異世界モノ【削除予定】

月付豆吃

冒険者ギルド登録

「ここがこのクレヒムの冒険者ギルドになるよ」

「へぇ……かなりデカいな」

光瑠の目の前には、想像していた以上の大きな建物。

目測縦十横八十ほどの建造物。奥行きは見えないが、この大きさに揃えてあるのだ。かなりあるだろう。

「じゃあ入ろうか」

扉を押し開け中に入る。初めてギルドへ入った光瑠を待ち受けたのは、それはもう騒々しいまでの喧噪だった。

テーブルを囲みゲラゲラと笑い、木製のジョッキを手に大騒ぎしている者が殆どだった。

ぎぃ、と古めかしい音をたてて開いた扉に視線を向けてくるものが居たが、入ってきたのがレイだと知ったからか、すぐに興味を無くし談笑に戻る。

なんというか、こういうとこは定番なんだな。

光瑠は目の前の光景をそう思い飲み込む。

「受付は……あそこが一番早いかな」

受付は現在五つ稼働しており――因みに受付カウンターは八つほど確認出来る――、そのうち人の並びが一番少ない列へと並ぶ。

そしてさほど待たずして順番が回ってくる。

「お疲れ様です、レイさん。達成報告ですか?」

訪ねてきたのは、若く美人な受付嬢だった。

ミディアムロングに伸ばしたカナリア色の髪をハーフアップにした髪型。前髪は左右に分けられ顔を確認出来る。

その容貌は光瑠よりは年上で、二十代半ば程だろう。三十路はいっていないはず。

「いや、残念ながら見つからなかったよ。ただその代わり新しい冒険者志望を見付けてきたよ」

「どうも」

レイの言葉に続けた光瑠は会釈する。

「なるほど。ソロのレイさんが連れているのでどちらの高貴な方かと思っていたんですがそういう事でしたか」

レイが連れている=高貴な方という発想をされるほどかと、レイの立場を邪推しかけるが、本人がそれを望んでいないようなので振り払う光瑠。

レイが対等を望み、それに出来る限り応えることが、助けてもらったことに対する恩義だろうという考えからだった。…………態度を装うというのが苦手というものあるにはあるが。

「では登録するにあたりまして血液の提供を求めています。手を出してください」

言われた通り手を出す光瑠。
指示した受付嬢はカウンター下から小さな小瓶と刃渡り五センチにも満たないナイフを取り出した。

「今からこのナイフで指を切って小瓶いっぱいに血を取ります。少し痛みが走りますが、冒険者になるのですしそこは我慢してください」

魔物と戦い、時には攻撃を受けることもある。そんな時はこれ以上の痛みが体に走るだろう。もしこの痛みに耐えれなければ冒険者になるのはやめたほうが良いに違いない。

そう考えるとこれはある意味冒険者という者に対する最初の関門だと言える。関門、と呼べるほどのことだとは光瑠は思えないが。

「では失礼します」

なにも言わない光瑠を見て大丈夫だろうと判断した受付嬢が片手にナイフ、そしてもう片方で光瑠の手を甲から握る。

女性の手ってなんでこんな柔らかいんだろうな。ふわふわしててこれだけで登録する役得だろ、などとヨコシマな思いを巡らせている間に人差し指の腹が切られる。溢れる血が小瓶を満たしていく。

「……はい。これぐらいで充分ですね」

受付嬢はそう言って、いつの間にか取り出していた小さな布切れで傷口を塞ぎ、小瓶の蓋を閉める。

「ではあとはこれを元にギルドカードを作るわけですが、出来上がるのに三日ほどお時間を頂くことになります」

「ほい」

「それで、お手数ですがこの紙に書かれた質問への回答や、事項を読んでの同意のサインをお願いします」

A 4サイズの紙と筆を渡された光瑠は右に避けて内容を読んでいく。
そこには道中にレイから聞いていた内容が多く、特に問題もなく答え、サインする。

全ての項目を読み終えた光瑠は並んでいた別の冒険者の対応をし終えた受付嬢へと紙を渡す。

受付嬢は次の冒険者に断りを入れ、光瑠からの紙を受け取り目を通す。

「……はい、問題無いですね。それでは詳しい説明はカードが発行されてからとしますので三日後……は時間的にギリギリなので四日後の朝七時以降に訪ねてくるようお願いします」

どうして朝七時以降なのか。これはレイから事前にギルドが朝七時から夜の十時までしか動いていないという話を聞いていたので了解の意を示す。

「それと出来る限りギルドカード受け取り時には私、テイミーをお尋ねください。人が変わりますと対応に時間がかかる場合がありますので」

自らをテイミーと名乗った受付嬢に「了解りょうかーい」と答え、光瑠はレイと一緒に冒険者ギルドを後にしたのだった。

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