真の勇者は影に潜む
二:新たな旅立ち
「君には……勇者の仲間になってもらう。」
「勇者ですか……分かりました。」
「……相変わらずの即断だね。」
私は、女 ── <導く者>兼<与える者>の役目を担う神様 ── と話していた。
「私はあなたの使徒なので。」
「そんなに畏まる必要は無いんだけどな。それよりも仕事の話だ。」
「分かりました。」
「君には勇者の仲間となってもらうんだけど、君の行く世界では100年に1回、魔王が出てくるんだ。それを倒す為に勇者が召喚される。その勇者は、いずれボクが連れてくる。」
「そうなんですか……。」
「まあ、僕の仕事だからね。それは良いとして、その勇者召喚に備えて君には準備をしてもらいたいんだ。」
「準備、ですか。」
神が私に話した準備はこうだ。
まず、異世界転生して新たな人生を過ごす。勇者が召喚されるのは、15年後の話であり、まだまだ時間があるという事。
それまでに教育課程を終了させ、実力を付けておく。レベルなどを上昇させるのが好ましい。
勇者召喚の際に勇者パーティの一員となる為に召喚する国の上層部に関わっておく。だが、裏の仕事はしない。勇者パーティになれなくなるからだ。
その後、誕生した魔王を倒す為に勇者と共に冒険する。
魔王討伐終了が今回の仕事の達成項目となる。また、勇者の死は失敗となる。但し、この失敗は認められない。
と、いう事だ。
「分かりました。」
「君は頭が良いからね。理解してくれていると思う。だけど注意してね。元の世界と君が今から行く世界は全く違うんだ。似ていても違う。君の世界の人がいても違うんだ。それを覚えておいてね。」
神は心配性だ。使徒である私をとても心配する。だが、私はそれが少し嬉しい。是非とも期待に応えなくては。
「前置きもこれぐらいにしようか。何はともあれ、君の新たな門出を祝おう。」
そう神は告げた。そして、私の視界は暗転した。
◇◆◇◆◇
「大丈夫か、リリス。」
「え、ええ。」
リリスは妊娠している。そして、もうすぐ念願の第一子が生まれるのだ。頑張ってもらわなくては。
「大丈夫ですか、リリス様。」
「ありがとう、エスラ。」
「とんでもございません、リリス様。」
エスラはメイドだ。私の家に勤めている。とても頼りになるメイドである。
私の妻であるリリスとメイドのエスラは、互いに励ましあっていた。正直、男の私には出産と言っても実感が湧かない。
それに比べると、出産経験のあるエスラはリリスにとって、頼り甲斐のある存在だろう。エスラがいてくれて本当に良かった。
数分してリリスは出産した。可愛い男の子だ。この子はこの家の跡継ぎになるだろうか。
私としてはのびのびと生きていれば良いと思う。子供に何かを強いるつもりはない。必要なマナーやエチケットを教えるだけにしよう。
可愛い産声で泣く赤ちゃんは、リリスが抱いた。
目の色はリリスと同じく碧色だ。綺麗な目である。髪色は私と同じ黒髪混じりの茶髪のようだ。
それにしても可愛い。この子は私達の宝だな。
◇◆◇◆◇
私は暗い所から出た。そして、私は本能に逆らえずに泣いた。その声は赤ちゃんの如し。
まさか本当の赤ちゃんとは……。
だけど記憶は全く失われていない。さらにこちらの世界の言語が分かるようだ。これは好都合だ。言語を覚える手間が省ける。
幸い、私の父母は私に甘かったため、家の中での行動に何かを言われるようなことは無かった。
そして、私は4歳の誕生日を迎えた。
◇◆◇◆◇
「誕生日おめでとう!ラウル!」
今日は私の4歳の誕生日だ。私は今日まで自分の両親を驚かしてきた。
まず、歩けるようになるまで数ヶ月掛からなかったのだ。通常ならば、さらに時間が必要となる行為を私は歩く練習を何度もすることで、ハイハイやつかまり立ちなどの過程を飛ばして歩けるようになっていた。
さらに私は1歳半ほどで言葉を普通に話せるようになってきていた。それは喃語や1単語や2単語などでは無い。普通に会話が出来ていたのだ。
これはさらに両親を驚かせた。天童、とまで言ってくれたが、謙遜しておいた。さらに褒められる結果に終わったのだが。
そして、私はこの世界について学ぶ為に家に数万冊と置かれていた本を全て読破した。この内容は良い知識となった。
「ありがとうございます。」
私は素直に感謝を述べる。私は2回目の人生で新たな両親に少しばかり隔たりを感じていた。それは私の新しい両親からでは無く、自分から作った隔たりだ。
どうにも私は前の人生に執着しているようだ。未だに前の人生を振り返ってしまう。私が何かを考えたところで何かが変わるわけでも無いのに。
「それで明日は念願の<クリューラレス魔術学院>の入学試験だ。ラウルから大丈夫だと信じているが、無理はするなよ。」
私の父はそう言ってくれた。是非とも期待に応えたい。そして、家族にさえ、少し距離を置く私と普通に接してくれる父や母、メイドのエスラさんに恩を仇で返すつもりは無い。
「はい。父さんも仕事頑張って下さい。」
