異世界ファイター ~最強格闘技で異世界を突き進むだけの話~

チョーカー

鍛錬 新たな物語

 修練場。
 修練場と言っても、広い草原だ。町から離れた場所に作られた冒険者の施設。
 冒険者たちは、そこで剣や魔法の練習をする。
 しかし、彼らは剣―――あるいは魔法の杖を振るう手を休め、視線を2人の冒険者に集中している。

 「あの2人が噂の龍殺しか」 「あぁ、いきなり三階級昇進は前例がないらしい」

 ぼそぼそと観客ギャラリーと化した彼らは噂話を交えている。
 そんな中、1人がこう言った。

 「しかし、なんだって2人が戦おうとしているのだ? ただの練習には見えないぞ」

 その2人――――国栖明とスイカ・ザ・ガジェットは対峙していた。

 「それではアキラさま、行きますよ」

 緊張交じりのスイカの言葉に「いつでも」と明は短く返事をする。

 スイカは背中に束ねている鞘から素早く短剣を抜く。
 ナイフよりも僅かに長い剣が七本。 
 それら七本の全てが魔剣だ。

 四大元素である『地』『水』『火』『風』の属性の魔剣に加え――――

 『聖』 『闇』 『金』 

 3つの属性で七本魔剣。

 鞘から抜かれた剣は、まるで空中に固定されたかのようにスイカが手を離しても、その場に留まる。
 そのまま、7本の短剣がスイカを中心に浮かんでいる。
 スイカが明に向かって駆け出すと、同じスピードで剣もスイカを追いかけていく。

 「まずは……これから!」とスイカは一本の剣を手にとった。

 手にしたの地属性の魔剣。
 下から上に向けて、空間を切り裂くようなモーション。
 それにあわせて、大地が盛り上がった。
 石や土が塊り、津波のように明を襲う。

 だが、しかし――――

 明は「ふん」と掛け声とともに片手をかざす。
 地属性の猛進は、それだけで左右に分かれた。

 「まだまだです!」

 どうやら、地属性はフェイントだったらしい。スイカは高く、空に舞っていた。
 おそらく、風属性の魔剣を利用した移動法らしい。
 高所を取ったスイカが次から次へ魔剣に手を伸ばし、魔法攻撃の連続を繰り出す。

 爆音。
 そして轟音。

 (手加減などしない。なぜなら、こんな攻撃――――)

 スイカの判断は正しい。なぜなら――――

 『摂津流 虚無返し』

 明に浴びせられた魔法の数々、それらは全て逸れていく。
 摂津流に飛び道具は通用しないのは、もはや常識だ。

 「だったら、これなら」

 風属性の魔剣がカマイタチを発生させる。
 明は虚無返しで軌道をずらそうとする。しかし、スイカは次の魔剣を光らせる。
 その魔剣は金属性。カマイタチは具体化した刃に変わる。
 「むっ……」と明は変化した攻撃に対応が遅れる。 

 (タイミングをずらして虚無返しを潰す。見事だ)

 珍しく、スイカを戦闘面で誉めた。だが、やはり……戦闘中に敵を誉めるのは余裕の現れだ。

 『摂津流斬撃術 五月雨杜若さみだれかきつばた

 斬撃には斬撃を。
 甲高い金属音が鳴り響き、明の手刀がカマイタチを切り落とした。

 「やっぱり、接近戦じゃないと駄目ですか!」

 遠距離攻撃を捨てたスイカが明に急接近する。その姿に明は―――

 「まるでアイススケートだ」

 スイカは水属性の利用して、地面を滑る。

 地面を凍らせる水属性。
 氷を滑るために靴下には金属性の刃。
 荒地を整えるための地属性。
 加速するため背中を後押しするための風属性。

 それは複数本の魔剣を同時使用してなし得る高速移動。

 攻撃は接近戦でないと通用しない。
 接近戦のプロフェッショナルとすら言える明には正攻法は通じない。

 (少なくとも、私の力量では……)

 弱者であるはずの自分に対して余裕は見せるが、隙もなければ、油断もない。
 だから、狙いは一撃のみ。
 明の想像力を超えた一撃。それ以外は無意味。
 スイカが選択したのは金属製の魔剣。 最後の一振りを明に向ける。

 「はっい!」と甲高い声は裂帛。

 振るった魔剣は千の刃に変わり、明を襲う。
 そして、スイカ自らも剣を振るう。

 (でも、ここまでして――――頂が見えてこない)

 『摂津流 九鬼閃雷』

 まるで予定調和のように千の刃は、あっけなく砕け散る。
 残骸は光の粒となり、再び魔剣の吸収される。

 その戦いに観客は――――

 「凄いなぁ」と魔法使い風の男性。
 相方らしき、女性剣士は頷いた。

 「そうね。極端な前衛構成メイレービルドとは言え、素手で魔法を……」
 「いや、違う。俺が言っているのは魔剣使いの方だ」
 「え? それはどうして?」
 「魔力と言っても二種類ある。1つは、体内で作られる魔力量自体を指し場合。もう1つは魔法を操るための技量を指す場合だ。あの少女……後者が規格外の魔力だぞ」

 彼の言う事は正しい。
 魔剣は所有者に無制限に等しい魔法使用権を与える。
 それは、内部に収納された魔石が周囲の『マナ』や『エーテル』と言われる魔力を吸収しているからだ。
 先ほど、金属性の魔剣によって具現化された刃が砕かれた時に現れた光の粒がソレだ。
 だが、その威力を引き出すのは使用者の力量に左右される。
 スイカの魔力は消滅している。
 それは、体内で作られる魔力が枯渇しているという意味であり、魔力を操る力量は依然として現役なのだ。

 「威圧感プレッシャーが変わった。彼女、何かするつもりよ」
 「あの魔剣は……アイツ、『聖』と『闇』の魔剣の同時使用をッ!?」

 観客たちが驚くのも当然だ。
 スイカは聖属性と闇属性の魔剣を同時に鞘から抜いての二刀流。

 相反する属性。反発する力は、既存の魔法を越えて――――
 新たな領域を引き出していく。

 「我は聖と闇を用いて、世界に挑む者なり。異なる力は1つ鍵に――――開け!」

 さらに詠唱の後押しを受けて魔剣は強化されていく。
 それを前に明は――――

 (あれを避けるのは容易い。――――だが!)

 スカイから発せられる感情に敵意や悪意はない。
 感じられるのは信頼のみ。 明なら、この程度の攻撃で怪我なんてしないという膨大すぎる信頼。

 「ならば、その気持ちから背を向けれないな。受けてやる!」

 魔剣からは発せられたは眩いばかりの閃光。その光は、まるで世界を覆うように広がっていく。
 その光は神々しい。
 しかし、どんなに美しくとも、それは攻撃であり、目的は破壊。
 破壊であり、破壊でしかない。
 だが、それは一瞬の出来事。それを放射させれた明は――――
 両手を広げ、まるで愛しい物を抱きしめてように光を――――

  『摂津流 化身+金剛石』


 

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