異世界モノ【削除予定】

月付豆吃

鑑定:極・改とは

残り四本の鑑定も済ませた光瑠は、十分じゅっぷんにも満たない中での集中に疲れたため、体をほぐす。

屈伸や背伸びなどなど準備体操モドキをし、そうしてようやく目の前の状況を見遣った。

目を見開き、一切瞬きをしない、石像のように固まった一人の男。

何やかんやと自己紹介はしてないので確実とは言えないものの、光瑠の中では店主と呼んでいる彼が、ある時からまったく動かなくなったのだ。

理由は光瑠には分からなかった。最初は鑑定出来ていることに驚いているのかとも思ったが、それなら光瑠が名前を読み上げた時に固まらなければおかしいはず。

なので固まったのには別の理由が有ると考えているのだが、光瑠にはそれがなんなのか不明なのだった。

とはいえ、このままでは短剣に関する話を進められない。なので光瑠は面倒だとは感じながらも、店主の意識を呼び戻すことにした。

「おーい、大丈夫ですかーっ」

大きく声を掛けても駄目。

「おーい、なにいきなり固まってんすかー」

肩を掴み、揺らしながらでも駄目。

「はぁ、参った、めんどくせぇわ」

愚痴っても仕方ないとはいえ出てしまう。

「もう最終手段取るか」

一足飛びで最終手段を仕掛けようと、光瑠は上半身を右に捻じ曲げる。

そして右手を握り拳にし、そのまま捻じを戻す勢いで、拳を横から前に向けて振り抜く。その途中にある男の顔面(頬)を撃ち抜きながらに。

「――――ぐほぁッ!?」

手加減しているとはいえ、前方斜め前の軌道を描き、勢い良く発射されたグーパンは強烈であり、撃ち抜かれた店主は突然の衝撃に後方へと倒れる。

苦悶の声を洩らした店主は、それでようやく目が覚めたのか、頬を擦り立ち上がる。

「てんめぇ……いってぇじゃねぇかボケぇ!!」

「いや、だっていきなり固まんだもん、このままじゃ話出来そうに無いしさ」

「だからって殴ることはねぇだろ! くそっ、オレにも一発殴らせやがれ!」

そう言われてはい分かりましたと顔を差し出すのはマゾヒストぐらいだろう。

光瑠は当然Mでは無いので殴らせないを選ぶ。その代わりに話題を変えるついでに光瑠は問う。

「さっき、いきなり固まったけど、なんかあったわけ?」

決して光瑠は鑑定出来たことに固まったのではないと思っている。かといって光瑠とは無関係、とは当然考えられず、光瑠に関係する別のことに驚いた、と推測していた。

それが何なのかは定かではないにしろ、光瑠自身に関係ないことではないため、聞いたのだ。なぜ、と。

その問いに店主はハッとし、落ち着きなどどこいったのかと言わんばかりの形相で迫ってきた。

「お前、そのスキルは本当に鑑定か!?」

……これはどういうことだろうか。そんな疑問が光瑠の脳を駆ける。

この疑問の意味するところは、店主が光瑠の鑑定を怪しんだ理由に対してだった。

確かに光瑠は通常の鑑定とは違うものだと分かっている。ただそれがどうして店主にもバレたのか、それが分からなかったのだ。

「なんで……」

分かったのか。言いかけた言葉を飲み込む。これを言ってしまえば認めてしまうことになる。それは非常に危うい。

この店主から光瑠への評価は低くはないと光瑠は思っているし――でなければ初対面の人に国宝級や伝説級の武具を見せたりはしないだろう――光瑠自身この短時間である程度面白い人物だと好評を博している。

しかしだからといってスキルに関して話すのは難しい話である。

レイのように恩義、信頼、そしてなによりも勘がゴーサインを出したので教えたが、あれも一種の賭けみたいなものだったのだ。

流石にそんな賭けをもう一度行うほど、光瑠は蛮勇に飛んではいなかった。あっさりと死ぬならまだいい・・・・・・・・・・・・・、だが面倒ごとや副産物が困るのだ。

しかし沈黙は是なり、ではないが、ある程度光瑠の心情を把握したのか、先ほどよりも落ち着きを取り戻した様子で店主は提案した。

「……分かった。なら先にこっちが話してやる」

男はそう言うと、ズボンのポケットからタバコを取り出し、吸い始めながらに、なぜ普通ではない鑑定だと判断したのかを語った。

「……ふぅー……。オレの知り合いに、あるエクストラスキルを持ってるやつが居た。そいつの能力は〈魔眼・調しらべ〉っつうやつで、能力は全てのものを見ることが出来る能力だったんだ」

エクストラスキル。光瑠は二つ持っているため希少度は低そうに思えるが、その実は一億人に一人の確率でしか持たないとされる希少の中の希少なチカラ。

そのチカラは協力なものと言われており、その〈魔眼・調〉も例に漏れないものだった。

「そのエクストラスキルの能力は、こういった武器といったモノや道具だけじゃなく、魔物や人の過去、そしてステータスを見ることの出来る能力だったんだ」

「…………は?」

それはもはや、常識外れと呼ぶべきものだろう。光瑠は迷いなく断じる。

なにせ本来であれば見ることの叶わない他者のステータスを見ることが可能なのだ。それに加え過去である。

過去を見られるということは弱点や罪を握られることと同意義である。
それがどれほど危ういことか、考えずとも想像に容易かった。

「それでだな、エクストラスキルも通常のスキル同様発動時にはアクションが起きるわけだが、その魔眼の場合は瞳孔が大きく開き、緑色になることなんだよ」

なるほど、これで話が繋がった。

光瑠は先が読めたが敢えて口を挟まず聞きに徹した。

店主は懐かしむような表情でタバコをふかしながら、結論を述べた。

「んでだ、鑑定には瞳孔が大きく開くというアクションは有るが、色が変わるというアクションは無いはずなんだ」

それなのに、と続け、

「お前の眼は黒から赤に変化していた。だから思ったんだよ、お前の鑑定といっているそれは、本当は魔眼なんじゃねぇかってな」

そう締めると、店主は残り少なくなったタバコを一気に肺に入れ込み、ため息とともに煙を吐いたのだった。

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