私の父の職は聖騎士だ。聖騎士長である。私はこちらでの生活も文武両道を貫いている。今日も朝から父と剣の鍛錬をした。
「あぁ、ありがとな。」
私はこちらの世界でも家族に恵まれた。嬉しい限りだ。さて、明日の入学試験の準備をするとしよう。
「それでは僕は明日の準備をしてきます。」
「おう。」
返事をしてくれたのは父だけだが、母やエスラさんも微笑んでいた。父と同じ気持ちなのだろう。
私は自分の部屋に戻った。
自室の扉を閉める前に私はそこで立ち止まった。そして、耳を澄ます。私とてこんな真似はしたくない。だが、家族が私の事をどう感じているかで私も対応を変えたいのだ。未だにそのタイミングを掴めずにいる。
「……明日の準備か。ラウルは俺とは違うよ。」
「そうですね……。本当に私たちの子供なのでしょうか。」
「リリス様。」
「……すみません。少し言い過ぎました。エスラありがとう。」
「いえ……。」
そう言うエスラもラウルに対して少し遠慮している場面がある。
ラウル様は空気を読むのが上手いのです。それこそ大人である私達よりも。そして、如何なることも楽にこなすことが出来ます。私とは大違いです。
ラウル様はいずれこの家 ── アヴルドシェイン家 ── を嘗てのように復興してくれる、そんな気がします。
私は全てを聞いていた。過度な期待をせず、見守ってくれる家族に改めて感謝したい。
次の日になって私は家を出発した。家はクリューラレス魔術学院から少し離れている。
この都市は大きく中央に広がる貴族街を囲むように形成されている。クリューラレス魔術学院は、その中央……貴族街の中央に位置している。この国一番で最も名高い場所だ。
クリューラレス魔術学院には、この国だけでなく、他の国々からも沢山の入学希望者が出てくる。この魔術学院は、実力主義の学風であり、貴族だからと言って優遇される訳ではない。
しかしながら貴族の多いこの国にある学院のため、意図せずとも学院内部には、そういうグループや派閥が出来てしまう。
私としてはそういう派閥争いなどに参加するつもりは元より無い。<導く者>の使徒として、最善の結果を出すつもりだ。
そうして私は今、ここ……クリューラレス魔術学院にいる。周りを見るだけでも貴族の乗ったと思われる馬車が多くある。さらに学院の中外には入学希望者と見られる人で溢れかえっている。その全員が越すべき目標であり、糧にすべき経験となるのだ。それだけは忘れてはならない。
「勇者ですか……分かりました。」
「……相変わらずの即断だね。」
私は、女 ── <導く者>兼<与える者>の役目を担う神様 ── と話していた。
「私はあなたの使徒なので。」
「そんなに畏まる必要は無いんだけどな。それよりも仕事の話だ。」
「分かりました。」
「君には勇者の仲間となってもらうんだけど、君の行く世界では100年に1回、魔王が出てくるんだ。それを倒す為に勇者が召喚される。その勇者は、いずれボクが連れてくる。」
「そうなんですか……。」
「まあ、僕の仕事だからね。それは良いとして、その勇者召喚に備えて君には準備をしてもらいたいんだ。」
「準備、ですか。」
神が私に話した準備はこうだ。
まず、異世界転生して新たな人生を過ごす。勇者が召喚されるのは、15年後の話であり、まだまだ時間があるという事。
それまでに教育課程を終了させ、実力を付けておく。レベルなどを上昇させるのが好ましい。
勇者召喚の際に勇者パーティの一員となる為に召喚する国の上層部に関わっておく。だが、裏の仕事はしない。勇者パーティになれなくなるからだ。
その後、誕生した魔王を倒す為に勇者と共に冒険する。
魔王討伐終了が今回の仕事の達成項目となる。また、勇者の死は失敗となる。但し、この失敗は認められない。
と、いう事だ。
「分かりました。」
「君は頭が良いからね。理解してくれていると思う。だけど注意してね。元の世界と君が今から行く世界は全く違うんだ。似ていても違う。君の世界の人がいても違うんだ。それを覚えておいてね。」
神は心配性だ。使徒である私をとても心配する。だが、私はそれが少し嬉しい。是非とも期待に応えなくては。
「前置きもこれぐらいにしようか。何はともあれ、君の新たな門出を祝おう。」
そう神は告げた。そして、私の視界は暗転した。
◇◆◇◆◇
「大丈夫か、リリス。」
「え、ええ。」
リリスは妊娠している。そして、もうすぐ念願の第一子が生まれるのだ。頑張ってもらわなくては。
「大丈夫ですか、リリス様。」
「ありがとう、エスラ。」
「とんでもございません、リリス様。」
エスラはメイドだ。私の家に勤めている。とても頼りになるメイドである。
私の妻であるリリスとメイドのエスラは、互いに励ましあっていた。正直、男の私には出産と言っても実感が湧かない。
それに比べると、出産経験のあるエスラはリリスにとって、頼り甲斐のある存在だろう。エスラがいてくれて本当に良かった。
