インカイゼル戦記

虎丸リウ

第3話 模擬戦

第3話


イギリスから来たと言う謎の青年神崎雷火、日本最強と呼ばれる剣士、神宮飛鳥。
強さを求め互いにぶつかり合う、騎士として、一人の男として。己の誇りのため。

ここは本部の地下修練場、ある程度の衝撃に耐えられる構造をしており模擬戦を行うには最適な場所と言える。

「ルールは膝をついた方の負け、模擬戦だか使うのは真剣、命の取り合いだ、でないと意味が無いしな、ある程度の傷なら如月が居るから問題ねぇだろ」
如月の能力を使えばある程度の傷は治癒できる、助からない傷を負うならそれまでの相手だということになる、もっともそんなやつには見えない。
「そうだね、その方が楽しそうだ」
殺し合いを楽しそうなどと言う図太さ、つくづく面白い。
腰の刀を抜き戦闘態勢に入る。

「さぁ、いくぜぇぇぇ!!!」

正面から馬鹿正直に突っ込み反応を伺いながら全力で斬りつける、雷火の刀とかち合い火花を散らす。
間髪入れずに連撃を叩き込んでいき翻弄される雷火。



ぐっ…なんてパワーだよ、しかも技もある、伊達に最強の剣士と言われているだけはある、でもまだマナを使いこなせていない。

『マナ』それは人間に生まれた時から宿るエネルギー、能力者はマナを消費し能力を使うことが出来るが無能力者でもマナを活用し肉体を強化することが出来る、オレの様な見た目で一見パワーに自信がなさそうに見えてもマナを最大限活用すれば通常の何倍にもなる筋力を一時的に得ることが出来る。
その程度のパワーなら俺にもある!
「まだまだ!!!」
飛鳥の一撃を弾き返し足蹴りを入れ距離をとる雷火。互いの力を遺憾無く発揮しながら打ち合いを重ねる。
両者互角と思える戦いだが先に異変が起きたのは雷火だった。

神宮の一撃を受けるたびに精神がすり減るような気分だ、能力ではない、これは…!

「飛鳥の斬撃をああ何度も受けていれば知らず知らずに体力や気力が奪われていく、奴の鬪気のなせる技だ」
大和は腕を組み戦いを鑑賞しながら呟く

鬪気、己の気力や闘志、精神力を体現したものの総称である、しかし鬪気を戦いに利用するのはかなりの訓練が必要である。
大きな鬪気を扱える飛鳥と対峙するだけで波の人間はそのプレッシャーから通常の倍の疲労を感じてしまうのだ。

「鬪気を使う騎士も少なくはないがあそこまで使いこなしているのはそう居ない、ただ一人を除いてな。」

大和の言葉を遮るように武蔵が続ける

「かつての世界の四強、無敵の男『鬼神』ガルディオン、無能力者ながら他の四強を寄せ付けん程の強さを誇ったと言われとる、伝説の男や。」


そう、無能力者である俺は同じく無能力者であるガルディオンの戦い方を見様見真似で参考にした、あくまで参考にしただけ、ガルディオンとは根本的に戦闘スタイルが違う。
何度も斬撃を打ち込むが雷火の体勢はなかなか崩れない、僅かな隙を突き切りかかろうとした。
どこかで感じた威圧感が俺を襲った。

「鬪気を使えるのは君だけじゃないよ。」

己の目を疑った、俺と同じく、いや、俺よりも遥かに洗練された鬪気を雷火は扱っていた、鬪気を使う騎士は珍しくない、だがこの感じはあの『鬼神』ガルディオンの鬪気の使い方に酷使していた。

「さぁどうする?背中の刀は使わないの?」

「へっ…抜かせてみろよ…!」

雷火から感じる違和感。驚異的な鬪気に対してやつから感じとれるマナが明らかに少ない。
剣を交えた限り戦いにもかなり慣れている、強者の威圧感は確かに存在するのに力が比例していない…手を抜いている…と言えばそれまでだが。

「お前もなんか隠してんだろーが、何のつもりだ?」

「悪い、君に使うべきか確かめてたんだ、君ならこれをどうするかな…!」

「神崎さんの周りに蒼白い閃光が…まさか能力者!?」
天馬が食いつくように見入りながら春日の顔を覗く。
「雷の能力か…これは珍しい」

やはり能力者だったか…こりゃいよいよやべえ、まじでこいつを抜かなきゃやられちまう…
そう思いつつも先程感じた違和感は消えない。



飛鳥の鬪気の使い方をオレは知っている、これが偶然?いや、オレたちは出会うべきして出会ったのかもしれない…それなら強くなった君と戦えば…。
だから今はまだ、負けられない。
君がオレの好敵手になれる男なら、この局面を変えて見せろ!

