異世界ファイター ~最強格闘技で異世界を突き進むだけの話~
トーヤの誤算とレオの誤算
『カニバサミ』
柔道。あるいは柔術で使われるテイクダウンの技術。
相手の両足を目掛けて、低空で飛ぶ。 そして自身の足を広げ、ハサミのように相手の両足を挟み込み、後方へ倒れこむ技だ。 なお柔道では、その技の危険性から現在では禁止技となっている。
そして、摂津流では、この『カニバサミ』と『独楽倒し』と呼ぶ。
そのカニバサミをレオが使用。
トーヤは後方へ倒れこんで――――いかない。倒れる途中でトーヤの体が止まる。
「摂津流は人体破壊に特化した武術や。だから、ワイみたいに人体の構造から外れた者には効果がない場合がある」
トーヤがカニバサミを防いだ方法は単純だ。
彼は両足を空中に放り出した体勢。 レオの両足が絡まったままの状態で空中に止まっている。
両足を地面に着けず、どうやって倒れずにいられるのか?
それは、尻尾だ。 足よりも長く、太く、そして力強い尻尾がトーヤとレオの体と支えている。
「ちっ!」とレオは舌打ちを1つ。
だが、レオの本命は寝技への移行ではない。 寝技に引き込もうとした理由は、立ち技よりも密着した寝技勝負で相手の体に触れる事。 『HP吸収』を使い、相手を戦闘不能にする事だ。
だから、レオはトーヤの腕、足、尻尾に意識を切り替える。
(その足を狙わせてもらう!)
レオはトーヤの足首に狙いを定め、腕を伸ばす。
だが――――
ガッシと掴まれた。
レオがトーヤの足首を――――ではない。
掴んだのはトーヤ。 そして、その顔を掴まれたのはレオだ。
「すまんな。ちぃと強烈なのいくで」
そう宣言すると、トーヤは自身の体重を乗せて、レオを頭部から地面に叩きつけた。
強烈な音。
人間の、それも頭部が地面と接触した音とは思えない――――否。
誰も、そうだと信じたくないほど残酷な音が会場に広がった。
熱狂していた観客が静まり返る。
血に酔うことを目的に集まった彼らですら、絶句だ。
会場にいた多くの人は本物リアルな『死』と如実に意識させられ、強制的に血の酔いから現実に引き戻されたのだ。
まさか、レオ聖下が、『教会』の最高指導者が死ぬ事はない。
それは、信仰心だ。
この世界では、誰もが持っている共通認識。
『教会』への絶対の信仰心が、レオを神話の登場人物のように不死身で無敵の人間だと意識下では信じていたのだ。
そして、それは正しかった。 半分だけ、正しかった。
「ついに掴んだぞ」
地面に叩きつけられる直前、レオはトーヤの腕を掴んでいた。
『HP吸収』発動
ギリギリのタイミングで力を吸収されたトーヤは、地面に叩きつける直前に力が緩んだ。
さらに言えば、レオの生命力のストック。100人を上回る生命力は、一撃でレオの意識を刈り取らない限り、彼のダメージを瞬時に回復させてしまう。
レオは勝利を確信していた。
なぜなら、摂津流最強の象徴シンボルである当主、国栖明ですら『HP吸収』が決まれば失神していた。ならば、当然、『摂津流』も『降魔摂津流』も、ましてや『神聖摂津流』の人間ですら、誰も戦闘維持できる者は存在しない。
だから、だからなのだろう―――――
レオは自身の目に映る光景が信じられなかった。
生命力を吸収され、意識のないはずのトーヤが拳を振り上げ――――
そして、自身の顔面に向かって振り落とされている光景を――――
非現実的なものとしてしか認識できていなかったのだ。
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