好恋
13 交錯
 絶対に彼は仕事に私情をはさまないだろう。彼女はそう思いながら会社のドアを開ける。まだ彼は来ていない。ほっとする。自分はいつも通りにできるのだろうか?少し不安になる。椅子に座りぼんやりとパソコンを見る。電源を入れるとHelloの文字。自分で設定した文字だが、今の彼女にはその時の陽気さはない。
 初めて彼と恋人のようなことをして。今日は初めて顔を合わす。でも彼は、何も変わらないだろう。
(私は大丈夫?)
 彼女の心の中はグルグルとその言葉が繰り返されていた。
『おはようございます』
  ガチャっとドアの開く音が声と同時にする。
 思わず、ドキッとする。
『おはようございます』
 彼じゃない。良かった…。
『おはようございます』
  ほっとした瞬間、彼の声が聞こえる。
『おはようございます』
 彼女は自分が思ってた以上にいつも通りに挨拶ができたことに驚く。
 なんだ…大丈夫だ、私も。彼女はほっとする。いつもと同じ。昨日のことが夢の中の出来事だったかのようだ。少し心配になってくる。
 夢、じゃないよね?彼女は首をかしげながらパソコンに向かう。隣の席の同僚が声をかけてくる。
 さっきから、どうしたんですか?なんか、 入力、おかしいですか?
 彼女は首を振る。
『大丈夫。私の間違いだったみたい』
 いけない、いけない。仕事に集中。
『パソコン、おかしいの?』
 後ろで声がする。振り向くと彼がパソコンを覗き込んでいる。
『いえ。大丈夫です』
『そう』
 彼は彼女にそっと耳打ちする。
『何考えてたの?昨日のこと?』
 返事をする間もなく、彼は自分のデスクに戻る。彼女はやっぱり、夢じゃなかったのか…と思う。頬が自然と緩む。いけない。仕事に集中。
 今日も一日が始まった。不安のない1日。いつもこうだったらいいのにな。彼女はそう思いながら、フリをしていた入力作業を始めた。
 特別なことなんて何も無い。いつもと同じように、彼は営業に出ていってしまった。彼女はほっとする。意識してしまうから、なるべく彼を見ないようにして仕事をしていた。彼は相変わらず普通なのに。自分だけが落ち着かないような気がして、彼女は不満に思う。彼は何も無かったような涼しい顔をしていた。慣れてるのかな…。小さなことが不安材料になる。彼女はひとつ小さくため息をついた。
 
 夜、子供が早く寝てしまったので、彼女はスマホを覗き込んだ。もちろん彼からの連絡はない。いつも、彼女からだ。
 「お疲れ様」
「明日は朝早いの?」
 少し遠いお客さんの所に行くと予定で出てたので、彼女は聞いてみる。
「早いよ」
 すぐに返信がくる。
「寝坊しないでね笑」
 
