異世界モノ【削除予定】

月付豆吃

異世界へ

「あ、ぶなかっ……た」

少年――――霧雨キリサメ光瑠ヒカルはその呟きを最後に、意識を手放したのだった。



「……ん……、こ、こは何処だ……?」

目を覚ました光瑠は仰向けに倒れた体を起こす。

周囲を見ると木々に囲まれており、森林の中の拓けた場所に寝ていたことが分かる。

「なんで、俺はこんなとこで……」

そうだ、と光瑠は思い出す。自身がトラックに轢かれてしまったことを。

なら、ここは……、と光瑠は鈍る頭を働かせる。

「くそ……」

小さく悪態をはき、立ち上がった光瑠は大きく深呼吸をする。

ここがどこかは分からない。しかしこの展開に光瑠は覚えがあった。異世界モノのライトノベルと似た展開だと。

死んで、別の世界に行く。大概は神様の介入や、他者の召喚、ないしは生まれ変わりなどが多いが、今回の自分のように突然転移してしまう場合も有った。

光瑠が思うに、このパターンが一番無いと思っていたが、まさか自分自身がそのパターンに当てはめられるとは思いもよらなかった。

いや、そもそもの前提に異世界に転移などという非現実的なものを味わうことになるとは思っていなかった。

とはいえ、と光瑠は思考を切り替える。

本来であれば死んでいたであろう身。それが生き返ったのか、転移で回復したのか定かではないが、こうして生きているのだ。感謝こそすれ、というやつである。

であればなにをすべきかは簡単。衣食住を確保する事だ。

「言うは易し……だよなぁ……」

言葉にすることは簡単なものの、それがどれほど難しい事か光瑠は理解していた。それこそ光瑠自身が思っているよりも格段に難しいことも、だ。

……ラノベみたいに悲鳴が聞こえて助けに、なんて展開でもあれば話は別なんだけどなぁ。

突然の転移モノでは魔物に襲われた貴女キジョを助けてトントン拍子に話が進んでいくが、リアルはそんなに甘くないだろうとその展開は諦めた光瑠。

「……この森で自給自足、いや、でもなにが食えてなにが駄目か分からんしな……」

死ぬ前までは平凡な高校生だった光瑠に、野生の植物に対する知識はなく、野営といった経験も無い。

変に自給自足をしようとして毒を食らえばお陀仏だろう。そんな死に方は避けたかった。いくら自分の命に対する価値観が低くとも、だ。

「……忘れてた」

ふと思い出す。異世界モノの定番というものを。

光瑠はそれを――頼む、あってくれと願いながらに――口にした。

「――――ステータス」

――――――――
名前:霧雨・光瑠
レベル:1
種族:人間種
職業:盗賊
魔力:1086/1086
エクストラスキル:〈強奪〉〈万物破壊〉
スキル:〈状態異常無効:極〉〈鑑定:極・改〉
称号:【解析不明】
――――――――

「おぉ……」

光瑠の口から漏れ出たのは喜色の声だった。

今現在光瑠の目の前に半透明に映し出されているのは、ステータスと呼ばれる、自身の能力を表したものだと推測出来る。異世界ものライトノベルでは王道となっているモノの一つだ。

そして光瑠が喜びを顕にしたのには理由がある。エクストラスキルだ。

多分意識を集中させれば、と光瑠は〈強奪〉に意識を向ける。

「見えた……なになに?」

『強奪:他者のモノを奪う能力。レベル、魔力量に応じて奪えるモノが増える。現在強奪可能レベルは最大3となる。』

詳細のように表示されたのはそのような内容だった。

そして思ったことは一つ。情報量が足りない、という事だった。

他者のモノを奪う能力、とあるがどこからどこまでが他者のモノとして判断されるのか、その辺りが曖昧なのだ。

もしこれが完全に道具といった物だけであれば、使い道が限られてくるが、流石にそれはないと思っている。もしそうであれば〝モノ〟ではなく〝物〟と表示すれば良いのだから。

「……まぁ要実験ってとこだな」

モノの定義にせよレベルに関してにせよ、結局は実際に使用するに限るので、そこはおいおい調べていくことにする。

次に〈万物破壊〉だ。名前からしてありとあらゆる物を破壊する力だと光瑠は推測しつつ詳細を表示する。

『万物破壊:存在する全てのモノを破壊する能力。魔力量に応じて破壊率が上昇する。』

予想通りの内容。ただし後半の破壊率というのが不確定な文言に思える。とはいえ弱くないのは確かなので問題無しと判断した光瑠は次に進む。

状態異常無効と鑑定だ。

どちらもおおよその見当は付くが、一応と詳細を見てみる。

『状態異常無効:状態異常に類するものを全て無効にする能力。無効レベルは最大となる。』
『鑑定:モノの詳細を見る能力。鑑定レベルは最大+となる。』

「これは……きた・・か……?」

光瑠の呟きは二つの推測が言わせていた。だがそれを今すぐに確認することは叶わない。

それよりもまずはどうにかなりそうな現状に光瑠は安堵の息をつく。

「さて……行動開始と行きますか」

こうして光瑠の異世界生活が始まった。

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