異世界ファイター ~最強格闘技で異世界を突き進むだけの話~

チョーカー

感情の爆発


 「フン!」

 源高は高く振り上げた手刀をレオの肩に振り落とした。

 甲高い音。

 鎖骨が砕ける音だ。
 片膝を地面につき、動きを止めたレオ。だが、その表情は笑顔だった。
 その笑顔に蹴りが入る。 十分に助走をつけ走りこんできた明が前蹴りを繰り出したのだ。
 その威力にレオは後方に1回転、2回転と転がっていく。

 渾身の一撃。

 明らかに濃厚なダメージの確信。
 だから、反応が遅れた。明の顔面に源高の回し蹴りが入った。
 源高が倒れた明に追い討ちを仕掛ける。
 頭部を潰さんと片足を上げ、踵で踏みつけようとした。

 ――――しかし、できない。

 源高の足に尻尾が巻きつかれる。レオの尻尾だ。
 源高の反応は早かった。 片足でレオの方向に飛ぶと、掴まれていない方の足で蹴り。
 これは防がれる。だが、源高は止まらない。

 ラッシュ ラッシュ ラッシュ……

 拳を振るう。
 これにはレオを防戦一方。両腕両足だけの受けでは通じず、三本の尻尾を防御に回しても、なお反撃の糸口すら見つからない。
 永遠に続くと思われた源高のラッシュが不意に止まった。
 源高の腰に誰かの腕が巻きついている。
 もちろん、明だ。
 源高の体を持ち上げると自身の体ごと後方へ反り返る。

 岩石落としバックドロップ

 ヘソで投げる。――――いや、投げるではなく落とす。

 その基本通りの綺麗なアーチを描き、源高を頭から地面にたたき付ける。
 硬い地面に鈍い音が響く。
 常人なら死んでいたであろう投げ。しかし、食らったのは源高だ。
 源高は動く。
 腰を掴む明の腕を強引に伸ばし、肘に自分の腕を巻きつける。

 ストレートアームバー

 腕関節が決まり、ミシミシと異音が明の腕から漏れ聞こえる。
 だが、敵は明だけではない。
 強烈な踏みつけ。
 レオが源高の顔面に踵を落とす。
 しかし、源高は明の腕を離さない。一撃、二撃、三撃……
 二桁近い踏みつけてを受け、ついに源高は明の腕を放し、守りに入る。
 レオの足首を掴むと同時に、自分の足を絡ませて足関節。
 ヒールホールド? アキレス腱固め? アンクルロック? それとも膝十字か?
 させない。レオは蹴りを放つようなモーションを繰り出し、足に纏わりつく源高を剥がす。
 そのまま、戦いは明対レオへ移行。

 レオは打撃を連続して繰り出す。 
 明はそれを弾き、カウンターを狙う。
 しかし、レオの攻撃が変化した。 
 まるで柔道の組み手争い。明の首元と腕を掴もうとする。

 「ここに来て『HP吸収』かっ!」

 掴まれた明は膝から力が抜けていく感覚がする。
 しかし、明は自ら倒れこむと、レオの両足首を掴み固定。
 足でレオの腹部を強く押す。 柔術でいう草刈という技だ。
 そのまま馬乗り状態マウントポジションになった明が拳を振り落とす。

 「削られたHP分は取り替えさせてもらうぞ」

 明は冷酷に拳を落とす。
 レオも下から手を伸ばし、『HP回復』を狙うが、明はさせない。
 徹底的に拳を振るう。だが――――

 「複数戦闘でマウントを取る奴がいるかよ」

 源高が明を吹き飛ばした。
 そのまま、明とレオに背中を向けた。
 源高が対峙するのは観客席。観客に向かって源高は宣言をした。

 「どうしたお前たち? ワシが戦っているぞ?」

 ざわ…… ざわ……

         ざわ…… ざわ……

 怖いもの見たさ。レオの暴走で避難した者が多いなか、最後まで見届けようと残った強者つわもの共がざわつき始める。

 「決勝で勝った者がワシと魔王の座を賭けて戦う。 逆に言えば、ワシと今現在、戦っている者がこの大会の勝者であり、ワシに勝てば、誰にだって魔王の座をくれてやる」

 会場からざわめきが消えた。
 誰もが源高の言葉を理解するのに時間が必要だった。

 「わからねぇか? 要するに誰でも良いからかかって来いって言ってるんだぜ?」

 感情が爆発した。そうとしか思えない勢いで何人かが観客席から会場に飛び込んできた。

  
 

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