異世界ファイター ~最強格闘技で異世界を突き進むだけの話~
教会の地下に潜む者
「人界との和平交渉は1週間後に発表される。実際に代表者同士が話し合うの1ヵ月後……そこでデカイ花火を上げる予定じゃ」
「花火だって?」と明は尋ねるも、源高は「くっくっく……」と笑うだけだった。
こうして、明とスイカは町に戻る事になった。
その後ろ姿を見ながら――――
「本当によろしかったのですか?」
「あん? 何のことだ、トーヤ?」
「魔王様の魔力であれば、御子息を元の世界へ戻すも、あのスイカという女性の魔力を取り戻す事も簡単な事では?」
「そうだな……」と源高は明との戦い。
そして、その直後の会話を思い出した。
「あのスイカという少女だが……おそらくは水夏の生まれ変わりだぞ」
「なに!?」と明は飛び上がるが如く驚きを見せた。
「輪廻転生の中で、あの子自身がお前を召喚する媒体となり、お前との縁と引き当てた……と言ったところだな」
「親父、すまないが分かりやすく。頭が痛いや……」と明は額を押さえた。
「どうだ? あの子もまた水夏に違いない。お前もこっちの世界に永住する気は……」
「ないね」
明は笑顔で言った。
「輪廻転生しても俺を求めるほど、強い縁があるっていうなら、必ず帰らないとな」
「そうか……。だから、お前は」
「女に甘いって? そういう性分だ。直らないね」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「まぁ、こちらの世界とあちらの世界。ワシくらいになると移動は容易いのだが……」
「?」と疑問符を浮かべるトーヤを横に源高は――――
「トーヤ、これから忙しくなるぞ。 和平交渉が成功したら……」
「はい、例の計画は着々と進んでいます」
トーヤは深々と頭を下げた。
そんなこんなで町に戻った明たちは――――
「本当ですか? ドラゴンを倒したって!」
ギルド内に受付嬢――――オリオ・シュエルの声が響いた。
周囲の冒険者も「何事か?」「ドラゴンと倒しただと!」とざわめきが生まれた。
「確かに本当だが、どうしてそれを?」
「依頼主さんから連絡がきました。 成功報酬と一緒にこれが送られてきました」
ドンとカウンターに置かれたのは、巨大な鱗と爪だった。
「うむ……ついに蹴り剥がすことは叶わなかったが、関節技を仕掛けたときに落ちていたのだろうか?」
「こ、心当たりがあるのですね。では……本当に?」
「あぁ、ドラゴンと倒したのは本当だ。もっとも殺してはいない。痛めつけて追い払っただけだ」
「ドラゴンを痛めつけて……追い払った……」とオリオは信じられないと明の言葉を繰り返した。
それから――――
「えっと、当ギルドとしましては、龍殺しの冒険者に敬意を表して、それに相応しい階級を与える事が決まりました。おそらくは2階級特進……いや、白階級の冒険者ではあり得ない偉業ですから、階級の昇進も前例がないものなるでしょう」
「少し、まどろっこしいな。結局、大幅に階級があがるって事で良いだろ?」
「は、はい。そうなります」
「よかった。これで、レベルが上がりやすい依頼が受けれるな」と明はスイカに話しかけた。
「えっ? 私も階級があがるんですか?」
「もちろんです。2人だけのパーティで龍殺しは快挙ですよ」
「でも、私は何も……ぐっもぐもぐ!」
「私は何もしていない」と正直に話しかけたスイカの口を明が塞いだ。
「正直に話して昇格を断るのは、もったいないだろ」と小声。
「もったいない……ですか?」
「あぁ、パートナーで格差が生まれたら、今後にも響くだろ?」
「パートナー……今後……」となぜか、スイカの顔が赤くなった。
また良からぬ妄想を公然の前で披露しようとしているのだろう。
「それでは、良しなに」とスイカの首根っこと成功報酬を掴むと明はギルドを後にした。
