合いの差中に考え事はよくないな…?」
今まで力押し一辺倒だった大和は急に力を抜きフェイントをかける。
「しまった…!」
獣人化での強烈な一撃が飛鳥の背中にヒットし吹き飛ばされ壁を崩し下敷きになる。
「今のでワイの爆弾も破裂したな…もう立てへんどころか死んだかもしれへんな」
「いや…奴はまだ…」
瓦礫が吹き飛び闘気を盾になんとか致命傷を避けフラフラと立ち上がる飛鳥の姿があった。
「今のは流石に死んだかと思ったぜ…」
強がってはいるが身体が持たねェ…次食らったらまじでやべえ…
「せやから…これは二対一やっていっとるやろ?」
瓦礫に隠れ忍び寄った武蔵が掌を顔に向ける
「なっ…!!」
「チェックメイトや…」
衝撃波を放とうとした次の瞬間、窓の外からから雷光が落ち
轟音が響く。
「な、なんや!?」
「どんな登場の仕方だ…あのタコ…」
床は焼け焦げ壁を貫通しもはや司令部の原型は止めていない。そんな砂煙の中に人影が一つ。
「いっててて…加減が難しいなぁ…次はもう少し…あら、もしかしていいところに来た?」
そこに居たのは先程までE市にいたはずの神崎雷火その人だった。
「随分遅い登場だぜったく…」
「おいおい、これでも随分とばしてきたんだぜ?少しは評価してほしいね」
「貴様…E市に任務に行っていたはずだが…?」
思わず大和は確認する。
「俺の能力でめっちゃ頑張って走ってきたのさ、だいぶ疲れるけどね。」
軽くあしらいながら真堂と如月に歩み寄る。
「これまた派手にやられたね、らしくないじゃん、真堂」
「言うな…箱は届けてくれたか…?」
こくりと頷き横たわる如月の手を取り脈を確認する。
「かなり衰弱してるな…少し待ってろよ、んで、何事なのこれは」
「あの二人はアルカトラズから送り込まれた刺客だ、元々俺一人でカタを付けるつもりだったが…すまない…」
『アルカトラズ』という単語を聞き表情が険しくなる雷火。
「なるほど…そんでかつての部下に情でも湧いたって所ね。」
「お喋りそこまでや、どんどんどんどん邪魔が増えてええ加減イライラしてきたわ。仲良くおねんねしぃや」
ペンデュラムを回転させ臨戦態勢の武蔵を思いっきり無視して雷火が口を開く
「そうそう飛鳥、一つ愉快な話をしようか」
「あん?」
「オレここまで来るのにマナほとんど使っちゃってて戦えるほどマナ残ってないんだ☆」
ペンデュラムを華麗に避けながらとびきりの笑顔で告げる
「……てめェ何しに来たんだよ!!ぶっ飛ばすぞ!!?」
あははははと笑いジャンプで飛鳥の隣に着地する
「だから、ある程度マナを回復させるまでメインは飛鳥で頼むよ。」
「どーいうことだ」
「今の飛鳥じゃ1対1に持ち込んでもきついでしょ、オレもマナ無いしね。ならやることは一つ、チーム戦だ。」
おいおい、こいつと組めってのか?構いやしねェが即席のコンビでどうにかなるのか?
「分かった。どうすりゃいい」
「飛鳥は好きに動け、俺が合わせる。」
「へっ、じゃぁ好きにやらせてもらうわ…遅れんなよ!」
互いに力を合わせ大和、武蔵に立ち向かう。
「オラァ!!」
風月のリーチを生かし間合いのギリギリから大和を切りつけるがいつもの鋭さがない、蓄積されたダメージが激しく、実は立っているのがやっと。
軽々と攻撃をいなしカウンターを狙う大和。
だが飛鳥をカバーし雷火がそれを食い止める。 
「即席にしてはよくやる…だが。」
「ワイもおんねや!」
「避けろ雷火!それは食らうな!!」
隙をつき掌を雷火の胸に当てると絶望の一撃を放つ。
雷火は衝撃で後ずさる。
ニヤリと嘲笑する武蔵。
「ふふ…」
攻撃を受けたはずの雷火もニヤリ。
直後掌底を放った腕を掴んだ。
「な、なに!?」
腕を引き寄せ顔を近ずけるとなにやら耳打ちをする
「答えろ…クロノスは何処にいる…?」
「お、お前。なぜその名を…!」
「答えろ」
「知ってても教えるわけないやろ…ボケェ!」
掴まれた腕のまま衝撃波を放とうとする、すかさず腕をはなし距離をとる。
「あっそ、生きてる内に教えて欲しかったんだけどね…飛鳥、メイン交代だ。俺が二人を抑える、そのあいだに何とかしてくれ?」 
は?なんとかってなんだよ!大雑把すぎんだろ!
