異世界ファイター ~最強格闘技で異世界を突き進むだけの話~

チョーカー

カスミ・カキザキ

 キラリと少女が手にした剣が輝く。

 (いや? 剣か?)

 明は違和感を覚える。
 少女の服装は着物に近い。
 かつて明を襲ったレオ聖下が身につけていた物に似ている。 
 それに加えて、後ろにまとめた髪。ポニーテールがチョンマゲ――――
 つまり、明がいた世界でいう侍に近い格好をしていたため、彼女の武器を誤っていた。
 彼女が持つ鉄の板。それは刀でもなければ、剣でもない。
 いや、あるいは刀や剣のように切れ味を帯びた武器のように使えるかもしれない。
 だが、間違って、その武器の真価はそこではない。
 その鉄は魔力の増幅装置。 つまり――――

 「杖か!」

 明の言葉に反応したかのように剣が――――杖が輝く。
 魔法の放射反応。 それを感知した明は、離れて回避する選択肢は、間に合わないと排除する。
 少女と――――その杖に向かって、さらに接近していく。
 少女の魔法が自分に振るわれるよりも早く――――彼女が杖を持つ腕を掴んだ。 

 予想外だったらしい。「……この」と抗議の声を上げて抵抗を続けるが、がっしりと掴まれた腕は動かない。
 抵抗をあきらめたのか、彼女の体から力が抜けていく。
 ――――いや、違う。 代わりに希薄だった感情が敵意で溢れていく。
 少女は二本の指で明の眼球を突こうとした。
 反射的に明は頭を下げ、額で目潰しを受けようとする。
 しかし――――

 明の目に刺激が走る。少女の放った目潰しは、まだ到達していない。
 少女は指先から簡易魔法で光を放ったのだ。
 明が、どんなに速くても光は避けれない。一瞬の閃光が明の網膜を刺激。
 魔法による目潰しで、一時的とはいえ明から視界を奪ったのだ。

 「勝機! これで……」

 彼女は勝利を確信していた。しかし、それは僅かな間だけだった。
 意表をついた目潰しで彼を怯ませて反撃。
 その計画は破綻していた。 なぜなら、目に攻撃を受けたはず明は少女を捕縛している腕を放していなかったからだ。

 「――――ッッ!? このはなせ!」

 今度は拳を明へ振るう。
 しかし、払われた。
 目の見えないはずの明が捌いたのだ。
 偶然の二文字が彼女の脳裏に浮かび、再び拳を走らせる。
 だが、同じ事だった。少女の打撃は、明に捌かれ通らない。

 「だったら、これなら!」

 少女はふところに手を入れた。

 (武器か? なら、技を強めないといけない)

 明は掴んだ腕に力を込め――――

 「待ちなさい!」

 それを止まれた。明は、そう思ったが違ったみたいだ。
 彼女が――――スイカが止めたのは明ではなく、尾行者の少女の方だった。

 「お、お嬢様……お久しぶりです」

 尾行者の少女は力なく、スイカに頭を下げた。  

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 「彼女は、私の家で仕えてくれていたカスミ・カキザキです」

 明が捕縛を解くと尾行者の少女――――カスミは片膝を地面について頭を下げたままだった。

 「そう言えば、スイカは貴族の家柄から冒険者になったんだけ?」
 「えぇ、かつての名前と家はもう捨てました」

 「それなのに、どうして?」とカスミに尋ねた。

 「いえ、本当に偶然といいますか。私の準々決勝の相手がお嬢様のお連れの方だったので……」

 「ん?」と明。
 「え?」とスイカ。

 一瞬、遅れて準々決勝の対戦カードが――――

 国栖 明 VS カスミ・カキザキ

 こういう意味だと理解したのだった。
 

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