異世界ファイター ~最強格闘技で異世界を突き進むだけの話~

チョーカー

『化身』が解けて~


 明は思い出していた。

 父である国栖 源高が死んだ日の事を……
 交通事故と言えば良いのだろうか? 父はトラックと衝突して亡くなった。

 モンスタートラック

 4トンの車体に1500馬力のエンジンを持つ怪物。モータースポーツ専用のトラックだ。
 タイヤの大きさだけでも成人男性の背丈と変わらないほどデカイ。
 その巨大なタイヤで普通車を破壊しながら進み、さらに華麗に宙を舞う。

 その怪物退治に父は挑んだ。
 なぜなら、摂津流の当主には命題が課せられているからだ。

 『当主でいる間、必ず新たな摂津流の技を生み出す事』 

 進化を止めた武術は死んだ武術だ。
 時代に対応して、常に進化し続ける。それが武術が行き続けるということ。

 父は、その命題に答えようとした。

 今となっては、どのような技を生み出そうとしていたのかわからない。
 唯一わかっているのは、突進するモンスタートラックを制するほどの技だ。
 そう……父は、新技を生み出すためにモンスタートラックを自身に向けて走らせ、父もまた――――
 モンスタートラックに向かって走っていった。

 間合いは詰まり、距離は0となる。その瞬間、父の肉体が発光した。 
 てっきり、俺と兄弟子は父の新技だと思った。
 しかし、光がその場にいた人間の目を眩ました後、どこにも父の姿はなった。

 行方不明。

 父はモンスタートラックに撥ねられ、遺体も見つからないほど損傷。
 バラバラになったのだと、結論付けられた。
 もっとも、父を知る人間は誰も父の死を信じていなかったが……。


 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・


 はて?
 どうして俺は父親の事を語っているのだろうか?
 確か、俺はトーヤ・キリサキとの戦っていた。
 意識が失うほど、強烈な打撃と受けた記憶は……ない。
 たしか……そうだ。 スイカだ。
 彼女がトーヤの一撃――――『虚無』をマトモ受けてしまったのだ。
 その後、俺の記憶がなくなっている。

 いや、完全にないわけではない。
 黒い影。 ソイツが俺に『虚無』を放っている。
 当然ながら、摂津流の当主である俺に『虚無』は利かない。
 ……あれ? 俺は誰と戦っている? トーヤではない?
 この黒い影は誰だ? いや、ちょっと待て……

 『虚無』が燃えているだと!?

 火球と化した『虚無』が俺に向かってくる。
 俺はそれを腕で弾いた。 だが、弾いた瞬間に炎の勢いが増す。
 まるで閃光弾のように視界が閉ざされた。

 次の瞬間、殴られた。
 下から上に顎が跳ね上がっていく。
 悔しさという感情が爆発的に俺の内面を染めていく。

 (バラバラにしてやる!)

 暗黒の感情が殺意を生み、行動に力を与える。

 (それはいけないこと。 駄目な事のはずなのに……)

 なぜだか、少しだけ心地良い。
 感情のまま、体を動かす。どうして、そんなシンプルな事をやってこなかったのだろうか?
 こんなにも気持ち良いことなのに……

 だが、それも唐突に終わった。

 衝撃

 俺の力の源。
 感情の原水が途絶える。

 ぼやけていた視線が晴れていく。
 目前にいた人物と目が合う。 そこにいたのは信じられない人物だった。
 死んだと思われていた親父が立っていた。

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 「目が覚めたか? 愚息よ」と源高は軽く言う。
 久々の再開とは思えない軽さ。しかし、それが明が知る父親――――源高という男だ。

 「どうして、親父がこんな所に?」
 「けっ、気楽なもんだぜ。覚えてないだろうが、お前は『化身』で暴れまわっていたんだぞ」
 「俺が?……『化身』で……あっ!」
 「自分の事より女の心配を優先するのは昔のままだな。そう心配すんな。お前さんのツレは、スヤスヤと気持ちよさそうに寝ているよ」

 源高が指差すと確かにスイカが目を閉じて寝息を立てていた。

 「良かった……でも親父」
 「あん?」
 「どうして、俺が『化身』を? それに、どうして親父がここに?」
 「おう、面倒だな……だが、一から説明してやるよ。とりあえず、トーヤの住居へ行くぞ」
 「トーヤ? そう言えばアイツは……」

 「はい、ここに」と声がした。
 見れば、トーヤは肩膝を地面につけ、頭を下げている。

 「魔王さまのご子息さまを試すような真似をしてしまいました。望むのであれば、どのような罰でもお受けしましょう」

 関西弁で消えていた。
 それどころか、まるで忠誠を示すような態度に躊躇を覚える。

 「トーヤ・キリサキはワシの弟子よ。立場的にはお前の弟弟子おとうとでしになる。まぁ、同門同士の組み手だ。許してやれよ」

 その源高の言葉に明は首を横に振る。その理由は――――

 「……いや、許す、許さないのを決めるのは俺じゃない」と明はスイカの方をみた。

 「彼女が許すなら、俺は許す。もしも、彼女が許さないといえば俺は――――」

 しかし、途中で源高が茶々を入れた。

 「かっぁ、普段は感情がフラットのくせに、女の事となりゃ、『化身』の使用も辞さないってか」

 「……」と明。
 「……」とトーヤ。

 2人とも、殺伐とした雰囲気を意図的に源高が壊したという事がわかっているのだ。


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