真の勇者は影に潜む

深谷シロ

十三:図書館でのパーティ申請

進級試験に合格し二年生になったのだが、大体の研究を一年生の時点で終わらせてしまった私はする事が無かった。どの分野の研究にも携わった為に必要な知識も無い。戦闘スタイルを変えるつもりも無いのでこのままだ。


────この学校にいる意味があるのだろうか。


飛び級出来ないかと考えたのだが、進級試験があった翌日なので学校側も対応が取れないようだ。暫く進級試験はお預けらしい。


という事で私は唯一この学校で行った頻度が少ない場所である図書館に訪れた。


この学校の図書館は本が揃っている。王都の王立図書館と変わらない量の冊数が揃っていた筈。教授などの研究資料を探す事にしたのだ。


今の時間は昼前。他の学生は講義があるか、研究をしているのだろう。私は講義を取っていないので出る必要は無いが、学校自体の制度として講義か研究どちらかを取る、と決められている。


進級試験を終わった翌日なので、今日は何かを言われる事は無い、とオーガリック教授が言っていた。


図書館の司書に研究資料が纏められている場所を聞いて、そこへ行った。この学校は教授があまり多くないが、研究資料は毎年発表される為か、幾つかの棚に分けられている。私としては戦闘に関する研究資料が欲しいのだが、司書はそこまで知らないようだ。自分で探すしかないのか。


適当に取り出していくよりは、端から順に見ていく方が早そうなのでそうしていた。作業に没頭していた為か人がいても気付かなかったのだろう。声を掛けられて初めて人が近くにいることに気付いた。


「ラウル・アヴルドシェイン。」


私の名前を知っている人は少ないので声だけで誰なのかは分かった。ルーナだ。


「何ですか?」


私は作業をする手を止めずに尋ねる。


「何をしているの?」


質問に質問で返されるとは思わなかったが、研究資料を棚から一つずつ取って読んでいる様子は、何をしているのか分からないのだろう。素直に答えた。


「良い研究資料が無いか探しています。」


「そう。」


いつの間にかルーナは私に対して敬語なしで話している。だからといって私が敬語を辞める訳では無いが、驚きである。そこまで知りあった仲であっただろうか。


まあ、三人しかいなかった一年生が進級試験の時に一人減れば、残ったのは私とルーナのみだ。気軽に話せる人がいないのだろう。私も気軽に話せる人などいない訳だが、そんな人を欲しいと思ったことも無い。孤独と孤高を履き違えているつもりは無いし、私は孤独で良い。


「少し頼み事をしてもいい?」


ルーナとの会話は終わった訳では無いようだ。仕方無く私は返事をする。


「内容によります。」


ルーナはそっと溜息を吐く。近くにいるので隠せてはいない。気にしてもいない。だが、内容によって対応を変えなければいけないのだ。こちらの事情も汲んで欲しい。


「……分かったわ。私とパーティを組んで欲しいの。」


詳しくは魔術学院の近くに存在しているダンジョンに潜る時のパーティだ。別に将来が何とか、という話では無いらしい。期間は特に決まっていないようだ。なるべく深い層まで行きたいから、実力のある私を誘ったようだ。


確かにダンジョンに潜れば、素材、魔石を手に入れる事が出来る。また、お金も手に入れることが出来るだろう。パーティは将来に関与しないが、素材、魔石、お金は将来に必要になる可能性のある物ばかりだ。これを手に入れられるダンジョンは私にとっても都合が良い。そして、講義や研究に出る必要が無いのだ。


「分かりました。いいですよ。」


私は提案に乗ることにした。ダンジョンに潜るのは明日からにするらしい。今日はダンジョンに潜る為に必要な許可証を発行しに行くらしい。これはダンジョンに入るためには絶対に必要な物らしい。本気を出せば、許可証無しでも侵入できるとは思うが、何か不法侵入対策の罠でも仕掛けているのだろうか。


私としては不法侵入対策の罠があるのかどうかの方が気になる。言っても教えてくれる訳が無いだろうが。実際に自分で罠に引っ掛かるのも面倒だし。


許可証の発行は教授に行ってもらうようだが、今は講義や研究があっているだろう。それ以外で私の知っている教授はオーガリック教授のみか。あの教授には迷惑ばかり掛けてる気がする。


「すみません、ダンジョンの立ち入り許可証を発行して頂けますか?」


「ああ、いいぞ。少し待ちなさい。」


どうやら特別な魔導具を使用するようで、時間が少し掛かるようだ。ルーナは別の教授に頼んでいるが、いつ知り合ったのだろう。いや、研究室にしかいなかった私が悪いのか。


「出来上がったぞ。ほら。」


オーガリック教授にダンジョンの立ち入り許可証を貰う。これ自体が魔導具のようだ。少し魔力が流れている。これで本人認証でもするのだろう。


「……おっと、ラウル君。君に警告しておこう。ダンジョンには最近、奇妙なモンスターが増えているようだ。気を付けるんだよ。あと、ルーナ君にも気を付けなさい。」


ダンジョンとルーナに対しての警告か。警告内容とは関係なく終われば良いが。無理な話なのだろう。


「終わりました。」


「私も終わった。じゃあ明日の朝にダンジョン前で待ってて。」


そう伝えるとルーナは立ち去った。僕は図書館へ戻る。研究資料を片付けて、少しダンジョンについての記事を漁るとしよう。

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