異世界ファイター ~最強格闘技で異世界を突き進むだけの話~

チョーカー

尾行者

 本戦出場は16人。
 1回戦で勝利を収め、2回戦に進出した者はベスト8となる。
 つまり、2回戦=準々決勝なのだ。

 「それで、準々決勝の相手はどんな方なのですか?」
 「さぁ? もう発表はされているみたいだけど」
 「え? 確認されていないのですか?」

 スイカの疑問に明は「うん」と頷いた。

 「そうだね。彼を知り己を知れば百戦殆うからず……なんて言うくらい敵の情報収集は基本なんだろうけどね」
 「それなのにどうしてですか?」
 「変な先入観を持たないため。俺にとって、この世界の戦闘術は未知だから、できるだけ実戦で学びたいんだ」
 「えっと……それは……」

 言いよどむスイカに対して明は「よくわからないよね?」と笑って見せた。

 これは日常の風景。
 1回戦とは違い、準々決勝は2週間後。
 その期間、明は普段通りに冒険者ギルドに通い、依頼クエストを受けて、仕事を行う。
 そして、仕事を終えて2人で帰宅する最中に交わした会話。そんな日常の会話だった。 

 しかし――――

 「つけられている……のか?」

 不意に明が呟いた。
 「え?」と驚いてスイカが後ろを振り返る。
 しかし、誰もいない。

 「き、気のせいじゃないですか? 敵意や悪意を読み取れる明さんを尾行できる人なんて……」
 「いや、不可能じゃないさ。気配を消し、意識を薄め、周囲と一体化すれば、存在はいくらでも希薄になれる」

 「かつて、そういう人物とあった事がある」と明は言う。
 明は思い出す。「僕は山人だからね」と名乗った軽薄で希薄な人物がいた事を。

 「ほら、僕らなんて星空と比べたらちっぽけな存在でしょ」

 そんなありきたりな自虐的な言葉を飄々と言う人物だった。
 その言葉は、例え星々を相手取るような戦いですら挑まざる得ないような人種にとって認める事のできないものだ。
 だから、明と彼は戦った。
 そして、その結果――――

 明は敗北した。

 ならば、この尾行者も彼と同じような人種なのだろうか?
 かつて、明に敗北の二文字を刻みつけた、あの達人と同レベルの存在。
 ふつふつと明の中で灯った火が炎へ変化していくような感情の変化が起きた。
 以前の明にはない感情の起伏。 
 化身を解放した影響なのだろうか? 気がつけば勝ちたいと熱望する自分がいる。

 そして、その感情のまま――――

 明は地面を蹴り、尾行者がいるであろう方向に駆け出していた。

 その刹那――――

 明の目前に迫るは金属の板。――――否。
 振るわれた白刃の煌き。

 (速い) (抜刀術?) (回避? 受け?) (敵は) (太刀筋) (見事) (身長160以下) (体重は50キロ未満) (ちょんまげ? いやポニーテールか?) (女性? 男性?)

 刹那に等しい僅かな時間。それでも大量に、なだれ込んでくる情報量。
 それらを情報を解析して最良回答の選択を行う。

 しゃがみ込んだ明の頭上を剣が通り過ぎていく。
 無防備になった尾行者の腹部に拳を叩き込むとするが――――

 相手も速い。 

 すでに1歩、2歩と後ろに下がっている。
 それでも間に合うと拳を放つ明。
 ガッリともゴツリとも聞こえる異音。
 「むっ」と明は拳から伝わる金属の感触に驚く。
 尾行者は腰に帯びた鞘で明の打撃を防いだのだ。

 「いきなり、奇襲とは異世界の蛮族め!」

 尾行者は怒鳴った。 
 駆け出した明に剣を振るったのは尾行者の方だが、自分に落ち度はないと信じているかのような怒鳴り方だった。
 そして、尾行者は小柄な女性だった。 

 

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