好恋

ONISAN

4 会いたい

 その日、彼女は色々なことが上手くいかずにイライラしていた。とても小さなことかもしれない。でも…頑張っているのに…その後もなかなか、彼女の気持ちは安定しないでいた。
 彼女は1人になると、スマホを見る。指がトークアプリをタップする。彼とのトーク画面を開くと、文字を打ち込む。彼に送信する。こんな遅くに起きてないかもしれない。それでもいい。
「今日はへこみました」
 すぐに返事が来る。
「どうした?会社で?」
「家で…」
「大丈夫?どうしたの?」
 たった、これだけのトークで心が穏やかになる。
「色んな小さな事が積み重なった。で、へこんだ」
「そっか。仕事して、家事、育児、大変だもんね」
  今、彼女が欲しい言葉を彼はくれる。彼女は彼と連絡するようになってから、自分の弱さを感じるようになった。はぁ…人が恋しくなる。抱きしめてもらいたい。誰かにぎゅっと抱きしめてもらいたい。目を閉じると思い浮かぶのは彼なのだ。
 彼に会いたくなる。
「会いたい」
 思わず、送信する。
 「大丈夫?」
 きっと、困ってるんだろうな。
「大丈夫。ごめんね、遅くに」
 知ってる?女の人の言う「大丈夫」は「大丈夫じゃない」ってことなんだよ。でも、そんなこと彼に分かるわけない。
「大丈夫だよ。無理しないで」
 
「ありがとう、おやすみ」

「おやすみ」
 どう、思ったかな?怖くて聞けない。けど。少し、頬が緩む。彼が今の彼女の精神安定剤だと思う。さっきまでのトゲトゲした心は穏やかになってる。
 でも、会いたい気持ちが大きくなる。会って、彼に触れたいと心底思う。でも、それはできない。
 また苦しくなる。こんなに会いたいのは私だけなんだろうな…。はぁ…と彼女は誰にも聞こえない位のため息をつく。
 子供は幸せそうな寝顔をしている。うん。私も幸せ。会ったらダメだ。彼女はしっかり自分に言い聞かせた。


コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品