好恋

ONISAN

20 片思い

 いったい、どの位顔を見ていないだろう。同じ会社、しかも、小さなワンフロアしかない会社なのに、もう1ヶ月以上も彼と顔を合わせていない。
 さりげなく、ほかの社員に彼のことを聞いてみる。
 最近、忙しいんだよ。社長から色々言われちゃってるみたいだよ。頼むとやってくれちゃうから、社長も言いやすいんだろうね。
 彼女は、そうなんですね。大変ですねー。最近、見ないからサボりだと思ってました。と冗談を交えながら話す。
 ふとした時に思い出してしまうのが、悔しくなる。きっと彼は彼女を思い出すことなんてないのだろう。ただの遊び相手程度で、暇つぶしに声をかけてきたんだ…と彼女は何度も自分に言い聞かせてきた。そうしないと、嫌いになれないと思ったから。でも、何度そう思っても、結局は嫌いになれなかった。そんな自分が不思議で、彼の嫌なところ、ダメなところを言い出したこともあった。いいところなんて、ひとつもないような彼に何故、彼女はこんなにも惹かれてしまっているのだろう。

  ふとした時に、優しかった彼を思い出してしまう。もうあの人の特別にはなれないと悲しくなって辛くなる。もしかしたら、彼の中で彼女が特別だった時なんてなかったのかもしれない。ただ、恋愛経験の少ない彼女が勝手にそう思っていただけかもしれない。
 決して誰にも悟られてはいないが…彼女の中で心のバランスが取れない事がしばらく続いてた。彼女の心は少しずつ、疲れていっていた。
『このままだとダメになる』
 久しぶりに予定のないオフの日に、彼女は家事をしながら呟く。
『この気持ちはなんなの?』
 自分に問う。
『好きー』
 涙と笑いが出る。気持ちが切り替わる。
 好きという気持ちはどうにもならない。だったら、片思いだと思っていれば、少しは気が楽なのかな。嫌いにもなれない。無関心にもなれない。恋愛に縁がなくなくって、忘れていた恋心。捨てることは無い。だって、やっぱり誰かを好きだと思うことは辛いけど素敵なことだと思うから…。

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