数分してリリスは出産した。可愛い男の子だ。この子はこの家の跡継ぎになるだろうか。
私としてはのびのびと生きていれば良いと思う。子供に何かを強いるつもりはない。必要なマナーやエチケットを教えるだけにしよう。
可愛い産声で泣く赤ちゃんは、リリスが抱いた。
目の色はリリスと同じく碧色だ。綺麗な目である。髪色は私と同じ黒髪混じりの茶髪のようだ。
それにしても可愛い。この子は私達の宝だな。
◇◆◇◆◇
私は暗い所から出た。そして、私は本能に逆らえずに泣いた。その声は赤ちゃんの如し。
まさか本当の赤ちゃんとは……。
だけど記憶は全く失われていない。さらにこちらの世界の言語が分かるようだ。これは好都合だ。言語を覚える手間が省ける。
幸い、私の父母は私に甘かったため、家の中での行動に何かを言われるようなことは無かった。
そして、私は4歳の誕生日を迎えた。
◇◆◇◆◇
「誕生日おめでとう!ラウル!」
今日は私の4歳の誕生日だ。私は今日まで自分の両親を驚かしてきた。
まず、歩けるようになるまで数ヶ月掛からなかったのだ。通常ならば、さらに時間が必要となる行為を私は歩く練習を何度もすることで、ハイハイやつかまり立ちなどの過程を飛ばして歩けるようになっていた。
さらに私は1歳半ほどで言葉を普通に話せるようになってきていた。それは喃語や1単語や2単語などでは無い。普通に会話が出来ていたのだ。
これはさらに両親を驚かせた。天童、とまで言ってくれたが、謙遜しておいた。さらに褒められる結果に終わったのだが。
そして、私はこの世界について学ぶ為に家に数万冊と置かれていた本を全て読破した。この内容は良い知識となった。
「ありがとうございます。」
私は素直に感謝を述べる。私は2回目の人生で新たな両親に少しばかり隔たりを感じていた。それは私の新しい両親からでは無く、自分から作った隔たりだ。
どうにも私は前の人生に執着しているようだ。未だに前の人生を振り返ってしまう。私が何かを考えたところで何かが変わるわけでも無いのに。
「それで明日は念願の<クリューラレス魔術学院>の入学試験だ。ラウルから大丈夫だと信じているが、無理はするなよ。」
私の父はそう言ってくれた。是非とも期待に応えたい。そして、家族にさえ、少し距離を置く私と普通に接してくれる父や母、メイドのエスラさんに恩を仇で返すつもりは無い。
「はい。父さんも仕事頑張って下さい。」
私の父の職は聖騎士だ。聖騎士長である。私はこちらでの生活も文武両道を貫いている。今日も朝から父と剣の鍛錬をした。
「あぁ、ありがとな。」
私はこちらの世界でも家族に恵まれた。嬉しい限りだ。さて、明日の入学試験の準備をするとしよう。
「それでは僕は明日の準備をしてきます。」
「おう。」
返事をしてくれたのは父だけだが、母やエスラさんも微笑んでいた。父と同じ気持ちなのだろう。
私は自分の部屋に戻った。
自室の扉を閉める前に私はそこで立ち止まった。そして、耳を澄ます。私とてこんな真似はしたくない。だが、家族が私の事をどう感じているかで私も対応を変えたいのだ。未だにそのタイミングを掴めずにいる。
「……明日の準備か。ラウルは俺とは違うよ。」
「そうですね……。本当に私たちの子供なのでしょうか。」
「リリス様。」
「……すみません。少し言い過ぎました。エスラありがとう。」
「いえ……。」
そう言うエスラもラウルに対して少し遠慮している場面がある。
ラウル様は空気を読むのが上手いのです。それこそ大人である私達よりも。そして、如何なることも楽にこなすことが出来ます。私とは大違いです。
ラウル様はいずれこの家 ── アヴルドシェイン家 ── を嘗てのように復興してくれる、そんな気がします。
私は全てを聞いていた。過度な期待をせず、見守ってくれる家族に改めて感謝したい。
次の日になって私は家を出発した。家はクリューラレス魔術学院から少し離れている。
この都市は大きく中央に広がる貴族街を囲むように形成されている。クリューラレス魔術学院は、その中央……貴族街の中央に位置している。この国一番で最も名高い場所だ。
クリューラレス魔術学院には、この国だけでなく、他の国々からも沢山の入学希望者が出てくる。この魔術学院は、実力主義の学風であり、貴族だからと言って優遇される訳ではない。
しかしながら貴族の多いこの国にある学院のため、意図せずとも学院内部には、そういうグループや派閥が出来てしまう。
私としてはそういう派閥争いなどに参加するつもりは元より無い。<導く者>の使徒として、最善の結果を出すつもりだ。
そうして私は今、ここ……クリューラレス魔術学院にいる。周りを見るだけでも貴族の乗ったと思われる馬車が多くある。さらに学院の中外には入学希望者と見られる人で溢れかえっている。その全員が越すべき目標であり、糧にすべき経験となるのだ。それだけは忘れてはならない。
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