「あまり俺達を舐めないことだな…!行くぞ武蔵!…武蔵!?」
何故か武蔵は息を切らし膝をつく。
「くそ…やられたわ…」
「何が起きた…まさか…!」
「そのまさか、あんたのマナを少し拝借させてもらったよ」
「マナを吸収したというのか…理論上不可能ではないとはいえ実際に出来るやつがいるとは…」
相手の能力をマナに変換して吸収する行為なのだが普通にできる行為ではない。類希なるマナコントロールの才能が無ければまず不可能。さらにある条件下でのみ可能なのだ。
「マナも回復したしこっちもマジでいくよ。」
バリバリと雷火を纏う稲妻は黄緑色に変化する。
飛鳥との模擬戦の時に見せたものと同じ。
「あれはあの時の…」
「あれは雷火独自の肉体強化術、『ライトニングギア』」
壁に持たれながら真堂は説明する。
「マナをエネルギーに能力の力を格段にあげる事が可能だ、獣人化した大和と張り合える程の身体能力になる。」
模擬戦の時にその力を身をもって体験した飛鳥はその凄さがわかっている。それでも大和の肉体強化は圧倒的なものだ。
「こうなりゃとっておきをくれてやるで…大和!!」
そう叫ぶと武蔵はありったけのマナを使い衝撃波の塊を大和に放った。
普通なら大和に衝撃波がヒットしてしまうが、獣人化した大和の手に能力が合わさった。
マナをクッションにし他の能力を利用したのだ。
「貴様とてこれを受けきれはしない…!くたばれ!!」
大和は地面を蹴り雷火の懐に飛び込んだ。
雷火からは強烈な雷が爆散し大和を貫く。
しかし大和は引かずそのまま最後の一撃を放つ。
鋭利な爪は雷火の胸元を切り裂き豪砲貫く雷は大和の腕を焼き焦がす。
能力の打ち合いは互角、大和雷火共に身動きが取れない。
「やはり貴様は只者ではないな…だが何度も言うがこれはチーム戦だ…やれ!武蔵ぃ!」
口から血を吐く雷火だが一向に引くことが出来ない、大和の爪が胸を貫き掴まれている。そんな状況で武蔵は躊躇いつつ大和ごと衝撃波を放つ。
「あァ…これはチーム戦だ…!」
雷火の背後より声がした。
ニィ、と口元を緩め雷火は衝撃波をわざと受けその衝撃で爪が抜ける。
「まさか雷火が囮だと…いうのか…」
「てめェらの悪行、この俺が断ち切る。行くぞ風月…!」
「引くぞ武蔵!!」
しかし武蔵はマナを使い過ぎてまともに動けない、大和は武蔵を抱え逃げようとするが。
「にーがさない。ってね…」
倒れながら電撃を使い二人を痺れさせる。
「破天無心流…封魔一閃ッ!!!」
神速の斬撃が二人をまとめて捉える。
ついに決着したのだった。
「即席にしてはいいコンビだったんじゃない…?相棒」
「誰が相棒だ…まァ、悪かなかった。」
二人はニヤリと笑うとハイタッチを交わす。
「やりおった…あの二人を…倒すとは…」
真堂の声に如月は目を覚ます。
「んっ…んん…ここは…!団長!ご無事で?」
「起きたか。お前のおかげだ。」
「はっ…師匠たちは…?」
真堂が指さす所には血まみれで倒れる二人の姿が。
とぼとぼと歩み寄り跪き大和の手を取る。
「死んじゃいねェよ、急所は外したからな…」
如月の隣でそう呟く飛鳥。
「私ね…子供の頃に家族を失って…ずっと一人だった…私を拾ってくれた団長や、師匠として私に尽くしてくれた大和師匠…みんなと出会って…私にとってかけがえのない家族になってた…それなのに…」
「…すまなかったな…如月、飛鳥…俺は騎士でいる時間が長すぎた…成さねばならぬ使命が、お前達と共に過ごすことで揺らいでいた…本来お前達とは的で居なければならなかった筈なのに…お前達と過ごす温もりが忘れられなかった…」
今にも途切れそうな声で二人を見る大和。
「俺はお前の師匠で…お前達の家族でいれて…嬉しかった…」
「私も…あなたの弟子になれてよかった…」
大粒の涙を流し笑顔を向ける。
「ほんま…こんな傷受けてても死にきれんとは…世知辛いのぅ…」
