異世界ファイター ~最強格闘技で異世界を突き進むだけの話~

チョーカー

神聖摂津流の乱舞

 
 「私に敵意を向けたな」

 その動きはスイカはもちろん、明も反応できなかった。
 スイカの前に立つ明を迂回するような動き。
 一瞬で間合いは詰められ、握りこまれた拳はスイカに向かう。

 「ちっ」と腕を伸ばし、スイカに向かい放たれた拳を掴み取る。
 しかし――――その勢いは衰えず。
 女性の突きは、そのままスイカに接触。彼女を後方へ吹き飛ばす。

 「スイカ!?」と明は駆け寄ろうとしたが、女性が阻む。
 女性には感情がない。 敵意も悪意もない。
 少なくとも、明には感じ取れなかった。
 だから、不覚。反応が遅れ、スイカを守りきれなかったのだ。
 おそらくは――――
 スイカが放った敵意に反応して攻撃したカウンタータイプ。
 明は、感情を放てば機械人形の如く襲い掛かってくるだろう。 
 今からでも敵に背を向けて、スイカの元に走り出したい気持ちを抑える。

 「――――ッ!」と明は改めて構えなおす。 

 しかし、異変が起きる。
 体から力が抜けていくような感覚。自分の意思に反して足がガクガクと震え始める。

 (これは、毒? いや、違う)

 「何をした?」と明は尋ねる。
 当たり前だが、相手からの返事は――――あった。

 「貴方の知らない技です」
 「何者だ?」
 「貴方の知らない者です」
 「……目的は?」
 「貴方が知らなくても……いいえ、答えましょう」
 「なに!?」

 淡々と感情の込められぬ返答が変化した。

 「本家摂津流当主 国栖明を倒します。降魔摂津流当主 国栖源高を倒します。残った私が摂津流になるでしょう」

 それに対して明は――――

 「――――何を言ってるんだ? おかしいのか?」
 「人は皆狂っています。聖なる母と神は皆に平等に――――」

 話は通じない。加えて、毒――――いや、彼女の言う技か。
 その効果だろう。時間と共に意識も朦朧とし始めた。
 ならば、先手必勝。 明は前にでる。
 だが、前に出たのは同時。 タイミングを合わせられた。
 相手は両手を広げて抱きついてくる。 狙いはグラップリング。
 その向かってくる相手に合わせて拳を振るう。
 シンプルな突き。 だが、無防備な人の頭部に当たれば十分に――――殺せる打撃だ。
 その打撃が女性の顔面に向かう。
 しかし、消えた。 
 女性の顔面が消失した。少なくとも、明にはそうとしか思えなかった。
 腰を落とし、低い体勢で女性が明の胴に絡みつく。 
 胴タックルだ。
 そのまま一瞬で倒される事ない。――――そのはずだった。
 だが、それまで明に襲っていた力の消失が強まる。

 『神聖摂津流 達磨落とし』

 軽々しく明の体が持ち上げられる。そのまま、スープレックスの状態。
 地面は堅いレンガ舗装。 頭から落ちれば死は免れない。
 しかし、そのまま加速した両者の肉体は地面に激突する。

 およそ、人が出す音ではない異音が周囲に轟いた。

 地面に衝突した2人は暫く動かなかった。 
 いや、よく見れば片方だが、もぞもぞと動き出し――――
 立ち上がった。

 立ち上がったのは、もちろん女性の方だ。 
 いや、様子がおかしい。

 「無茶をしますね。あの一瞬、親指での目潰し、掌を耳にぶつけての鼓膜破り、投げから逃げるための指折り……」

 女性の片目は赤く充血しており、耳から血が流れている。そして、指は幾つか変形していた。

 「いくら俺でも殺す気で来たならやり返すさ」

 ゆっくりと明が立ち上がってきた。
 彼女の言うとおり、地面に叩きつかれるまで間、通常の格闘技なら禁じ手をされる技を幾つも繰り出して投げから脱出しようとした明だったが、完全に逃げれず地面に叩きつけられた。そのダメージは多大だ。
 いや、ダメージだけではない。 毒のように全身から力が消失したような未知の技。その効果が今も継続している。
 それよりも、そんなことよりも明の脳内を占めているのは、投げ技の名前だった。

 「なんだ? その神聖摂津流ってのは?」

 神聖摂津流 達磨落とし。 確かに、あの投げ技を女性はそう呼んだ。

 「あぁ、つい口に出しちゃった。そうだよ、僕は神聖摂津流からの刺客さ」

 そう言うと女性は、顔を隠していた前髪を左右にわけで素顔を晒した。

 「僕の名前は、神聖摂津流の国栖 獅子レオ。挨拶が遅れたけど、始めましてだね。兄さん」

 紛れもなく、その顔は『教会』の最高位指導者であったレオ聖下だった。


 

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