「いけません! アキラさま! そんなにポンポン卵を産んだら、アタイ、ミイラになっちゃうううううううう!!」
「一体、妄想の中でお前の身に何があったんだ!」と明のツッコミでスイカは正気を取り戻した。
「あれ? ここは一体? 私は確か……」
「ギルドで正気を失った事を覚えているか?」
「ギルド? いいえ、私は確か、爬虫類になるエキスをアキラさまから飲まされて淫らな行いを……」
「俺に、そんな性癖はない!」
「あれ? そうでしたけ? いえ、やっぱり、そんなはずは……あれ? ここは教会ですか?」
スイカは周囲を見渡す。
内外共に白を基調にした空間。その真ん中は、ゴッシック建築を連想させる建物。
神聖さを意図として醸し出している。
「あぁ、貢献度とやらでレベルが上がるなら、ドラゴン退治で十分だって話を聞いたからな。しかし、人が多い場所だな」
冒険者らしき人間も多少は見えるが、それ以上に多いのは普通の人たちだ。
老若男女、職業も様々のように見える。
「最近、聖下さまが滞在されてますので、一目でも姿を見たいと集まっているみたいですね」
「へぇ~ 聖下さまね」と明は興味がないように返事を返した。
やがて、明たちの番が来て、中に入ると――――
「――――ッッッ!?」
明は足を止めた。
「どうしたのですか? アキラ様?」
しかし、明は答えない。
険しい顔で地面を睨み付けている。
その理由は――――
(いる。この建物の地下に――――規格外の怪物が……)
その明が睨み付ける地下――――地下350メートル。
そこには水槽があった。 液体で満たされた水槽には人間のものらしき脳が浮かんでいた。
―――ドックン――――
その部屋全体が揺さぶられるような音がした。その音は、まるで人の心音に似ていて――――
水槽があったはずの場所に少女が立っていた。
「久しぶりです。枢機卿」
そんな少女に対して片膝をつきながら頭を下げる若者が1人。彼こそが『教会』の象徴であり、最高位指導者であるレオ聖下だった。
その聖下が、どうして補佐である枢機卿に頭を下げるのか? それに、世間で公開されている枢機卿に彼女のような少女は存在していない。
「頭を上げなさい。レオ……私のかわいい息子」
「……はい、母上」
少女に撫でられ、レオ聖下は頭を上げた。
「報告いたします。母上が予想していた通り、魔王は人界に対して和平交渉を予定しています。今からの阻止は不可能かと……」
「構いません。私と貴方の目的は、ただ1つです」
「……我が父の首……ですね」
「その通りですよ、かわいい我が子よ。あの男は必ず、この国を乱します」
「しかし、信じられません。和平を成し遂げた直後に、本当に……」
「えぇ、あの男は必ず予告します。今までそうでした。これからもそうです」
「では、本当に武術大会を開始する……と?」
レオ聖下は信じられないと首を横に振った。
「信じられないかもしれませんが、あの男はそういう男です。教会は賛同協賛として支援しなさい」
「はい、その戦いに私も参加して、必ず父を――――国栖源高を打ちます」
レオの瞳に強い意志が炎のように宿っていた。
「そうです。そこで高らかに、貴方の本当の名前――――国栖レオを名乗るのです」
「その日こそ、本当の私が生まれる日――――母と父の名前に誓って」
レオは心臓を掴むような動作をして、頭を下げた。そして、この地下室から出て行く。
――――ドックン――――
またも心音のような音がして部屋はゆれる。
すると少女の姿は消え、水面が揺れる水槽が戻っていた。
しかし、何処からともなく女性の声が聞こえてくる。
「勝ちなさい、レオ。勝って母の子供だと証明するのです。でないと――――」
――――ドックン――――
「この心音の主。教会の下に潜む絶対的な神を目覚めさせねばなりません」
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