異世界ファイター ~最強格闘技で異世界を突き進むだけの話~

チョーカー

レオの変身

 トーヤはレオに恐怖を感じていた。
 感じていたからこそ、前に出る。 その恐れを払拭するために――――

 射程圏内に入ると同時に尻尾を振るう。
 今までのミドルキックのような軌道ではない。
 蹴りで言うならば上段回し蹴りハイキックの軌道。
 十分に撓しならせ、加速させた尻尾をレオの顔面に叩き込んだ。
 伝わってきた感触は、まるで金属。
 鉄の塊を叩いたかのように錯覚する。

 「それが、それがどうしたや!」

 奮い立たせるために大声を上げて、攻撃を続ける。
 前蹴り。
 そのまま、レオの腹部を駆け上がるかのように飛び上がり、膝を顔面にたたきつけた。
 いずれも、人とは思えない硬度が伝わってくる。
 トーヤの恐怖は加速していく。 それと同時にトーヤの攻撃も加速する。
 無茶苦茶な打撃。格闘技のセオリーから大きく外れた打撃モーション。
 だが、人体の急所に的確に叩き込んでいる。

 それでも、レオにダメージが入っているようには見えない。

 レオはただ立っている。 立って、自身に攻撃を続けているトーヤを見ている。
 それだけだ。 それが酷く不気味に見える。
 まるで、観察をしているような――――

 「せぃやぁ」

 はや、何度目になるだろうか? トーヤはアッパー気味の掌底をレオの顎に叩き込んだ。
 常人なら良くて失神。悪ければ死すらあり得る強烈な打撃。
 しかし、レオの頭部は後ろへ仰け反ることすらない。

 だが、今度はトーヤの技が変化した。
 手の平をレオの顎に押し付けたまま、前に出る。
 そのまま、レオの腰を――――ズボンを掴む。

 それを見た明は――――

 「あの技は!」

 驚きの声を上げる。 
 なぜなら、それは摂津流の技でありながら、同門を相手にする事を想定にした技。
 対摂津流と言える技だからだ。 そして、明も兄弟子に使用して勝利を収めた技でもある。

 フワリと持ち上がったレオの肉体を――――
 そのまま、後頭部を地面へ叩きつける。

 『降魔摂津流投撃術 大地震』

 大地が振動する如く強烈な投げ技。
 これを受けて立ち上がる人間は――――もう、人間ではない。

 そして、どうやらレオは人間を止めているみたいだ。

 渾身の大地震。それすら、普通に立ち上がってくる。
 普通? いや、どう考えてもおかしい。
 よく見れば、レオの体に変化が起きているではないか?

 ゴキゴキバキバキと連続して骨が折れるような音。
 いや、実際に骨が折れているのだろう。
 折れた骨を瞬時に回復され、闘争に相応しい肉体に進化しようとしている。
 いや、おかしい。 ならば、どうして彼の体が巨大化している?
 質量まで増えているではないか!

 肩が巨大化している。
 上腕三頭筋、つまり腕の外側だ。ボコリと膨らんだ肩が上腕三頭筋を覆い隠している。
 発達し過ぎた背筋は皮膚を突き破り外に――――まるで羽だ。
 そして、最大の変化は――――尻尾だ。
 トーヤとの戦いでその有効性を学習したのか? 
 変身したレオには尻尾が三本生えていた。

 ビッシン ビッシン

 それぞれの尻尾が、まるで意識があるかのように自由に動き、地面を叩く。
 どうやら、それは威嚇行動だったららしい。 
 かつて知的だったレオの面影はない。 今は、理性をなくした獣と化した彼は――――
 前に――――トーヤに向かって飛びかかっていく。

 
 

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