大和と武蔵の処遇は反逆罪として捕らえ牢獄でその罪を償うことになる。
「それがお前らの罪だ。楽に死ねると思うな馬鹿ども…せいぜい生きて更生しやがれ」
笑いながら飛鳥は言葉を投げる。
暫くすると真堂を応急処置し終えた雷火がやってくる
「おう、怪我はいいのか」
「今にもぶっ倒れそうさ、でも聞きたいことがあるからさ」
二人に視線を送ると察したかのように大和たちは話し出す。
「…俺達はアルカトラズと言う政府直属の組織に飼われている、そしてアルカトラズの統率者でありながら政府を裏から支配する男がいる。」
「裏?前から気になってたんだが政府ってのは何をやらかしてんだ?」
「世界政府直属の組織、というのは名ばかり…アルカトラズの真の目的は…」
「人工的に作られた能力者集団によるちからの支配、そして新人類への革新。」
大和の説明を遮りそう告げたのは雷火。
「なんや。詳しいのがおるやんけ。」
ムッと飛鳥は雷火を睨む。
「雷火…この際ハッキリしろ、お前は何ものだ、俺達の敵なのか、味方なのか。」
長い沈黙の後雷火は語る。
「オレは、政府が研究してる人工能力者、通称『プロトサイレス』の被験体だったのさ…」
「お前が…あの恐ろしい実験のモルモット…だと…」
大和は驚きを隠せずにいる。
「なんだよ…そのプロトサイレスってのは…」
「たしかロシアのアルマって子もサイレスを使うって…」
飛鳥と如月はイマイチ理解ができていない。
「まずサイレスって言うのは数億人に一人の割合で希に発言する特殊な能力の事だ、いろんな特徴があるけど中でも異色なのは、能力でありながらマナを必要としないことだ。」
マナを使わず能力を使う?そんな事が…
「そのサイレスの研究を始めた政府は、人工的にサイレスを発現させる実験に出たのさ。だがそんな実験がまともなはずも無く、被験体の数々は命を落とした、実験の結果、サイレスを発言させる条件として、10歳未満の子供に絞られた。そしてその時に被験体として連れてこられたのがオレだ。」
「しかしサイレスの実験は思わぬ形で幕を閉じた…被験体の暴走により研究施設は壊滅状態になったという。」
大和は言う。
「まさかそれが雷火?」
「いや、オレじゃない。研究施設を壊滅させ研究そのものを終わらせた奴こあの『慟哭』アルマだ。」
「な、なんでアルマがでてくるんだ」
「知らない。でもオリジナルサイレスを持つアルマには何か思うものがあったのかもしれない。だからオレはその研究を始めた男、クロノスを捜してるんだ。」
知られざる雷火の過去に皆言葉が出てこない。
「虫のいい話かもしれん…だがお前達に頼みたい…アルカトラズを倒してくれ…今の政府は狂っている…」
大和の頼みは心に迫っていた。話しを聞いて心境の変化が飛鳥を襲う。
敵が巨大すぎてイマイチ実感湧かねぇけど、やれることをやるまでだ。
「その通り…狂っていなければ世界を変えようなどとは思わない…」
突如聞き覚えのない声が部屋に響く。
「!!!団長伏せろォォォ!!!」
大和はいきなり走り出し真堂を庇うように倒れる
その瞬間大和の胸に風穴が開く。
「な!?」
全員何が起きているのか分からない。
「少しお喋りがすぎたな、春日大和。」
言葉の主を見ると雷火の表情が一変する。
「ク、クロノス…!!」
奴こそ政府を操る黒幕、クロノス。藍色の長髪を揺らし宙を浮いている。
「えらいこっちゃ…あんさんが直々にお出ましとは、珍しいやんけ…」
立ち上がる武蔵。
「師匠ォ!!!」
大和にの元に駆けつけるが心臓ごと無くなっており既に息はなかった…
「どうして…何故こんなことを!!」
「裏切り者を始末したまでだ。そう悲しむことは無いさ、ここにいる全員、みな彼の元におくってやる。」
雷光と共に怒涛の勢いでクロノスに迫る雷火だが軽々と止められる。
「お前だけは…殺す!」
「久しぶりだね、レイシス…今は雷火だっけ。」
知り合いなのか。あの二人は…? 
