好恋

ONISAN

8 浮気性

 浮気する男の条件。というものが雑誌の特集ページの片隅に載っていた。その時は、何となく見ていただけだが。
 彼とトークしている時に、彼女は思わず笑いが出てしまった。彼がその片隅に載っていたことと同じ事を言ったからだ。その日も会社帰りにトークをしていた。
「会えない?」

「会えないよ」
「忙しいんでしょ?時間ないじゃん」
 会いたいけど…会ってしまったらいけない、と。まだ少しの良心を盾に、そう言った彼女に、彼は
「時間なんて自分で作るもんだよ」
と返してきたのだ。
 浮気をする男の条件。
 ①マメ
 ②時間の作り方がうまい
その他にも色々書いてあった。
 彼女は思わず送信する。
「浮気をする男の条件、と同じ事言ってるよ」

「なにそれ?気になる。俺、浮気しないけど。教えて」
 彼の心が面白いように分かる気がした。
 彼女は、思い出せる範囲で彼に、その条件を送信する。
「ふーん…」
 たったそれだけ、彼から返ってきた。
 彼女は思う。彼はやはり、一人の人と継続的に恋愛はしない人なのかもしれない。自分の都合のいい時だけ、優しくしたり。面倒臭い時は冷たくしたり。既読しないでいるのかもしれない。
 きっと、都合よく付き合っていくには最適な人なんだろうと彼女は思う。
 前にそういえば、聞いたことがある。
 彼は結婚していてもおかしくない歳だ。今まで結婚を考えたことがないのか?
 彼の答えは意外だった。
「ずっと仕事が安定しなかったし。少しづつ軌道に乗っていくのが面白くて。仕事が安定しないから結婚も考えなかった。迫られたことはあるけど、断った」
 そういうところは、すごいしっかりしているのに。女性には誠実じゃないと感じてしまう。結局、彼の中では仕事が1番なのだろうか。
「それに結婚してたら、和子とはこうはならなかったから、結婚してなくて良かった」
とも言っていた。でも、それは違うだろうと思い、聞き返したのを覚えている。
「なんで?そう思うの?」

「だって、家族を養わないといけない、責任感があるし」
 私は家族がいても浮気をしている男の人を何人も知っている。彼女はぼんやり、そう思う。既婚者が皆、その責任感を持っていたなら、この世に悔しい思いをする既婚女性はどんなに減るだろう。反対もまた然り。
「えらいね!私の友達の旦那は浮気したけど」

「そうなの?」

「何人もいるよ」

「信じられない」
  彼女はひっそりと思う。あなたのその発言こそ信じられないと。でもそれは打たない。またご機嫌を損ねるからだ。
 この時のトークで、彼女は改めて思う。
 本気になったら、ダメな人。本気にならないようにしよう、と。

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