好恋

ONISAN

18 分からない

 毎日のように彼を思い、どうにもならないその思いに涙があふれる。こんなに苦しいのに、さよならも言いたくない。それは自分で決めてること。
 きっと、彼は彼女が別れを告げても、すぐに後腐れもなく、後ろ髪を引かれる思いもなく、彼女から去っていくだろう。
 彼女はスマホを手に取る。彼のアイコンを探しトーク画面に入る。何も無い画面。
 「こんばんは」

「こんばんは」
 すぐに返信がある。でも、彼女は何をトークしていいのか分からない。しばらく考える。
「え?それだけ?」
 彼からの送信。
「違う」
「文章直してたら遅くなった」

「ああ。バカだからね」
 また人のことをバカにする。でも、それも慣れた。今はそうやって絡んでくれることが嬉しくなる。
「来週も忙しいの?」

「忙しいよ」

「そっか」

「なに?」

「頑張ってね」

「あなたに言われなくても頑張るし」
 彼のこういうところも彼女の気持ちを苦しくさせているのを彼は全く知らない。彼女の今までの人との付き合いの中では応援されたらありがとう、と言う気持ちがお互いにあった。最近の彼にはそれが全くない。
「そうだよね」
 彼女はいつも彼の気持ちを逆なでしないように嫌われないように気を遣って話したりトークをしたりしてきた。でも彼は違う。彼女の傷付くことを面白がるかのように、冷たい言葉を発する。
「ねる」
「さよなら」
 また…さよならって送信されてくる。彼女の嫌いな言葉。もう次がないかのようなその言葉は、今の彼女の中で最も不安にさせられる言葉のひとつになっていた。
「いやです、さよならって言葉」
「嫌い」
 彼が面白がるように、使う言葉。不安定な彼女達の関係を更に不安定にしていく。
「さよなら」

「いじわる」

「いじわるしてません」

「どうしたらいいか分からなくなる」
 彼女は思い切って送信する。

「なにが?」

「私の行動」

「どういうこと?」
 
「諦め時」
 彼女は今にも震えだしそうな指先で入力する。送信する。
「諦めるんだ」
 彼が何を思っているのかが全く伝わってこない…。
「諦めたくないの」
「でも分からなくなる」
 本当の今の気持ち。彼女の言葉は彼に届くのだろうか。
「何も言ってないじゃん」

「うん」
「言ってない」
「じゃあ、ダメな時は言ってくれるのね」
 だったら、それまでの間、少し不安が減る気がした。
「さぁ?」
 面白がるようなトーク。
「もういい」
「じゃあ、諦めない」
「なので」
「ギューってしてください」
「必要だから」
 
「しません」
「もういいんでしょ?」
 きっと、今、彼の顔を見られたなら、その表情は彼女の困った顔を見て楽しんでいるかのようなものに違いない。
 彼女は送信する
「よくない」

「それはずるい」
 何がずるいの?彼女には意味が分からない。文面だけでは何も伝わってこない。
「?分からない」
「諦めてほしかった?」
「分からない」
 彼女の本心。なのに彼は…
「おもしろい」
「おやすみ」
 何も分からないまま、彼は彼女を突き放す。
「え?」
「寝るの?」
「この状態で?」
 思わず彼女は送信する。分からないまま、もやもやしたまま、また涙を流す日々が来ることを分かっているのに、このままこの話を終わりにはしたくなかった。
 でもこれ以上、話し続ければ…その結果は見えていた。
「なにか?」
 面白そうに送信してくる彼の顔が浮かぶ。どう返信するのが最適なのか?
「おやすみなさい」
 彼女はまた、涙を流す日々を送るのだろうか…?

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