「雷の力を使った光速戦闘、見切れるか!」

刹那、雷鳴と共に飛鳥の身体が宙を舞う。

「ぐ…、は…速ぇ…」

縦横無尽に移動し飛鳥を攻撃していく。
稲光が如き怒涛の攻撃になす術なく翻弄される飛鳥、もはや勝負ありかと誰もが思っただろう、しかし雷火だけは違った。
さっきまではスピードに手も足も出なかったのに、明らかに攻撃を見切り始めている、まさかこいつ、戦いの中で成長している…?それも恐ろしい早さで。

「見えたぜ…!」

スバンッ!!!
空を断つ鋭い斬撃が雷火を襲うがすぐさま距離を取る、飛鳥の手には背中から抜かれた長刀。
避けきれないと判断し受け止める、しかし防いだはずの斬撃は何故か雷火の胸元を切り裂き鮮血が迸る。

これが同一人物かよ…武器一つ変わるだけでここまで変わるのか、防いだはずなのに刀に纏ったマナで斬られた。
あの刀からもやばい匂いがするが…飛鳥の潜在能力の高さは底知れない…

「どうした、まだ本気じゃねェだろ。」
「まぁね、でも長いの抜かせたよ、すごい刀だ」
「口の減らねぇ野郎だ」
「これ以上はほんとに殺し合いになりそうだ、止めるなら今のうちだよ」
お互い息を切らし余裕がなくなってきている。
「負けるのが怖ェのか、こいよ!全力を見せてみろ!!」
「負けず嫌いだねぇ…お互い様か…!」
雷火に纏う雷光の色が黄緑色に変わり始めた途端マナが溢れ鬪気が露わになる、空気がざわめき大地が呼応するかのように振動する。



何だこの力は!
今まで対峙したことのない強大なマナに戸惑う飛鳥。

「残念だけど、今は俺のが強い、その身にこの敗北を刻みこんでやるよ…!」

「こい!見極めてやる!」

などとほざいたのは後悔した。
その瞬間何が起こったのかわからなかった、ただ背後には雷火が納刀し立っている、気づけば俺は膝をつき倒れていた。

負けた

「騎士になって初めて負けたぜ…とんでもねェ奴がきたもんだな」

久しぶりに負けた、悔しい筈が今の俺はスッキリしていた。如月が駆け寄りすぐに治療をしてくれる。

「オレも久々に熱くなったよ、立てるかい?」

手を差しのべる雷火に飛鳥は顔を歪め。

「敗者に情けをかけるな、剣士の恥だ。とっとと行け、今は悔しくてお前の顔見たかねぇんだ」

やれやれという感じで雷火は歩いていく

「あぁ!まって!後で医務室にきてよね!貴方も怪我してるんだからー!」
如月が叫び雷火は後ろ手に手を振る。

すぐに取り囲むように春日達がやって来る

「いいものを見せてもらった、課題が見つかったか?」
「まさか神宮さんが負けるとは思いませんでしたよ、いい気味です」
「せやけど神崎の奴、ごっついやっちゃ、あんな強い奴滅多におらんで」
「分かったから少し一人にしてくれ」
もはや周りの声は耳に入ってこなかった、敗北、それよりもあいつに感じた違和感は何だったのか、それだけが気になっている、確かに最後明らかに本気だったはずだ、なのに奴にはまだ何かを感じた。何かを隠している…?

「あー、こりゃ相当ショックみたいやなぁ、そっとしとき、楠にまかすわ」

武蔵は俺をいじり倒したくて堪らなさそうな天馬をつれ春日と離れていった。

「とりあえず傷は癒えたわよ、心の傷までは直せないけどね」

「別に気にしちゃいねェよ、ただ考え事してただけだ」

「だけどあんたがそれ使って負けるなんてね、ビックリしちゃった」
長刀を指差しつぶやく
「まァな、俺もまだこいつを…風月を使いこなせてねェからな…」

風月、それがこの長刀の名前、100年前に世界に名を轟かせた刀匠、天龍一が最後に打った最高の刀で破天無心流の当主に代々受け継がれている、しかしこいつは意志を持つ刀と言われ刀が認めない人間は風月の心の力を引き出せない上大きすぎる力に負けその身を滅ぼした歴代当主も少なくはない。故に妖刀とされている。
「神崎の最後のアレ、何だったんだろう。マナが爆発したみたいな感覚だったけど…」

「いずれ聞きゃァいい、俺にも暫く目標が出来た、あいつを絶対ぶった斬る」

「なに物騒な事言ってんのよ…」

「冗談だ、あいつを超える程の男になるさ」

「まぁ…応援してあげないこともないかな…?頑張りなよ!」
少し気恥しそうに如月は言う

「おう」

それを見てこっちも釣られてしまう。
かくして雷火との初戦闘は黒星に終わったのだった。



いってぇ…急所に入ってたらやばかったなぁ…
如月の治療を受け終わり気づけば時刻は夜になっていた。本部の建物の屋根に上がりの転がって空を眺める、風が心地よく月明かりが美しい。お気に入りの場所になりそうだ。

「彼の力じゃまだ…この先戦っていくにはやはり中国が鍵になりそうだな…」

彼にはもっと強くなってもらわなければならない、世界のためにも、オレのためにも…






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