「でも今の君とやっても面白くないなぁ…力を取り戻してからおいでよ。」
能力を使っているはずの雷火を完璧に捉え手刀で腹部を一突きする。
「…お前…だけは…がはっ…」
遠心力を失いそのまま落下する。
雷火があんなあっさり…やべえぞこりゃ…さっきの戦いで体力もマナも厳戒だ…そもそも全快してたとしてもかてる相手じゃねぇ…万事休すか…!
「師匠の敵!!」
馬鹿野郎が!冷静さを失い如月が突っ込んでしまう。
しかし途中武蔵に肩を押され入れ替わる。
「どあほうが。冷静さを失うなっていつも大和が言うとったやろが、これじゃあいつも浮かばれんわ…お前の相手はワイや…」
「どうせ皆死ぬ運命、順序は問わないよ。」
「そろそろあんさんらに飼われるのも疲れてたところや。」
「武蔵さん!!」
「元気でやりや。」
それが武蔵の最後の言葉だった。
攻撃を受けた武蔵の体はシワシワになりチリとなって消えた
何やってんだ俺は…仲間が倒れていく中…何突っ立ってんだよ…やるしかねえだろ!神宮飛鳥!!!
「…出来るか出来ないかじゃねェ…やるしかねえだろ!男なら!!」
風月を抜き剣閃を放つ、が、そこに居たはずのクロノスはいつの間に背後にいた。
早い…ってレベルじゃねえ…こりゃまるで瞬間移動だ…
「うおおおおおお!!!」
もはや打つ術なくがむしゃらに刀を振るう。
「力無きものの哀れな姿、滑稽だ。消えろ。」
諦めねぇ…たとえ死んでも、諦めてたまるかあああああァ!!
心に呼応し闘気が溢れる。しかしいつもの闘気とひとつ違う。マナと闘気が混じり合い飛鳥を新たな次元へと誘う。
これは…なんだ…?
「これは…まさか…!?」
クロノスの能力を風月が切り裂き斬撃がクロノスの指先に届いた。
ほんの少しだけだが指から血がでる。
「これは驚いた…今のはまるであの男のようだ…ハッハッハッハ…君は今のうちに消さねばならんようだ…」
無我夢中で自分が何をしたか分からないが、奇跡は二度も起こりはしない、こんどこそ年貢の納め時が…
飛鳥が死を覚悟した時、再び奇跡は起こった。
「若い芽を積むものではないな…」
ズシン、ズシンと足音、歩くたびに大気が揺れる、まるで大気がその男に怯えるかのように。
強烈な闘気を放つ男が近づいてくる。近くに来るたび生きた心地がしない…恐怖という感情が俺を襲う。
「な、なぜお前が…」
クロノスは汗を垂らし動揺している。
「ここは引け、望むならワシが相手をしてやろう。」
強大なマナを放ち威嚇する
闘気とマナの量が桁外れている…化け物か…
「ふは…いいや辞めておこう…お前とやるのはこちらも相応の覚悟が必要だ…あんたの顔を立ててやるよ…」
多少悔しそうにしながらクロノスは消えた。
「ふっ…かつては神槍と呼ばれたお前がなんてザマだ、真堂よ。」
「…昔の話です…よくぞ来てくれました…」
二人の会話を聞く余裕はなく、急に脱力感が襲いそのまま意識を失ってしまった。
はたしてこの男は何者なのか。
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