インカイゼル戦記

虎丸リウ

第6話 異変

6話

Common Story


希望に満ち活気溢れる日本、しかし天気は曇天に見舞われていた。
本部の食堂では如月と天馬がそんな淀んだ天気を眺め朝食を摂っていた。

「うっ…如月さん、人参いりませんか?」

本日の朝食は焼き魚に筑前煮、味噌汁と白米で健康的な和食、天馬は筑前煮の人参だけをよけて食べている

「好き嫌いしないで食べなさい、背伸びないわよ?」

如月に諭され渋々人参を口に運ぶ。

「ちぇー…」

「飛鳥と神崎が居なくなって1週間近くたったわね、神崎はともかく飛鳥まで急にいなくなってこっちは忙しくてしょうがないわ…」

「神宮さん、ここのとこいい所ないですからね、どこで何やってるんだか」

「あ、そう言えば大和隊長と武蔵さん見なかった?」

「今日はまだ見てないですね、団長の所にいるかもしれません、いってみましょう、僕も団長に用があるので」

二人は揃って司令部に向かう、悲劇の始まりともいざ知れず…

二人が司令部で目にした光景は夢でも見ているかと思う程だった。
真堂は大和、武蔵に囲まれ血まみれで床に突っ伏していた。

「こ、これは一体…どういう事…?」

「しまった…来るなぁ!」

 真堂の決死の叫びは目の前に広がる光景を理解出来ずにいる二人には届かない。

「どう見ても先輩達が団長を襲っているようにしか…」

「見えんよなぁ…その通りだ」

大和は剣を如月達に突き立てる。

「団長殿は政府に反する罪人として我らが葬る。お前達も騎士としての役目を果たせ。」

いつも優しかった大和の面影はなくそこにはただ真堂に刃を突き立て殺意に満ち溢れた狂人。

「罪人って…説明してください!団長がいったい何を!?」

「団長はんはなぁ。三年前に政府転覆を謀ったフェンリルと接点があった事が分かったんや。」

いつもは真堂がずっしりと身を置く司令部のテーブルには武蔵があぐらをかきこちらに宣告する。

「そ、そんな…それが本当だとしても…」

突然の真実に未だ戸惑う如月。

「お前らも騎士の端くれなら、黙っときや。ワイらもお前らを殺したくはないねんなぁ。」

武蔵は大和の方に頷き何かを促し、大和は剣を振り下ろす、しかしその剣は金属音と共に弾かれた。

「…なんの真似だ…?天馬よ…」

大和の剣は天馬の投げた短刀で弾かれたのであった。
天馬は震えながらも大和に刃を向ける、その額からは汗が滴る。

「例えそれが真実で団長が罪人だとしても…法で裁かずにここで抹殺する必要が何処にあるんですか…!僕には…そちらの都合が悪いから殺す、と言う風にしか見えません…こんなの、あなた達らしくない!」

天馬は震えながらもか細い声を張り上げ二人に意見する。

「ほんま…感のええガキは嫌いやで…」

「俺達らしくない…か、そうだな…少なくともここにいるのはお前達の知る春日大和と嵐山武蔵では無いな…」

どういう意味なのか天馬たちにはまだ理解出来なかった、しかしそれはすぐに明かされた。

「ワイらはな、元々騎士じゃないねんな。」

「騎士じゃない…?」

如月は未だに納得ができずにいる。

「俺達は世界政府の秘密工作部隊、『アルカトラズ』のメンバーだ。」

聞き覚えのない名前に二人は首を傾げる。

「そして俺の本当の役職は、イージス、7th」

「同じく8thや、よろしゅうな。」

「な、なんだって…!」

今まで共に過ごしてきた仲間が敵であり、それもイージスの実力を持つ、いきなり過ぎて何もかもが分からなくなっている。

「今ならまだ、俺達に刃を向けた事は無かったことにしてやる、武器をおろせ天馬…俺も無駄な争いはしたくない。」

しかし天馬は覚悟を決め武器を構え続ける。

「愚かな…実力の違いも分からんか…」

「確かに僕じゃあなた達には適わないかもしれない…それでも、僕が忠誠を誓ったのは世界政府なんかじゃない…!真堂騎士団長だ!その人を傷つけるというのなら…例え仲間だったとしても容赦はしない!」

「カッコいいなぁ天馬、せやけど…邪魔するならこっちも容赦なくいくで。」

武蔵は足元の椅子を蹴り上げ天馬に投げるとそれに身を隠し詰め寄る、椅子を避けさせ行動を読み天馬が投げた短刀をのど元目掛けて投げる。

ガキィンと鈍い音がする

「なんや…お前もかいな…如月」

先程まで真実に動揺し震えていた如月とは一変し、その瞳には覚悟を決めたとも思える強い意思を感じる。

「私には何が正しいのかは分からない…だけどこんなやり方は間違ってる!今の私に出来るのは私達の大将を守ること…!騎士でありながらその団長に刃を向けた罪で、あなた達を捕らえます!」

「…クックック…それでいい…ゆくぞ武蔵、俺達悪党を貴様らの正義で止めて見せろ…!!」


しかし現実は厳しくすぐに力の差は現れた。

「どーした?もう息があがっとるで?もっとはよう動きや『疾風』くん!」

クソっ…!この人達今まで本当の力を隠して…僕なんかじゃ…

「くっそおおお!」

懐に忍ばせていた無数のナイフを投げ風を利用し攻撃するが武蔵の使う武器、ペンデュラムに全てを撃ち落とされる。

「お前らの戦い方はよーくしっとるわ、諦めや」

ペンデュラムが天馬の腕を捉えるとそのまま引き寄せられ掌底をモロに喰らう。

「うぐっ…はぁ…!」

「終わりや。」

吹き飛ぶ天馬に更に掌底を追撃し窓を突き破り8階の司令部から外へと落下した。


なにも…何も出来ない…ちくしょう…

遠のく意識、守る意志は呆気なく敗れ去った。
地面に叩きつけられ朦朧とする意識の中外にいた兵士たちがわらわらとあつまる、兵士たちは訳が分からず天馬を介抱し敵襲に気づき統率を取る、しかし、今司令部に行けば皆同じ目にあう、そう思った天馬は兵士たちを止める。その兵士の中に一人見慣れた人物がいた。

「おい、何があった…」

聞き覚えのある声、僕にとってはとても嫌いな声…それでもこの声の主はいまの僕には唯一の希望だった。

「お願いします…団長を…皆を守って…下さい…僕じゃ…何も出来なかった…お願い…します…飛鳥…さん…」

「らしくねェな…てめェが俺に頼み事するタマか、おい!ぼさっとしてねェで天馬を医務室に運べ!」

兵士たちに天馬を預けた声の主は、神宮飛鳥、修行を終えタイミングよく戻ってきたところであった。
事態を飲み込めてはいないが天馬の願いを聞き届け真堂の元へと向かう。

「ああ、そうだ、それからE市に飛んでる二番隊隊長を呼んでこい!」

足を止め一人の兵士にそう言うと再び走り出した。

「ええ?りょ、了解であります!」

この男、勝男、以前きたばかりの雷火に喧嘩を売り返り討ちにあいすっかり更生していたのだった。

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