異世界ファイター ~最強格闘技で異世界を突き進むだけの話~

チョーカー

勝者と敗者? レオの正体

 視界は青だった。
 倒れ、体を動かず、視線は空しか見えない。
 あの時、確かに触れていたはずなのに……

 倒れていたのはレオだった。
 明が放った諸手突きは胸部に叩き込まれ、胸骨は折れている。
 胸の左右に収納された両肺も強打され、呼吸を阻害される。
 『HP吸収』による回復能力を上回るダメージ。
 体がバラバラになったかのように錯覚する。

 (しかし、この場合……僕が負けた事になるのか……それとも?)

 レオはゆっくりと首を動かせる。
 その視線の先。立っている明を見る。
 だが、動きはない。 
 体力、生命力と言われる力を吸い取られ、意識を失っていた。
 失い、それでも立ち続けていた。

 吹き飛ばされて、体が動かなくなり、地面に倒れているレオ。
 立った状態のまま、意識を刈り取られた明。

 この場合、どっちが勝ちなのだろうか? レオはぼんやりと考えていた。
 そう言えば……

 500年前

 いつものようにガラスの容器の中。
 液体に満たされ、意識が表面化に浮上するのも珍しい。
 でも、その日は違った。

 「コイツが魔王の切り札? ……おい、どういうことだ?」

 誰だろうか? この研究所内で荒々しい口調の人間は今までいなかった。
 その男性の疑問に答えるように女性の声が聞こえてきた。

 「……そうね。この子はダークエルフの先天性白皮症。いわゆるアルビノね」
 「アルビノ? あぁ、白蛇とか、白いライオンか。しかし、解せないな」
 「えぇ、もちろん珍しいから研究されていたわけじゃないでしょね。なんらかの特殊能力があるはずよ」

 「……そうか」と男は僕の入っているガラスに触れた。

 (ダメ! いけない!)

 僕はそう叫びたかった。
 しかし、朧な意識は発声すらできない。
 僕に近づいた人間は不幸になると決まっているのに!?

 けど――――

 「コイツはすげぇな。 体から力が抜けていくような感覚だ」
 「ちょっと大丈夫! ゲンタカ、あんた凄い汗だよ!」
 「なに、心配はいらねぇ。少しばかり体力が吸収されているだけだ」
 「まさか! 『HP吸収』の能力者! 魔王が切り札にするはずだわ」

 「コイツは俺の力を吸収して目を覚ます。その前に名前をつけてやらないとな……NO37か。逆さにしてLEONは味気ないか。じゃ、レオだ……ワシの子供になれ!」

 完全に意識が覚醒したレオが見た男性は爛々とした眼光の持ち主だった。
 これが父と母との出会いだった。

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 (どうして、僕は昔の事を思い出したのだろう?)

 やがて、レオは1人で納得した。
 あぁ、似ているからだ……と。
 意識を失い、それでも立ち続ける姿。
 そして、意識の宿らないはずの瞳には爛々とした炎が燈っている。

 (これが、アキラ兄さん……摂津流現当主の姿か)

 不思議とその姿をレオは美しいと思った。
 それと同時に乗り越えなければならない、高い壁だと認識を改める。

 おろらく、彼は――――明は意識を失ったまま戦い続ける事が可能なのだろう。
 そのまま、不用意に近づけば、意識のないまま襲い掛かってくる。

 (さて、初めての邂逅は、まぁまぁドラマチックに演出できた。本戦での戦いが楽しみだ)

 レオは、新しい玩具を与えられた童のように笑った。

 (さて、問題は兄さんが意識を取り戻すまでに、どうやって帰るかだね……)


 

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