異世界ファイター ~最強格闘技で異世界を突き進むだけの話~

チョーカー

『化身』VS『化身』 免許皆伝終了 

 体が可動領限界まで捻られる。
 僅かなタイムラグがあり、首に巻きついた腕に力が込められていく。
 うつ伏せになり、土を見ていたはずの視線は風景を回転させ、青い空へ向かっていく。
 ――――否。 向かっていくの死。
 ならばどうする? ならば――――

 『摂津流 化身』

 その直後だった。
 バッキと枯れ木が割れるような甲高い音が響いた。
 明が動きを止める。 源高も動きを止めた。

 膠着状態? ……なのだろうか?

 1秒、2秒、3秒……

 1分経過して、ようやく1人が動き始める。
 のそのそと緩慢な動作で立ち上がったのは――――源高だった。

 しかし、様子がおかしい。
 大量の汗が体から流れ落ちている。――――いや、そんな事よりも、注目すべきは奇妙に捻じ曲がった腕だった。

 「見事な『化身』だったぞ。明よ」

 源高は腕を押さえて、明を見る。
 その視線の先、いつの間にか身を正して胡坐をかいている明がいた。
 頭は垂れ、視線は地面を向いている。

 彼は首をへし折られる直前、源高の腕を引き剥がし、そのまま折ったのだ。
 しかし――――

 一体、どうやって?

 不完全だったとは言え、首絞めを腕力で引き剥がす事はほぼ不可能だ。
 だが、不可能を可能にしたのは2つの『化身』……明と源高の両者が『化身』状態だったためだ。
 『化身』によって強化された源高が繰り出す強烈な捻り。
 それに対して明は逆らう事をせず、自らも体を捻りながら源高の腕を剥いだのだ。
 両者の動きのベクトルが一致した事で、源高の腕には、従来ではあり得ない力が集中したのだ。

 さらにそれには、明の『化身』が持つ特異性が必要だった。

 明が使う『化身』は、体を巨大化させて力を増すのではなく、外部へ盛り出そうとする気をさらに内側へ。つまり、『化身』を自身のスピードを強化させるために使った。
 しかし、速度スピードとは膂力パワーから生み出される。
 つまり、速度=力なのだ。

 余談ではあるが――――

 ボディビルダーの動きはイメージと違い素早い場合が多い。

 なぜなら、ボディビルダーは速さに特化した筋肉――――速筋を鍛えているからだ。 
 瞬発力。瞬時に動くための筋肉は、より太く、よりデカくなる性質があるため、ボディビルダーは好んでこの筋肉を鍛えているのだ。

 ――――いや、話を戻そう。 

 つまり、より強化されたスピードには、より強化されたパワーがついてくる。

 この力により、明の首に巻きついた腕は剥がすと同時に、真っ直ぐに伸びた源高の腕に自身の腕を巻きつけて――――

 『ストレートアームバー』

 源高の腕を破壊したのだ。

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 「これで、元当主としてお前に教えれる事は全て果たした」
 「……親父」
 「いや、ワシの代で命題とされた技は……まぁ、いいか。法律的に、死んだ事になったわけだしな」
 「……親父ぃぃ」
 「同じ言葉であからさまに非難するんじゃねぇぞ」

 源高は同じ口調のまま、「これで心残りはない」と続けた。
 その、まるで憑き物が落ちたような晴れ晴れとした父の表情は明を不安にさせた。 

 「親父、まさか武道家として、このまま隠居するつもりなのか?」

 隠居も何も、当主の座を明け渡すという事は、そういうことなのだが――――
 しかし、自分が当主になったのは源高の事故による偶発的な出来事によるものであり――――
 本来なら、今もまだ源高が摂津流当主のままで自分が当主になるのは何年も先になっていたはずだ。

 その負い目を明は感じていたが――――

 「ばぁか~」とアッカンべーと舌を出された。

 「親父、何を?」
 「あん? 決まってるだろ?」
 「?」
 「摂津流の当主はお前に任せた。だから、ワシはワシで新しい摂津流――――『降魔摂津流』を立ち上げさせてもらうぞ。くっくっく……『摂津流』の本家として、袂を別れた元『摂津流』のワシを止めて見せろ」

 そう言いながら、豪快に笑う父親を前に明は――――

 (そうだったな。親父は、そういう奴だったな)

 内心、安堵すると同時に不安になるような――――

 加えて愉快な気持ちになっていた。

 本来ならば、これが親子の決別になるはずなのだが――――
 両者ともに、一片の敵意も悪意もない。

 世にも珍しい決別だった。
 

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