「じゃあ、モニコしてよ」
「してもいいの?」
 彼女は嬉しくなる。朝、彼の声を聞くことが出来ると思うとスマホ画面に向かって笑顔が零れた。
「いいよ」
 彼からの返事。彼女からまた笑顔が零れる。でもすぐに
「でもマナーモードになってるから、気付かないよ」
 彼からの心無いトークが届く。
 彼女はがっかりする。それをストレートに伝える。
「すっごい、がっかりした」
「どうせできないでしょ?」
「明日はできるよ」
「そうなんだ」
「でも、いいや」
「寝起き悪いし」
 明らかに、して欲しくないという思いが詰まっている文面に彼女は悲しくなる。
 わざと精一杯の心無いトークを送る。
 「はーい」
 彼はどんな風に読み取っただろうか?
 文字だけのやり取りは難しい。読み手によって、本当にも嘘にもなる。
 すぐに返事がくる。
「眠い」
 彼女は苛立つ。こんなに苛立たせるのが上手な彼に、何故いつまでも好きなのかが分からなくなる。
「寝てください」
「おやすみなさい」
 彼女は送信するとうつむく。折角、幸せな気持ちで落ち着いてたのに…。
して欲しくないくせに、して。と言って。
いいよって言ったら、やっぱりいいやって…。
 また彼がわからなくなる。また不安になる。
 彼女からため息がまたこぼれた。
 初めて彼と恋人のようなことをして。今日は初めて顔を合わす。でも彼は、何も変わらないだろう。
(私は大丈夫?)
 彼女の心の中はグルグルとその言葉が繰り返されていた。
『おはようございます』
  ガチャっとドアの開く音が声と同時にする。
 思わず、ドキッとする。
『おはようございます』
 彼じゃない。良かった…。
『おはようございます』
  ほっとした瞬間、彼の声が聞こえる。
『おはようございます』
 彼女は自分が思ってた以上にいつも通りに挨拶ができたことに驚く。
 なんだ…大丈夫だ、私も。彼女はほっとする。いつもと同じ。昨日のことが夢の中の出来事だったかのようだ。少し心配になってくる。
 夢、じゃないよね?彼女は首をかしげながらパソコンに向かう。隣の席の同僚が声をかけてくる。
 さっきから、どうしたんですか?なんか、 入力、おかしいですか?
 彼女は首を振る。
『大丈夫。私の間違いだったみたい』
 いけない、いけない。仕事に集中。
『パソコン、おかしいの?』
 後ろで声がする。振り向くと彼がパソコンを覗き込んでいる。
『いえ。大丈夫です』
『そう』
 彼は彼女にそっと耳打ちする。
『何考えてたの?昨日のこと?』
 返事をする間もなく、彼は自分のデスクに戻る。彼女はやっぱり、夢じゃなかったのか…と思う。頬が自然と緩む。いけない。仕事に集中。
 今日も一日が始まった。不安のない1日。いつもこうだったらいいのにな。彼女はそう思いながら、フリをしていた入力作業を始めた。
 特別なことなんて何も無い。いつもと同じように、彼は営業に出ていってしまった。彼女はほっとする。意識してしまうから、なるべく彼を見ないようにして仕事をしていた。彼は相変わらず普通なのに。自分だけが落ち着かないような気がして、彼女は不満に思う。彼は何も無かったような涼しい顔をしていた。慣れてるのかな…。小さなことが不安材料になる。彼女はひとつ小さくため息をついた。
 
 夜、子供が早く寝てしまったので、彼女はスマホを覗き込んだ。もちろん彼からの連絡はない。いつも、彼女からだ。
 「お疲れ様」
「明日は朝早いの?」
 少し遠いお客さんの所に行くと予定で出てたので、彼女は聞いてみる。
「早いよ」
 すぐに返信がくる。
「寝坊しないでね笑」
 
「じゃあ、モニコしてよ」
「してもいいの?」
 彼女は嬉しくなる。朝、彼の声を聞くことが出来ると思うとスマホ画面に向かって笑顔が零れた。
「いいよ」
 彼からの返事。彼女からまた笑顔が零れる。でもすぐに
「でもマナーモードになってるから、気付かないよ」
 彼からの心無いトークが届く。
 彼女はがっかりする。それをストレートに伝える。
「すっごい、がっかりした」
「どうせできないでしょ?」
「明日はできるよ」
「そうなんだ」
「でも、いいや」
「寝起き悪いし」
 明らかに、して欲しくないという思いが詰まっている文面に彼女は悲しくなる。
 わざと精一杯の心無いトークを送る。
 「はーい」
 彼はどんな風に読み取っただろうか?
 文字だけのやり取りは難しい。読み手によって、本当にも嘘にもなる。
 すぐに返事がくる。
「眠い」
 彼女は苛立つ。こんなに苛立たせるのが上手な彼に、何故いつまでも好きなのかが分からなくなる。
「寝てください」
「おやすみなさい」
 彼女は送信するとうつむく。折角、幸せな気持ちで落ち着いてたのに…。
して欲しくないくせに、して。と言って。
いいよって言ったら、やっぱりいいやって…。
 また彼がわからなくなる。また不安になる。
 彼女からため息がまたこぼれた。
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