好恋

ONISAN

7 不安

 好き、だと告白してしまった…。だからといって、進展する普通の恋愛とは違う。
 今までと何も変わらない。
 それにしても、彼はなぜ、わざわざ、私とそうなろうと思ったのか?不思議で仕方が無い。彼は仕事の能力もあるだろうし、見た目も悪くない。きっと普通に彼女だってできるはずなのに…。あ。いるのかもしれない。私は、遊びなのかもしれない。まあ、遊びだったとしても、それを責めることなんてできるはずがない。私も、彼に特定の人がいる方が気が楽かもしれない。
 彼女は家事をしながら、今までの事を振り返る。いったい、いつから自分に好意を持っていたのか?仕事で3年以上も顔を合わせていたのに、全くそういった素振りは見えなかった。
 考えても何も分からない。そもそも、彼のことは何も知らない。なのに、こんなことになるなんて…。
 彼女は自分でも不思議な気持ちになる。彼女自身、彼の事を意識したことはなかった。それが、ほんの数週間でこんなことになってしまった。いつからなのか?全く分からない。

 休日はいつも子供は習い事に出かけてしまう。彼女は1人、家事をこなす。
 『そろそろ休憩~』
 彼女はコーヒーを片手にスマホを覗く。
 プライベートな彼からの連絡は、絶対にない。彼女のスマホは子供のゲーム機にもなっているからだ。少しでも危険があることは絶対にできない。
「こんにちは」
「今日は寒いですね」
 彼女は送信すると、熱いコーヒーを1口飲む。ごくり、と静かな部屋に音が響く。彼女は好きな歌を口ずさむ。トークを送信する時。彼からの返事を待つ、期待と不安でドキドキする。
 コーヒーを半分ほど飲み終えた頃。彼女はため息をついた。彼からの返信がなかった。もう、彼女が送信した事の返事がくることはないだろう。
 彼女はスマホをテーブルに置くと、家事に戻る。返信がないと悲しくなるなら、自分も意味もなく連絡を取るのはやめよう、と思う。好きという感情が外に出てしまったからだろうか?彼女は揺れる気持ちを抑えられなくなりそうだった。
 はぁ…ため息がこぼれる。
『ばかー』
 文句も出る。そうしないと不安になるから。
 前に彼が言っていた。
 俺は割り切って付き合える。
 こういうことか。返事がなくてもため息ついてたらダメなんだ。自分が都合のいい時だけ、いい思いをさせてもらおう。そういう付き合いを彼は言っていたのか?
 彼女はブツブツと呪文のように彼の文句を言う。そして、大好きな歌を流して、一緒に歌う。さっきのトークを削除する。もうすぐ、子供が帰ってくる。
 残りの今日は家族の為に家族のことを思って過ごそうと思う。

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