好恋

ONISAN

2 削除

 仕事の事ではないスマホ上でのトークが回数を重ねると、彼女の想いは強くなっていった。
 でも、平常心を装ってトークをする。
 それなのに
「可愛いよね」
「ずっと、いいなぁって思ってた」
 彼は時々、そんな言葉を送信してくる。
 彼の気持ちが彼女は自分に向いているんじゃないかと思ってしまう。
 自分の都合のいい方に全てを考えてしまう。
 彼の一言で彼女は一喜一憂していた。彼はきっと、そんな彼女の心を手に取るように感じていたのかもしれない。
 トークをするようになってしばらくした頃、彼から送られてきた。
「ねえ」
 しばらく間が空く。
「ん?」
 あまりに間が空いたので、彼女は聞き返した。
「俺は好きだけど」
 ドキッとする。
 ねえ、の後の間で、彼は送信するかどうしようか迷っていたのだろうか?
 これはどうやって返すのが正しいのか。私も…だなんて安易に返せない。ずるいけど、今までのドキドキするトークはどこか夢の中でのことのように思えた。
 彼女は画面を見ながら指を迷わせる。
「笑」
 都合のいい文字。困った時にも使える。
「俺は割り切って付き合える」
 彼女はまたドキッとする。彼女も彼とだったら、そういう関係になってもいいと思う。でも、良心がまだ勝ってる今は、彼との間に一線を引く。
「そういうのはダメです」
 彼女は冗談ぽく返す。
「そうなんだ」
 画面の文字だけでは彼の心がわからない。彼の口から発せられた言葉なら、その声、話し方、表情で、少しは彼の心が見えるのに。
ふと、彼女は思う。こんなことを続けていったら、いつの日か自分から愛を囁くようになってしまうのだろうか?
 色んなことがあっても頑張ってきて。なのに誰も認めてくれなくて。こんな渇いた心を潤してくれる彼に、この心をぶつけてしまうのだろうか?
 彼は優しい言葉をたくさんくれる。その時だけはドキドキしたっていいかな、と思いながら画面を見る。
 意地悪な言葉と優しい言葉が並ぶ。本当に一喜一憂。人を好きになるのはこんなにエネルギーを使ったのか。本当に忘れていた。
 そして、トークの最後は決まって全てのトークを削除する。子供に見られたら大変だから。
 彼も念を押す。
「削除するんだよ」
 分かってる。彼からの聞きたくない一言に悲しくなりながら、迷いながら削除する。今までのことが夢だったかのように何もなくなる。また彼女は悲しくなる…。

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