好恋

ONISAN

14 涙、涙

 彼女は彼と始まった時のことを思い出していた。
 彼は何でも彼女に話してくれた。トークは1時間を越すこともあった。彼女の気を引くためだったのか、彼は優しい言葉もよく伝えてくれた。
 今は彼女に興味が無いような気さえしてくる。
 彼女はスマホの画面を見ながらため息をつく。最近は彼とのトークもすっかり減っていた
 彼女は彼に抱きしめられた感覚が、忘れられなかった。そこに愛がなくても、抱きしめられると幸せな気分になれた。彼女は思い切ってトークする。
「お願いがあります」
 しばらくして返事が来る
「なんですか?」
 面倒臭そうな返信。
「癒してください」

「なにかあった?」
「大丈夫?」
 久しぶりに優しい言葉。連絡してよかったと思う。
「大丈夫」

「何かあったの?」

「日頃の小さい事」

「そういうことね」
 彼は都合の悪くなりそうな女の嘘を見抜こうとはしない。疑ってほしい時に限って、鵜呑みにする。
「俺は今日。1つ仕事が片付いた」
「とりあえず、あと2つ」
 久しぶりの彼の話。
「そうなんだ」

「新規の会社にプレゼンしに行くからね」
「他の部署の人も来るみたいだし」
「忙しい」
 彼女は久しぶりの彼の彼自身のトークにほっとする。
「そっか。夢が形になっていくね」
 彼女は以前に彼から夢を聞いていた。彼が本当に夢に向かって前進していくのを目の当たりにして、彼女は彼の行動力や人脈に驚いていた。
「そんなに甘くない」
 そんなこと分かっている。彼女は彼の仕事の一部しか見てはいない。彼が外でどれだけの仕事をしているのかも知らない。しかし、彼は確実に前に進んでいる。そう感じた彼女は素直な気持ちを伝えたのに…。
「そんなの分かってる」
「でもひとつづつクリアしていくのがすごい」
 彼女の素直な気持ち。彼にはどうやって届くのだろう。
「忙しくなくなったら会ってください」
 彼女は送信する。本当は今すぐにでも会いたい。抱きしめてもらいたいと思っているのに。それは伝えられない。彼に重いと思われたくない。鬱陶しいと思われたくない。都合のいい女で構わない。たまに抱きしめてくれれば…
「まだしばらく忙しいね」
 彼はサラッと返信してくる。
「そっか」
「残念」
 残念。この言葉がこんなにしっくりくることなんて今までなかったかもしれない。涙がこぼれる。あぁ…彼は何を考えてるんだろう。なんで、私のことをもう少し思ってくれないのだろう。彼女は溢れてしまった涙を拭う。

 結局、彼女が会いたい時は全然会えない。
彼のことが全くわからない。でも惹かれてしまうのはなんで?
私って、こんなだったっけ。
彼女は考える。
もう連絡しない方がいいのかな。
毎日思うことは違う。
彼の気持ちもわからない。
彼が別れを切り出すまで、彼女は彼のことを思っているのだろうか?傷つく事なんて分かっていたのに。傷ついて、傷付いて、また泣くのでしょうか? 

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